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恋人編
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アルフレッドと本音をぶつけ合ったあの夜に、私の腹は決まった。自分の心に素直になること。彼の隣にいつづける努力をすること。何より、もうこんなに好きなのに、今更後戻りなんてできっこない。
してやられたなぁ、と思うけれど、仕方ない。好きなんだから。身分のことで、自分を卑下することももうしない。
――――強くなろう。
「…て、思ってたけど、まさか向こうから宣戦布告が来るとは…」
自分の手にある、一通の手紙を見ながらぽつりと呟く。自宅に手紙を送ってこられるということは、私の素性はすでに向こうに筒抜けということだろう。なめらかな手触りの紙に花を梳きこんだ風流な便箋は、さすが公爵家の利用するものだわ、と思うが、その内容はなかなかに攻撃的だった。
ポリポリと頬を掻きながら、もう一度文面を読み返す。
要約すると、アルフレッドの養父母からの承諾を得ている自分が彼の正当な婚約者である、なので、アルフレッドの側をちょろちょろするな。平民が付きまとっていると知られると、アルフレッドの将来に差し障るので、仕事も辞めろ。拒否すると、家族を含めてその身の安全は保障しない…ということが、とても丁寧な言葉で書いてある。言葉だけが取り繕われていることが、余計不気味さを引き立てる。
さらに一週間後までに対応すること、と期限まで区切られている。
大きくため息を吐いて、座っていた自室のベッドに仰向けに倒れこんだ。脅されたところで、引く気はないが、家族を巻き込むのは本意ではない。
「アルフレッドに相談してみるしかないわよねぇ…」
意外と過激派の天使に、私は遠い目をするしかなかった。
「…厄介ですね」
翌日、仕事に行くなりアルフレッドに天使から来た便箋を突き付ける。
中身を一瞥したアルフレッドがため息を吐いた。
「家族に手を出されるのは困るわ…」
「そんなことは僕が許しません。…が、彼女、前回の夜会でのことを相当根に持っているようです」
どうやら、アルフレッドの氷のような対応は、蝶よ花よと育てられたお嬢さんに火をつけてしまったらしい。何が何でもアルフレッドを落とそうと息を巻いているようだ。
アリス嬢の母君のキャボット公爵夫人がアルフレッドの養母フローレンス様の学生時代の先輩で、大層仲がいいことを利用して、頻繁に屋敷を訪問しては、アルフレッドに絡んでくるのだという。昼夜問わず家に帰るとアリス嬢がいるため、気が休まらない、とアルフレッドは嘆くように言う。
それに加えて、伯爵が、こんなに頻繁に訪れるようなら、行儀見習いとして離れに住んではどうかと提案し、さらに収拾がつかない状態になっているのだとか。
「それは…ご愁傷様」
権力も行動力もあるお嬢さんは怖いわぁ。
目の前で合掌すると、アルフレッドから恨めし気な目で見られた。それから、アルフレッドは何かを考えるような素振りを見せると、ポンと手を打つ。
「リビィ、木を隠すには森の中と言いますし、今の家は彼女にばれていて危険なのですから、いっそのこと家族でうちに引っ越して来ませんか?」
その言葉に思わず目を見開く。
「は!?皆で一緒に住むの?」
「彼女の性格でしたら間違いなくうちに行儀見習いとして来るでしょうね」
「でしょうね。嫌よ、そんなの」
「でも、伯爵家の中にいれば少なくとも手出しはされません。ご家族は少し窮屈かもしれませんが…」
アルフレッドの言葉にうぐぐ、と唸る。確かに、これ以上無い程に安全な仮住まいである。
腕組みをして考え込む。しかし、他に有効な手は浮かびそうもない。
背に腹は代えられないか…。
「でも、伯爵は私たちが住むことを許してくれるかしら…」
「ふむ、でしたら、住み込みの使用人として紛れ込みますか?」
「…私にここの仕事をやめろと言うの?」
じろりとアルフレッドを睨むと、まさか、と首を振られる。
「お父上を伯爵家の使用人として雇えば、扶養家族は一家で住んでいただけます」
あぁ、確かにお父様は、領主としてはダメダメだけど、家事スキルはあったんだった。…どっちかと言うとメイドの仕事な気がするけどいいのかしら。
「…私、成人してるけどいいの?」
アルフレッドはにっこり笑う。
あ、ほんとはダメなのね。
ごまかす気満々のアルフレッドに温い笑顔で応える。それでも、私はアルフレッドの家にご厄介になるしか家族を守る方法がない。幸い、貧民街を出ようと荷造りは少しずつ進めていた。すぐに移動はできるだろう。
