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今晩会えないかな? 話があるんだ。
仕事中、花蓮のケータイに弘人からメッセージが入った。
花蓮は仕事が終わると、弘人が指定したレストランへ向かった。
時間よりだいぶ早く着いたのに弘人は先に来ていた。
「早かったんだね。」
「いろいろ切り上げてきた。」
「外、すごいね!」
壁いっぱいの窓の外に、みなとみらいの夜景が広がっていた。
「きれいだな。」
「うん。」
「…花蓮…」
「ん?」
「一緒に…コペンハーゲンに行かないか?」
「コペンハーゲン!」
「うん。俺、赴任することになったんだ。」
花蓮は少し驚いた。
あれ… コペンハーゲンって… いつかどこかで…
花蓮はふとデジャヴュのようなものを感じた。
葵が言ったように、結婚話が出るかもしれないとは思っていたが、まさか海外赴任で、コペンハーゲンについて行くなんて…。
…ん…?
コペンハーゲンって…、どこの国だっけ?
「デンマークだよ! デンマークの首都! 花蓮、コペンハーゲンってどこの国って思ってただろ!」
弘人は思わずニヤニヤして、花蓮を見た。
そして真剣な表情に変わった。
「俺と結婚して一緒にコペンハーゲンに行ってください!」
窓の外には観覧車が輝きながら回っていた。
花蓮の目の前の景色も、輝きながら回りだした。
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暖かくて柔らかい薄いピンクの靄の中に浮かんでいた。
このままずっとフワフワ浮かんで眠っていたいと思っていた。
いきなり花蓮の手を誰かがつかんだ。
横を見ると、弘人がいた。
弘人は制服を着ていた。
高校時代の弘人だった。
そして花蓮も高校時代の花蓮だった。
「下に俺たちが見える。」
弘人はつぶやいた。
目を凝らすと、靄がだんだん消えていき、校舎がはっきり見えるようになった。
そして校舎もだんだんと消えて行って、校舎の中が見えた。
廊下に弘人と小田が立っている。弘人は花蓮をじっと見つめていた。
「弘人、ずっと私の事見てるね。」
「…うん。この時だけじゃない。いつもいつも…花蓮のこと、目で追ってた。」
「何故見てたの?」
「何故って…。」
「大学の時、何度も付き合うかもしれないチャンスあったけど、付き合わなかった。私、好かれてないと思ってたよ。」
「そんなこと、ありえないよ。ただ…。」
「ただ…?」
「俺、思うんだけど…、果物とか美味しくなるまで寝かせとくでしょ。ワインなんかも。人間関係もそういうのってあるような気がするんだよな…。」
「…私は食べ物か?」
花蓮は眉間に皺を寄せた。
「いや、そういう意味じゃなくて…。でも、俺たちの場合、待つことが大事なんだ。俺にとっても花蓮にとっても…。」
「…、全く意味わかんない…。」
「ずっと花蓮と一緒にいたい。」
「ほんとに?」
「うん、ずっと一緒。死ぬまで一緒。だから我慢もするし待つこともいとわない!」
「見て!」
花蓮が見下ろすと、もう高校時代の二人はいなくなって、今度は大学時代に初めて弘人と話した喫茶店にいる二人が見えた。
喫茶 コペンハーゲン
「俺、めっちゃクールな顔してるけど、ほんとは嬉しくてニヤけてしまいそうなのを必死に堪えてたんだ。」
「そうだったの? そうしてくれてたらよかったのに。」
弘人はそう言って少し膨れている花蓮を愛おしそうに眺めた。
「あ! 今から大学生の俺が言うこと、しっかり聞いておいて! 潜在意識の奥底にたたきこんで!」
「え? どうして?」
「いいから! ほら、もう言い始めるよ!」
大学生の弘人は、弘人は窓の外に見えるカフェの看板を見ながら言った。
「コペンハーゲンか…。」
花蓮はしっかりと聞いた。
振り返って弘人を見た。
二人はしっかり見つめあった。
弘人の輪郭はだんだんぼやけていって、そして姿は消えていった。
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