コペンハーゲン

まんまるムーン

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弘人はケータイを取り出して誰かに電話をかけた。


「あ、もしもし、おまえ今暇? ちょっと悪いんだけどさ…」

電話をかける弘人を花蓮はじっと見ていた。

ふと、自分が窮地に立たされた時、何故いつも助けてくれるのは弘人なんだろうと思った。

「…頼むな! 待ってるから。サンキュ!」

弘人は安堵のため息をついて、花蓮に微笑んだ。

「さっき、店側に時間を一時間ずらしてもらうように交渉したんだ。それで友達に頭数揃えて来てもらうようにした。小田って覚えてる? 高校の同級生の! あ、そういえば、斎藤の友達と付き合ってた…」

花蓮の頭に辛い思い出が蘇った。

高校時代の親友の葵と付き合ってた人…。

葵の事を思い出すと、今でも胸が痛い。

「あいつもこっち来ててさ、大学でフットサルやってるから、その友達かき集めてきてくれるって。最初眠いだの何だの言ってたんだけど、斎藤が困ってるって言ったら、任せとけってさ。」
弘人は思い出し笑いをしながら話した。

「ありがとう。中島君。ほんとに…感謝しかない…。」

「いいって。」

「中島君がいなかったら…どうなってたんだろう。考えるだけでも恐ろしい。」

「…。酷い目あわされたんだから、キチンと抗議しないとな。」

「…自信ないな…。」

「何も言わないで泣き寝入りしてたら、またやられるぞ。」

「…そうかも…。」

「斎藤なら冷静に対処できるはず…。だって!」

「…。だって?」

弘人は気まずそうに顔を逸らせた。

「いや…なんとなくそう思うだけ。というか、むしろそうあって欲しい。強く賢く美しく!」

「?」

「ま、俺の理想なんだけど…。」




しばらくして小田がフットサル仲間を連れてやってきた。

「斎藤さん久しぶり。」

「小田君…ほんとうにありがとう。それから、お友達の皆さんも、本当にありがとうございました。」

花蓮は深々と頭を下げた。

感謝の気持ちと申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになって、涙が止まらなかった。

「いいから、いいから! 俺たちもしばらく飲み会してなかったし、ちょうどいいタイミングだったんだよ。なぁ、中島!」

小田は弘人をニヤニヤしながら見た。


飲み会は盛り上がっていて、花蓮は安心した。

「斎藤さん、あれから葵と会ってないの?」

「…うん。」

「そっか…。あんなに仲が良かったのにね。」

「私、いまだに葵が私の事を嫌いになった理由がわからないの。小田君、そのこと何か聞いてる?」

「う~ん…。」

「教えてくれないかな。」

「あ~、どうなんだろ。俺なんかが言っていい事なのか…。しかも俺、葵とはもう別れてるしね。付き合ってた時の秘密を別れた後に勝手に言うってのも…。」

花蓮は困り果てている小田をまじまじと見た。

「あ~、なんかいい。小田君…そういう人だったんだね。葵が好きになるはずだ。」

「そう? 俺のイメージ、変わった? じゃあ斎藤さん、俺と付き合う?」

小田はニコニコして花蓮に言った。

「ん~、またイメージ変わったかも…。」

「なんだよぉ~。って、俺は斎藤さんとだけは付き合えないの!」

「ん? 何なのそれ?」

「斎藤さん、弘人とは付き合わないの? こっち来て、何度か会ってるんでしょ?」

「え? 中島君? 中島君と付き合うなんてないでしょ!」

「どうして? 今日だって助けてくれたでしょ? 普通ここまでしないよ。それに…」

「だって! 中島君、彼女いるでしょ? 前に一緒に腕組んで歩いてるとこ見たことあるし。それに高校時代だって、一度私と葵と小田君でデートしよってなった時に断ってたし。ていうか…、一度も誘われたことなんてないよ。中島君は私の事なんて何とも思ってないもん。」

「…。一気に言ったね…。弘人…今は誰とも付き合ってないと思うけど…。それに…」


「何俺の話で盛り上がってんの?」

二人の所に弘人がやってきた。

「担当直入に聞く! 弘人! お前はなんで斎藤さんと付き合わないの!」


小田はすでに酔いが回ってきていた。

「はいはい、お前飲みすぎだって! そのくらいにしとけ!」

「俺はシラフだ! お前昔から斎藤さんの事ばっかり見てただろ! 好きなんだろ!」

花蓮は弘人をじっと見ていた。

弘人は花蓮の視線に気づいた。

「男だったらはっきり言えよ~!」

小田が弘人の背中を押して花蓮の前に立たせた。


「…付き合いたいとは…思って…ない…。」

弘人は花蓮から視線を逸らせて言った。

「おまえ…、何言ってんの? 正気か?」

小田はそういうと、ダウンしてしまった。


花蓮は目の前にあったビールを一気飲みした。

「すいませーん、ハイボール!」

ハイボールが運ばれてくると、それもまた一気飲みした。

「飲みすぎ! やめとけって!」

弘人は花蓮を制止した。

「大丈夫。自分の限度は知ってますから。これで終わり。」

花蓮は酔っぱらって弘人にきつい口調で言った。


弘人は心配そうに花蓮を見た。

水をもらってきて、花蓮の横に座った。

「水飲んだほうがいい。」

花蓮は弘人のくれた水を一気に飲み干した。


「送っていくよ。」




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