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3章 悪魔裁判
15.囚われているのか匿われているのか
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枕元でラタが木の実をかじる音に、エヴァはゆっくりと目を開ける。
昨日、真昼間から薬で強制的に眠っていたとはいえ、疲労は取り切れていなかったらしい。昨日に引き続き、ずいぶんゆっくりと休んだ気がする。
騎士団は朝も早かったし、ここ数日は怒涛の日々で精神的な疲労がすごかったようだ。
今、何時だろうかとエヴァはあたりを見渡すが、窓もない部屋だから全く時間が分からない。
足元を照らす柔らかい光を放つ魔道具だけが、うっすらとついていた。
エヴァは、のろのろと体を起こして伸びをする。
そこでふと、昨日、心配したラーシュが「ここで寝る」と言い張ったが、「もう遅いから」とバルトサールとルーカスに引きずられて出て行った様子を思い出して、くすりと笑う。
ラーシュのあの様子だったら、夜が明けたらすぐにでもこの棟に戻ってきそうだったが、来ていないという事は、まだ早い時間なのだろうか?
「おはよう、ラタ。今、何時?」
『おはよう、エヴァ。もう昼だぞ』
ラタに向けた笑顔のまま固まったエヴァは、ポリポリと頬を掻く。
ラタはエヴァに答えた後、すました顔で、引き続き大きな木の実に取り掛かっていた。
「誰か起こしてくれたらよかったのに……」
『小僧は顔を見たがったようだけどね。あぁ、外に食事が用意されてるよ』
「ありゃりゃ……皆に気を使わせちゃったかな……」
こんな風に部屋に一人ぼっちでいると、教会にいた頃のことを思い出す。
オールストレーム家の養子になって、騎士団に入って。最近では、夜寝る時くらいしか一人になる暇もなかった。
――――それに、仲良くなってからは、どんな時もずっとラーシュが側にいてくれたな。
ふるふるとエヴァは顔を振ると、パンと両頬をはたく。
「よし!シャワー浴びてくる!」
熱い湯を浴びよう。そして切り替えよう。生き延びるために何ができるのか。
そして、ふとラタを見る。
「そういえばその立派な木の実どうしたの?」
ラタがエヴァの前でご飯を食べることは珍しい。しかも、自然に成ったものにしては随分立派だった。
エヴァの問いにラタはふふんと胸を張る。
『昨日、頑張ったからな!大きい小僧が労いとしてくれたのだ』
「大きい小僧?……ユーハンの事?」
ちちちと肯定の笑みを見せるラタの頭を一撫でして、エヴァはシャワーに向かう。
皆、自分のために頑張ってくれている。事態は好転していなくとも、力が湧いてくるような気がした。
◆
シャワーを浴び、身支度をしたエヴァが外に出ると、執務机でバルトサールが何やら書き物をしていた。
「あ、おはようございます」
「あはは、もう昼だけどねー。お腹すいたでしょ?ラーシュが持ってきたご飯があるよ。まぁ、もうすぐ昼の分が届くけどね」
笑いながら、バルトサールは食事の乗ったテーブルを指さした。
エヴァはぺこりと頭を下げると、席に着き、もそもそとご飯を食べ始める。とてもお腹がすいていた。その様子を微笑まし気に見ていたバルトサールは、ふと視線を移した。
「あぁ、来たね」
バルトサールの声に顔を上げたエヴァは、出入り口のほうでチカチカと光る灯りに気づいた。立ち上がるバルトサールを見て、どうやら来訪者を知らせる魔道具だと気づく。
「……なんだお前、今起きたとこなのか?」
バルトサールに連れられて入ってきたラーシュは、朝食を食べているエヴァを見て顔をしかめる。その手には、湯気を立てた昼食があった。ラーシュは、エヴァと一緒に食べる気だったのだろう、それは二人分ある。エヴァは気まずさを誤魔化すように笑った。
「あはははは、起こしてくれたら良かったのに」
「魔道具師長が、自然に起きてくるまで待てって、入れてくれなかったんだよ」
不貞腐れたようにそう言った後、ラーシュはエヴァの前にどかりと腰を下ろすと、昼食を食べ始めた。
エヴァは、ラーシュと共に入ってきたルーカスを見上げて訊ねる。
「ルーカスは、お昼食べた?」
「あぁ、ここに来る前にすませた」
「そっか」と呟いたエヴァがバルトサールを見上げると、彼はニッコリ笑ってラーシュの横に腰を下ろす。
「僕はまだだから代わりにこれ、いただくね。いやー、食堂まで行くの面倒だったんだ」
嬉しそうに、パクパク食べる様子に、ラーシュは少しだけ嫌そうな顔をしたが、ホッとしたようなエヴァの顔を見て、文句を口にするのをやめたようだった。
三人で仲良く食事をとった後、バルトサールの淹れてくれたお茶を全員で飲む。ルーカスは恐縮していたが、ラーシュは躊躇うことなく、さっさとカップを手にとって飲んでいた。
「そろそろ帰るぞ」
懐中時計を手に持ったルーカスの言葉に、ちらりとラーシュはエヴァを見た。何か言いたげに口を開いたが、結局は何も言わずに、懐から手紙を取り出す。それをそっとエヴァに差し出す。
「ユーハン兄上からだ。部屋で読むと良い」
エヴァはお礼を言って手紙を受け取る。エヴァは、なぜラタを使わないのかな?と思ったが、恐らく、何かユーハンには考えがあるのだろう。
何も言わずに、エヴァはそっと手紙を懐にしまう。
出ていく、ルーカスとラーシュに手を振って見送った後、バルトサールを見上げた。
「僕は今日は何をしたらいいですか?」
「今日は部屋でのんびりするといいよ。いつ急に呼び出しがあるか分からないからね」
にっこりと笑ったバルトサールは、エヴァを外に出してくれる気はなさそうだった。
よく考えていなかったが、もしかしたらバルトサールは見張りも兼ねているのかもしれない、とエヴァは思った。自分の疑いは完全に晴れたわけではない。有無を言わさず神殿に突き出すこともせず、匿われているだけましだと納得することにした。
エヴァは、バルトサールに軽く声をかけると部屋に戻って、ユーハンからの手紙を読むことにした。
昨日、真昼間から薬で強制的に眠っていたとはいえ、疲労は取り切れていなかったらしい。昨日に引き続き、ずいぶんゆっくりと休んだ気がする。
騎士団は朝も早かったし、ここ数日は怒涛の日々で精神的な疲労がすごかったようだ。
今、何時だろうかとエヴァはあたりを見渡すが、窓もない部屋だから全く時間が分からない。
足元を照らす柔らかい光を放つ魔道具だけが、うっすらとついていた。
エヴァは、のろのろと体を起こして伸びをする。
そこでふと、昨日、心配したラーシュが「ここで寝る」と言い張ったが、「もう遅いから」とバルトサールとルーカスに引きずられて出て行った様子を思い出して、くすりと笑う。
ラーシュのあの様子だったら、夜が明けたらすぐにでもこの棟に戻ってきそうだったが、来ていないという事は、まだ早い時間なのだろうか?
