上 下
60 / 62
5.雨

5-12

しおりを挟む


「いくぞ! せーの!」
大雨に打たれながら砂原は力の限り石を押したがビクともしない。時折、雷が光って轟音がする。

「これ…無理なんじゃね?」
砂原は弱音を吐いた。

「大丈夫! いい感じになってきた! あと一押し!」
声は自信満々に言った。

―いい感じって…全然そんな風には見えないけど…

「さあ、力を振り絞って!」
声に従って砂原は思いっきり力を込めた。

「うおおおおおおおお」
なんと石は吹っ飛んでいった。

「…まじか…俺…すごくない?」
砂原は呆気にとられた。

「ありがとう。」
振り返ると、爽やかな青年が砂原に微笑みながら立っていた。

「…あんた…どっから出てきたの?」

「どっからって…」
男は地面を指さした。

―本当に岩の下にいたのか?
砂原は首を傾げた。

「助けてくれた君にお礼をしたいところだけど時間がない。急いで行こう!」

「行こうってどこに…って俺も?」
砂原が話終わる前に男は砂原の手を引っ張って走り出した。

「…ここは…森だったのにな…」
男は走りながら呟いた。

「え?」

「今は、自由な世の中かい?」
男は目を細めて砂原を見た。

「えっと…まあ、自由なんじゃないスかね…。」

「そうか…なら良かった。」
男は笑顔で言った。

「あんたノンキに笑ってっけど、こんな大仕事、普通ラーメン10杯奢ってくれるっていってもしないよ!」
砂原は恨めしそうに言った。

「じゃあ、11杯は奢らないといけないわけだ。」
男はハハハと笑った。



 砂原と男は繁充と女生徒が会っていた店の軒下へやって来た。

「あんたが来たかったのって、ここ? 誰もないし…」
砂原はキョロキョロと辺りを見回した。男は宙に手をやって何かを探していた。

「何してんの?」

「…まだかすかに感触がある!」
男はぐいと空間に手を入れると肘から先が消えて無くなった。

「ちょ、ちょ、ちょっとあんた! 腕が!」
砂原は怯えて後ずさりした。

「硬い! 君も手伝って!」

「手伝ってって言われても…」
訝りながらも砂原は男が手を入れている所を覗いた。するとそこには不気味な空間が現れていた。

「何なの、これ?」
砂原は中を覗いてみた。すると中には繁充と、繁充の手を引っ張りながら泣き喚いている綾女がいた。

「繁充…。立川さん!」
砂原は男を手伝ってその空間を思いっきり引っ張った。すると人が入れるくらいの空間が出来た。

「ありがとう!」
男は微笑みながら砂原に礼を言うと、その穴の中へ入って行った。

「ちょっと待ってよ! 俺も!」
砂原も男の後を追った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

夜食屋ふくろう

森園ことり
ライト文芸
森のはずれで喫茶店『梟(ふくろう)』を営む双子の紅と祭。祖父のお店を受け継いだものの、立地が悪くて潰れかけている。そこで二人は、深夜にお客の家に赴いて夜食を作る『夜食屋ふくろう』をはじめることにした。眠れずに夜食を注文したお客たちの身の上話に耳を傾けながら、おいしい夜食を作る双子たち。また、紅は一年前に姿を消した幼なじみの昴流の身を案じていた……。 (※この作品はエブリスタにも投稿しています)

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

嘘を吐く貴方にさよならを

桜桃-サクランボ-
ライト文芸
花鳥街に住む人達は皆、手から”個性の花”を出す事が出来る 花はその人自身を表すものとなるため、様々な種類が存在する。まったく同じ花を出す人も存在した。 だが、一つだけ。この世に一つだけの花が存在した。 それは、薔薇。 赤、白、黒。三色の薔薇だけは、この世に三人しかいない。そして、その薔薇には言い伝えがあった。 赤い薔薇を持つ蝶赤一華は、校舎の裏側にある花壇の整備をしていると、学校で一匹狼と呼ばれ、敬遠されている三年生、黒華優輝に告白される。 最初は断っていた一華だったが、優輝の素直な言葉や行動に徐々に惹かれていく。 共に学校生活を送っていると、白薔薇王子と呼ばれ、高根の花扱いされている一年生、白野曄途と出会った。 曄途の悩みを聞き、一華の友人である糸桐真理を含めた四人で解決しようとする。だが、途中で優輝が何の前触れもなく三人の前から姿を消してしまい――……… 個性の花によって人生を狂わされた”彼”を助けるべく、優しい嘘をつき続ける”彼”とはさよならするため。 花鳥街全体を敵に回そうとも、自分の気持ちに従い、一華は薔薇の言い伝えで聞いたある場所へと走った。 ※ノベマ・エブリスタでも公開中!

処理中です...