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13章 加藤の二回目の章

続ける為に

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松野さんが生きている。
船の皆にも私達にも凄く嬉しい情報だ。
私、塁、田中は皆で泣いて喜んだ。
でも、一つ、塁には残念な情報もある。
歴と塁の母親は、気を違えた人になっていた。
でも何故か意識を持っていると言う。どういう事なのか?そして、あの街を襲った軍隊のような奴らは一体何なのか?
謎はいっぱいある。

私は、田山君に聞いた。
松野さんの元奥さんが意識があって気を違えた人になっているってどういう事なのか。
田山君が答える。
松野さんが言うには、最初は普通に気を違えた人になっていたらしいのだけど、何処からか手に入れた薬を手当り次第に飲ませたら、突然会話が出来る気を違えた人になったんだ。
私が聞き直す。
会話が出来る気を違えた人ってどういう事なの?
田山君が答える。
気を違えた人が自分の意思で喋るイメージかな。
例えば、松野さんがある日、人を食べたいのか元奥さんに質問をした。その時は、人を食べたくないと答えたが、松野さんに襲い掛かってきた。
脳の考える部分は普通の人になっているが、行動させる部分は気を違えた人のまま。
だから、松野さんの事もちゃんとわかっていた。
私は思った。
自分の意識があって、気を違えた人のままなんて、もしかしたら一番辛い状態なのでは。
田村さんも言う。
あの時の松野さんは、自分が薬を飲ませたせいで、元奥さんに辛い思いをさせてしまっている。だから必ず元奥さんだけは、治す。ってずっと言い続けていた。
凄く心が痛い。
松野さんの思い、元奥さんの気持ちを考えると凄く心が痛く、私なら耐えられない。
そんな思いを抱きながら、私は続けて聞く。
誰が裏切って、松野さんの元奥さんを連れて行ったの?
田山君が言う。
神本さんだ。神本さんは一緒に来る時には僕達のリーダーのように仕切ってくれて凄く頼りになっていた。
だけど、ここに来てからは、皆で松野さん、松野さんと言っていたら、そこに不満を持っていた。会社では松野さんの上司だったのに、プライドがあったのか。
更に私は聞き続ける。
で、あの街を壊した軍隊のような奴らって何なの?なんで街を壊す必要があったの?
田村さんが答えた。
あの軍隊のような奴らは、神本さんが東京から連れて来た。東京は今、軍隊が管理をしていて他から進入出来ないように壁がある。私達が東京から出て、逃げていて、東京に戻ろうとした時にはもう、外からは入れて貰えなくなっていた。
田山君が続けて言う。
あの街を壊したのは、松野さんを探す為に、街中を破壊していったんだ。松野さんが居たらきっと皆を巻き込まないように一人で出て行ったかも知れないけど、いなかった。いくらこっちが居ないと言っても信じて貰えなく、そこで本当の事を言わないのならってここまで来た仲間が、次から次に殺されてしまった。
それを見た神本さんが、さすがに悪く思ったのか、ここにはもう居ないからと言って、軍隊を連れて出て行ったんだ。
私は、なんて残酷で無茶苦茶な国になってしまったのかと嘆いた。

村田さんが、塁、田中を連れて外で気を違えた人採取をしていた。
何をするのかと見ていたら、注射を打って大人しくさせていた。
村田さんが言う。
田山君が色んな薬を調合してこれを作り出したの。早くゆり子さんも治したいけど、いきなりゆり子さんで試すのは怖いからってこうして、知らない人の気を違えた人で試しているのだけど、本当にこの人達には申し訳なく思う。
聞くと、実験で死んでしまう気を違えた人もいると言う。

塁が私に言って来た。
加藤さん、田中君をここに残して、一緒に船に行って、皆をここに連れて来よう。
私は言った。
まだ、船に残った人達を連れて来るにはここは危険。
田中だけ戻して、塁は私と一緒に残って、研究を手伝いましょ。
塁が言う。
ここには、木林さんもいるし、田中君だけでも心配ないと思ったけど、田中君を一人で船に帰すのは心配だ。
私は塁が言う事もわかるが、田中の態度はここの人達を信用していない。田中には戦う勇気も出たし、優香さんも心配だと思うから、田中一人に戻って貰うと説得した。
珍しく塁は素直に納得してくれた。

私が田中に話し、塁と一緒に車まで送った。
そこに、村田さんが私も船にいきたーいと言ってついてきた。
塁が村田さんだったら、田中君も寂しくないねと言った。
私が、村田さんはここで役割ないの?と尋ねると。
村田さんが言う。
私、戦う事は出来るけど、皆みたいに頭良くないから、何もないの。だから、田山君が村田さん一緒に行ってきなよって。
田中は一人じゃない事に安心して言った。
村田さん行こう、行こう。船は楽しいよ。釣りしたり、野菜育てたり、子供もいっぱいいるし、松野の長男もいる。是非行こう。
村田さんは言った。
二人で行っても変な事しないでね。
私と塁は笑って言った。
大丈夫、村田さんの方が強いから。
田中はムッとしていたが、そうでしょうねと言って村田さんを車に乗せた。

私は田中に言った。
船に着いたらちゃんと伝えてね。私と塁は、研究を続ける為にここに残る。
ちゃんとした結果が出たら、二人で船に戻って、皆を迎えに行く。わかった?
田中は窓から手を出し、手を振った。
これで暫く、船には帰れないねっと塁に言った。
加藤さんが一緒なら、問題ないよと塁が答える。
塁は本当に可愛い。
こうして、船組、研究組と別れての行動となった。
日本の希望の為に私達は研究を続けて、必ず治す薬を作り出すと決意をした。

13章終
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