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6 全く性格の違う菜々子と夏子が入れ替わった! 会社は? 夫婦生活は? どうすればいいのよ~!
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しおりを挟む「私たち、完全オーガニックにこだわっていて、実際に作っている者でないと分かりにくいかもしれないんですけど、かなり手間暇かかっていて…その…費用も…決して安くは無いんです。」
山川さんは言いにくそうに言った。
「そう。鈴原さん。ご夫妻の丁寧なお仕事がこの素晴らしい品質を保っているんだ。僕はこれでもすごく安くしてくれていると思っているよ。」
社長は私を諭すように言った。
「じゃあですね、余所と提携してもっと大規模に栽培するというのはどうですか? 人的にも費用面でも助かると思いますし、大量に作ればその分価格も安くできるでしょうし、山川さんの利益も増えると思います。正直、けっこう大変なんじゃないですか? 都会から脱サラして田舎に移って農業始める方って多いですけど、軌道に乗せるのはなかなか難しくて失敗する人多いって聞きますし…」
「鈴原さん!」
私の説得を遮るように社長が叫んだ。
「すみません! 僕の指導がいたらなくて山川さんに失礼な事を…」
社長は頭を下げた。
「鈴原さん、謝って!」
社長は今まで見たことないような顔で私に強く言った。
「そんな、いいですよ。」
山川夫妻はそう言ったが社長は聞き入れもしなかった。
「鈴原さん!」
「…失礼な事を言って…本当に申し訳ありませんでした。」
私は社長の気迫に負けて頭を下げた。帰りの車の中もしばらく無言だった。普段有り得ない社長の行動に私は苛立った。別に悪いとも思っていない。規模を広げて人を増やしたら楽になるんじゃないの? それはあの夫妻の為でもあるじゃん!
何も言おうとしない社長にも苛立っていたら、社長がポツリと呟いた。
「鈴原さん…さっきはその…声をあらげちゃってごめんね…。」
「…私、悪いと思ってませんよ。意味がわかりません。」
「いきなり山川さんのとこに行くなんて思ってなかったから、僕が説明してなかったのが悪かったよ。実は…山川さん夫妻は、単に田舎暮らしに憧れたわけでは無くて、親に見捨てられたり、非行に走ったり、いろんな事情で社会と関りを持ちたくなくなっている子供たちの社会復帰の第一歩になれれば、という思いであの農場を始めたんだ。あの農園で働いてくれた子には、それに見合う金額を渡したい。そして、その子たちの自信に繋がるような素晴らしい物を生産したい、そういう想いがあるから、簡単に事業提携して大量生産なんて出来ないんだよ。いや、したいとも思っていないんだ。そしてあの価格は適正だと思う。僕、思うんだけど、オーガニックの物ってたくさんあるけど、何故山川農園の物が他と違って特別なのかって、夫妻のそういった想いが根底にあるからなんじゃいかな…。僕自身、山川夫妻のそういう活動も丸ごと含めてあの農園を応援したいんだ…。」
「…そんな…そんな事、最初に言ってくれれば良かったじゃないですか…。私…まるで商業主義に毒された悪者みたいじゃないですか…」
「ごめんっ! 鈴原さん、立場上、山川さんたちにあんな風にしか言えなくて…。部下をそんな気持ちにさせるなんて最低な社長だね。鈴原さんを悪者みたいにさせちゃって、本当にごめんなさい。鈴原さん悪く無い! 会社と新しいプロジェクトの事思って言ってくれたんだもん! 完全に僕が悪いから! 僕が極悪人だから!」
社長は必死で謝って、私をフォローしてくれた。
何故かその時、涙が溢れ出てきた。これは一体何の涙なんだろう。考えて見たら、私は今まで人から怒られた事が殆ど無い。誰もこの私を叱れる人間なんていなかった。ケンカ吹っ掛けてこようもんなら倍返ししてたくらいだから…。でも…こんなに正論言われると、何も言えなくなっちゃうじゃない! 後から後から溢れ出て止まらない。肩まで震えてきた。
「ごめんっ! ごめんっ! 何も説明してなかった僕が悪いんだ! 鈴原さんは悪く無いよ! ほんとにごめんね。」
社長は必死になだめてくれた。
「…元はといえば、僕が頼りなかったせいなんだ。一度却下されたくらいで諦めて…。僕は心を入れ直すよ。会長に納得してもらえるように、何度でも挑んでみる! 鈴原さん、これからは僕に何でも頼って! 僕、戦うから!」
…何故だろう?
私…きっと目がおかしくなった。
…いや、頭がイカれた?
事故の後遺症が今頃きた?
社長が…社長がカッコよく見える!
社長は何か決心したように、社に戻るとそのまま会長室へ向かった。私と若村も後を追っかけて行った。社長がドアを開けると会長と専務が話しているのが見えた。
「…何だいきなり。今、大事な話をしているところだ。出直しなさい。」
会長はあからさまに嫌そうな顔をしてそう言った。
「会長! 僕はこの会社の社長です。今回の件は、僕の裁量でやらせてもらいます。責任は全て僕が取ります。」
社長が大きな声でそう言うと、専務は目を丸くして社長を見た。会長は眉間に皺を寄せて社長を睨みつけている。
「責任は取れるのか? お前一人の会社じゃないんだ。社員の生活がかかってるんだぞ!」
「絶対に成功させてみます!」
「…勝手にしろ。」
「ありがとうございます!」
社長は深々と頭を下げた。私はその時見逃さなかった。会長の目がほんの少しだけ、息子の成長を喜ぶ父親の目になっていたことを…。
「鈴原さん! 若村君! さっそく会議だ!」
社長は会議室へと向かって行った。
その後ろ姿は相変わらず無様で、ワイシャツがズボンから少しはみ出している。まったくただでさえ小太りなのにだらしない…。でも…でも…、さっき感じたことは間違いでは無かった。私はどうやら完全に頭がおかしくなったようだ。
…社長がカッコよく見える…こんな小太りで冴えない男なのに…
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