それに、伯爵家なら、ミシェルの生育環境としては間違いない。
私は、大きく深呼吸して腹を括る。
――――あぁ、でも。出来ることならあんまりアリス嬢とは顔を会わしたくないわ…。
してやられたなぁ、と思うけれど、仕方ない。好きなんだから。身分のことで、自分を卑下することももうしない。
――――強くなろう。
「…て、思ってたけど、まさか向こうから宣戦布告が来るとは…」
自分の手にある、一通の手紙を見ながらぽつりと呟く。自宅に手紙を送ってこられるということは、私の素性はすでに向こうに筒抜けということだろう。なめらかな手触りの紙に花を梳きこんだ風流な便箋は、さすが公爵家の利用するものだわ、と思うが、その内容はなかなかに攻撃的だった。
ポリポリと頬を掻きながら、もう一度文面を読み返す。
要約すると、アルフレッドの養父母からの承諾を得ている自分が彼の正当な婚約者である、なので、アルフレッドの側をちょろちょろするな。平民が付きまとっていると知られると、アルフレッドの将来に差し障るので、仕事も辞めろ。拒否すると、家族を含めてその身の安全は保障しない…ということが、とても丁寧な言葉で書いてある。言葉だけが取り繕われていることが、余計不気味さを引き立てる。
さらに一週間後までに対応すること、と期限まで区切られている。
大きくため息を吐いて、座っていた自室のベッドに仰向けに倒れこんだ。脅されたところで、引く気はないが、家族を巻き込むのは本意ではない。
「アルフレッドに相談してみるしかないわよねぇ…」
意外と過激派の天使に、私は遠い目をするしかなかった。
「…厄介ですね」
翌日、仕事に行くなりアルフレッドに天使から来た便箋を突き付ける。
中身を一瞥したアルフレッドがため息を吐いた。
「家族に手を出されるのは困るわ…」
「そんなことは僕が許しません。…が、彼女、前回の夜会でのことを相当根に持っているようです」
どうやら、アルフレッドの氷のような対応は、蝶よ花よと育てられたお嬢さんに火をつけてしまったらしい。何が何でもアルフレッドを落とそうと息を巻いているようだ。
アリス嬢の母君のキャボット公爵夫人がアルフレッドの養母フローレンス様の学生時代の先輩で、大層仲がいいことを利用して、頻繁に屋敷を訪問しては、アルフレッドに絡んでくるのだという。昼夜問わず家に帰るとアリス嬢がいるため、気が休まらない、とアルフレッドは嘆くように言う。
それに加えて、伯爵が、こんなに頻繁に訪れるようなら、行儀見習いとして離れに住んではどうかと提案し、さらに収拾がつかない状態になっているのだとか。
「それは…ご愁傷様」
権力も行動力もあるお嬢さんは怖いわぁ。
目の前で合掌すると、アルフレッドから恨めし気な目で見られた。それから、アルフレッドは何かを考えるような素振りを見せると、ポンと手を打つ。
「リビィ、木を隠すには森の中と言いますし、今の家は彼女にばれていて危険なのですから、いっそのこと家族でうちに引っ越して来ませんか?」
その言葉に思わず目を見開く。
「は!?皆で一緒に住むの?」
「彼女の性格でしたら間違いなくうちに行儀見習いとして来るでしょうね」
「でしょうね。嫌よ、そんなの」
「でも、伯爵家の中にいれば少なくとも手出しはされません。ご家族は少し窮屈かもしれませんが…」
アルフレッドの言葉にうぐぐ、と唸る。確かに、これ以上無い程に安全な仮住まいである。
腕組みをして考え込む。しかし、他に有効な手は浮かびそうもない。
背に腹は代えられないか…。
「でも、伯爵は私たちが住むことを許してくれるかしら…」
「ふむ、でしたら、住み込みの使用人として紛れ込みますか?」
「…私にここの仕事をやめろと言うの?」
じろりとアルフレッドを睨むと、まさか、と首を振られる。
「お父上を伯爵家の使用人として雇えば、扶養家族は一家で住んでいただけます」
あぁ、確かにお父様は、領主としてはダメダメだけど、家事スキルはあったんだった。…どっちかと言うとメイドの仕事な気がするけどいいのかしら。
「…私、成人してるけどいいの?」
アルフレッドはにっこり笑う。
あ、ほんとはダメなのね。
ごまかす気満々のアルフレッドに温い笑顔で応える。それでも、私はアルフレッドの家にご厄介になるしか家族を守る方法がない。幸い、貧民街を出ようと荷造りは少しずつ進めていた。すぐに移動はできるだろう。
それに、伯爵家なら、ミシェルの生育環境としては間違いない。
私は、大きく深呼吸して腹を括る。
――――あぁ、でも。出来ることならあんまりアリス嬢とは顔を会わしたくないわ…。
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