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6 全く性格の違う菜々子と夏子が入れ替わった! 会社は? 夫婦生活は? どうすればいいのよ~!
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しおりを挟む「だいたいさぁ、あんだけ文句言いまくったら俺の立場、余計悪くなるって思わなかった?」
「…ごめんなさい。」
帰り道、遥人君が呆れたように呟いた。遥人君の担任の先生の物言いが許せなくて、私の怒りが爆発してしまったのだ。遥人君の事、よく知りもしないであそこまで言うなんて酷い。…って、私も遥人君の事、全然分かってないけど…。でも…この子の何気ない仕草や目を見たら、そんなに悪い事を出来るような子じゃないって思う…。
「…でもさ…、夏子が先生に怒鳴ってくれて…ちょっと嬉しかった。」
遥人君はそっぽを向いて小さく呟いた。横を向いていても照れているのが分かる。もしかしてこれは…私に心を開いてくれ始めたのではないだろうか? 私は嬉しくなって、思わずいつも大輝にするように彼の腕に手を回して肩に頬ずりした。
「ひっ! 何すんだよ!」
遥人君は飛び跳ねた。
「ご、ごめん!」
私は頭を下げて謝った。
「…あんた…ほんとに夏子? 人が変わったみたいだな…」
「…そ、そうですか? 気のせい…だよ。」
だめだな、私。昔から嘘と演技はヘタクソだった。このままちゃんと夏子としてやっていけるのかな…。不安でしかない…。とにかく、遥人君の事をもっと知らなくちゃ! 私は今、保護者代理なのだから!
「あのさ…聞いてもいいかな? さっき、先生が言ってたこと…。」
「…あれは…」
遥人君は困ったように眉間に皺を寄せて俯いた。私はその横顔を見て、立ち入ってはいけない事なのだと察した。
「ごめんっ! いいの! 誰にだって言いたくない事あるもんねっ!」
「…ママに会ってたんだ。」
遥人君は小さく呟いた。
「お母さんだったの! なんだ、それなら堂々としてればいいじゃない!」
「…だって…あんたも尚之兄ちゃんから聞いてるだろ? また男にフラれたって…飲み屋から飲んだくれたママが迎えに来てって電話してくるんだ。もうウンザリだよ! だけど…放ってはおけなくて…。でも…あんな母親に…会ったりしてるの知られたくないし…だから…誰にも言わなかったんだ…」
「そうだったんだ…」
この子は、まだ中学生なのに…この年でいろんな物を背負ってきたんだ…。きっと…母親の感情のゴミ捨て場にされているのだろう…。私は遥人君を抱きしめてあげたくなった。
「今晩…何作ろうか?」
「今日も夕飯作ってくれるの?」
「迷惑かな? 何か取る?」
「いや、全然。昨日のスパゲティ―も美味しかったし、朝ごはんも弁当も美味しかった。」
「ほんと! 嬉しい!」
性懲りもなくまた遥人君の腕に飛びつきそうになったけど、彼はそれを察して素早く身をかわした…。
「…正直言うと、飽きてたんだ。買ってきた料理に…。昔の夏子は料理なんか全くしなかったしね。」
「そうだったんだ…ごめんね。これからは出来るだけ作るね。私、そこのスーパーで買い物してくるからさ、遥人君一緒に来る? それともその辺のカフェでも入って待ってる?」
「じゃ、そこのカフェにいる。」
「わかった。すぐ済ませるから待っててね!」
私は駆け足ですぐ近所のスーパーに入った。急いで必要な物を買うと、遥人君の待っているカフェへ向かった。その時、止まっていた車のドアが開いたかと思うと、ぬっと手が出てきて私の腕を掴んだ。その手の主は全然知らない男だった。きっと同年代くらい。黒いパーカーのフードを被って、サングラスをしている。
「ちょ、ちょっと! 離してください! あなた誰なの?」
「…おまえ、俺の事忘れたの?」
男はそう言うと、私の手をグイっと引っ張って車の中へ引きずり込もうとした。
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