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犬も食わないハジメテの
空回りする歯車~SideR~
しおりを挟むすみません。1話前の話を重複して上げていました。削除せずに上書きで、書き直していますので、まだ前の話をご覧になられていない方は、お手数ですが1話前から読んでいただけますと幸いです。
*********************************************
「まぁったく!私は便利屋じゃないってーの!」
キャサリンの言葉にピクリと青筋を立てる。
そう言うことは、店に着くなり早々頼んだ、『1日20食限定 超特大!パフェ』の器を離してから言え。喉元まで出かかった言葉を、ぐっと飲みこむ。
今ここでこいつにヘソを曲げられるのも不味い。俺はパフェに一瞥をくれるだけで、賢明にも沈黙を貫いた。
しばらく無言の時間が続き、キャサリンは一頻りパフェを堪能すると、コトリとスプーンを置いた。
ペーパーナプキンで口元をぬぐいながら言う。
「で、今日は何な訳?」
相変わらずのムカつく物言いだが、今日はこちらが招集した立場だ。冷静に冷静にと唱えながら、現状を伝える。
「アイリスと喧嘩した」
「へぇ、めずらし。で?」
「仲を取り持ってくれ」
「お断りします」
そう言うと、キャサリンはメニューを手に取る。
おい、まだ食う気か!?
「さっき、パフェ食ったろ!?」
「こんなんじゃ手付金にもなりませーん」
「あぁ!?」
青筋を立てる俺を鼻で嗤うと、キャサリンは頬杖をついてこちらを睨め付ける。
「……そもそも何でアイリスが怒ってるかわかってる?」
「分かってたら苦労しねー」
はぁ、とキャサリンはわざとらしくため息を吐く。
むかつくなこいつ。
キャサリンは私もアイリスから直接聞いたわけじゃないけど、と前置きを入れながら寝耳に水の話をしてきた。
「あんたが暇つぶしに手を出したお嬢さん方、アイリスに何してるか本当に気づいてないの?」
「あぁん?」
今はアイリス一筋で、他の女になんか目もくれちゃいない。……てことは学生時代の?
どいつの事だ?
薄情だが、持て余した熱を発散するだけ、お互い利害でつながっていた相手の事など正直、顔も覚えていない。
誰だか一向に見当がついていない俺を見てキャサリンが「サイテー」と呟く。
きまり悪く思いながらも、この件に関しては、反論の余地などない。ゴホンと咳払いをして、キャサリンに話の先を促す。
「で、俺の元カノがアイリスに一体何したんだ?」
「馬鹿ね。元カノたちよ。あんたがきっちり落とし前付けとかないから、未練たらたらのお嬢様たちが、今カノのアイリスに難癖付けに行ってんのよ」
どうやら対象は複数らしい。キャサリンの言葉に、ぎゅっとこぶしを握る。
「……くそ、なんであいつは何にも言わないんだ」
そんな俺をまたキャサリンが鼻で嗤う。
「あんたが、相談に値する人物になってないからでしょうね」
こいつ……辛辣すぎやしないか?信じられない気持ちで、キャサリンを見ながら問う。
「でも今更何で…。どの女も、皆後腐れないからって選んだ相手だぞ?最初に話はつけてあったし……」
「そんなのあんたの思い込みでしょ?相手はそうは思ってなかったってことよ」
「はぁぁぁぁ……」
色々とショック過ぎて言葉が出ない。
腹の中身を全部吐き出すようなため息をついて机に突っ伏した。
キャサリンが呆れながら、ボーイを呼び止めて何かを注文している。その注文のついでのようにまたジャブを打ってくる。
「大体あんたたち、圧倒的に言葉が足りてないのよ。思ってるだけで相手が察してくれるとでも?私に向かって垂れ流してる言葉の半分でも相手に伝えればいいでしょう?そもそもまともな関係性が築けてないのに、結婚なんて先走り過ぎてちゃんちゃらおかしいわ」
顔を伏せているためにキャサリンの表情は読めないが、至極真っ当な指摘なだけに否定もできない。身じろぎもできない俺に、キャサリンはどんどんと畳みかけてくる。
「恰好つけてる場合?」
存外に真摯な声に伏せた顔を少し上げる。般若が見えた。
「いつまでも私を間に挟んで恋愛ごっこしてんじゃないわよ」
ぐうの音も出なくなって再び顔を腕にうずめる。
しばらくそのままで動くことができなかった。
ずぞぞー、とキャサリンがストローで水をすする音だけが聞こえる。
これまでの指摘に何もいう事など無いが、全部身から出た錆だが、それでも、一つだけ確かなのは…
「こんなに好きなのに、今更他の女に目が行くわけないだろー…」
「ねぇ、それ、どういうこと?」
聞こえる筈がないのに、聞こえてきた声に、がばりと体を起こす。
キャサリンの後ろ、視線の先には、強ばった顔をしたアイリスがいた。
キャサリンが驚いて振り返っていることからも、これは仕込みじゃない。
(……終わった)
さらに拗れる予感しかしなくて、俺は黙って天を仰いだ。
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