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6 全く性格の違う菜々子と夏子が入れ替わった! 会社は? 夫婦生活は? どうすればいいのよ~!

2 菜々子→夏子

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 …話は今朝に遡る…

 私は高校を卒業して、地元の大手スーパーチェーンに就職した。私の仕事は社長秘書、と言えば聞こえがいいけど、実際は雑用。社長の秘書業務はもちろんだけど、商品のポップも制作するし、取引先に出向いたりもする。その他、備品の補充、電球の取り換えから床のモップかけ、トイレ掃除、さらにお客様が来たら当然お茶出し。そして店舗で欠員が出た時は、商品の品出しやレジ打ちまでやる。この間は会社の周りの草むしりもした。そう、私は何でも屋さんなのだ。

うちの会社の社長は少し前に就任した二代目で、創業者である前社長が会長となり、その息子が今の社長だ。会長は一代でこの会社を築いただけあってかなりのヤリ手だけど、息子の社長はボンボン育ちなので、なんだかんだ言いつつも未だに実権は会長が握っている。社長とは名ばかりで、彼の主な仕事と言えば、各店舗を視察して回る事くらいだ。よって、社長付きの秘書である私の仕事はあまり無く、そのせいで、あちこちの雑用が回ってくる。全くいい迷惑…。でもしょうがない。学歴も資格も、何の特技も無い私を雇ってもらえているだけでもありがたい。頑張ろう。



 その日は出社してすぐにお使いを頼まれ、取引先の契約農場へ向かうことになった。足取りが重い…。さっき、トイレに入っている時、先輩たちの立ち話を聞いてしまったせいだ。

「よかった~、私、リストラ候補から外されてて!」
「ほんと! 心臓に悪いったらないよね! でも…菜々ちゃん…可哀そう…。今、景気悪いから再就職難しいよね…。」
―え? 私…が…再就職って?
「可哀そうだけどさ、あの子まだ若いし大丈夫だよ。私たちなんて、この年で追い出されたら完全に無理でしょ! 申し訳ないけど、誰かが犠牲にならないと会社もろとも共倒れになっちゃう…」
「…そうだよね…。うちの会社、業績悪化してるし、しょうがないよね。」

私…リストラされるの? そんな…そんな!


 先輩たちがトイレから出ていくのを見計らって外に出た。足が震える。とてもじゃないけど仕事に集中なんて出来ない。いくら若いって言ったって、私にだって家庭の事情というものがあるのに…。 でも悩むのは後回し! しなければならない事は山積みだ。とにかく取引先に行かなければ…。
「鈴原さん!」

社長から呼び止められた。後頭部の髪が寝ぐせで跳ねている。そしてシャツの後ろがズボンに収まっていなくて、だらしなくはみ出している。そんなこと全く気付いていない様子で社長は私に微笑みかけた。悪い人では無いんだけど…きっとそういうとこなんだろうな…。ボンボン育ちのせいなのか…注意してくれる人が誰もいないのか…そもそも社会人なんだし、身だしなみなんて自分で気を付けないといけないのに…。こんなだらしなさが仕事に反映してるんだろうな…。

「今日、仕事終わって何か予定ある?」
「…予定…ですか…?」
「あ、あの…もし空いてたらさ、魚の旨い店があって…その…食事でもどうかなと…思って…」
ま、まずい…

何故か社長は私に好感を持ってくれているようで、過去にも何度か誘われた事がある…。その度に何だかんだと理由を付けかわしてきたのだけど…どうしよう…。その時、横の扉が開いて、部長が出てきた。
「部長! そうそう! 部長、お魚大好きですよねっ! 社長! 私なんかより、魚通の部長と行かれた方が魚談義に花が咲きますよっ!」
「い、いや…僕は別に魚談義がしたい訳では…」
「わ、私、急ぎの用があるので、失礼しますねっ!」


部長に社長を押し付けて、私はその場を駆け足で去った。社長の事…嫌いとかじゃないんだけど、そういう目では見れない…。あぁ、難しいなぁ…。私は仕事をしたいだけなのに…。社長を傷つけず、好意を向けられないようにするには、どうしたらいいんだろう…。って…私どっちみちリストラされるんだもん…そんな事、考えなくてもいいのかな…。



 私は外回りをする時は、いつも同じ車を使わせてもらっていた。白の小さな軽自動車。後ろと横に会社名がデカデカと入っているのは全車同じだけど、普通の乗用車だと小回りが利かないので、運転の苦手な私はいつもこの車を借りているのだ。が、しかし、今日はその車の鍵が無かった。誰かに先を越されたようだ。しょうがなく他の車に乗って行くことにした。車に乗り込むと、妙な事が起きた。なんと車がしゃべりだしたのだ。
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