「おはよう、ラタ。今、何時?」
『おはよう、エヴァ。もう昼だぞ』
ラタに向けた笑顔のまま固まったエヴァは、ポリポリと頬を掻く。
ラタはエヴァに答えた後、すました顔で、引き続き大きな木の実に取り掛かっていた。
「誰か起こしてくれたらよかったのに……」
『小僧は顔を見たがったようだけどね。あぁ、外に食事が用意されてるよ』
「ありゃりゃ……皆に気を使わせちゃったかな……」
こんな風に部屋に一人ぼっちでいると、教会にいた頃のことを思い出す。
オールストレーム家の養子になって、騎士団に入って。最近では、夜寝る時くらいしか一人になる暇もなかった。
――――それに、仲良くなってからは、どんな時もずっとラーシュが側にいてくれたな。
ふるふるとエヴァは顔を振ると、パンと両頬をはたく。
「よし!シャワー浴びてくる!」
熱い湯を浴びよう。そして切り替えよう。生き延びるために何ができるのか。
そして、ふとラタを見る。
「そういえばその立派な木の実どうしたの?」
ラタがエヴァの前でご飯を食べることは珍しい。しかも、自然に成ったものにしては随分立派だった。
エヴァの問いにラタはふふんと胸を張る。
『昨日、頑張ったからな!大きい小僧が労いとしてくれたのだ』
「大きい小僧?……ユーハンの事?」
ちちちと肯定の笑みを見せるラタの頭を一撫でして、エヴァはシャワーに向かう。
皆、自分のために頑張ってくれている。事態は好転していなくとも、力が湧いてくるような気がした。
◆
シャワーを浴び、身支度をしたエヴァが外に出ると、執務机でバルトサールが何やら書き物をしていた。
「あ、おはようございます」
「あはは、もう昼だけどねー。お腹すいたでしょ?ラーシュが持ってきたご飯があるよ。まぁ、もうすぐ昼の分が届くけどね」
笑いながら、バルトサールは食事の乗ったテーブルを指さした。
エヴァはぺこりと頭を下げると、席に着き、もそもそとご飯を食べ始める。とてもお腹がすいていた。その様子を微笑まし気に見ていたバルトサールは、ふと視線を移した。
「あぁ、来たね」
バルトサールの声に顔を上げたエヴァは、出入り口のほうでチカチカと光る灯りに気づいた。立ち上がるバルトサールを見て、どうやら来訪者を知らせる魔道具だと気づく。
「……なんだお前、今起きたとこなのか?」
バルトサールに連れられて入ってきたラーシュは、朝食を食べているエヴァを見て顔をしかめる。その手には、湯気を立てた昼食があった。ラーシュは、エヴァと一緒に食べる気だったのだろう、それは二人分ある。エヴァは気まずさを誤魔化すように笑った。
「あはははは、起こしてくれたら良かったのに」
「魔道具師長が、自然に起きてくるまで待てって、入れてくれなかったんだよ」
不貞腐れたようにそう言った後、ラーシュはエヴァの前にどかりと腰を下ろすと、昼食を食べ始めた。
エヴァは、ラーシュと共に入ってきたルーカスを見上げて訊ねる。
「ルーカスは、お昼食べた?」
「あぁ、ここに来る前にすませた」
「そっか」と呟いたエヴァがバルトサールを見上げると、彼はニッコリ笑ってラーシュの横に腰を下ろす。
「僕はまだだから代わりにこれ、いただくね。いやー、食堂まで行くの面倒だったんだ」
嬉しそうに、パクパク食べる様子に、ラーシュは少しだけ嫌そうな顔をしたが、ホッとしたようなエヴァの顔を見て、文句を口にするのをやめたようだった。
三人で仲良く食事をとった後、バルトサールの淹れてくれたお茶を全員で飲む。ルーカスは恐縮していたが、ラーシュは躊躇うことなく、さっさとカップを手にとって飲んでいた。
「そろそろ帰るぞ」
懐中時計を手に持ったルーカスの言葉に、ちらりとラーシュはエヴァを見た。何か言いたげに口を開いたが、結局は何も言わずに、懐から手紙を取り出す。それをそっとエヴァに差し出す。
「ユーハン兄上からだ。部屋で読むと良い」
エヴァはお礼を言って手紙を受け取る。エヴァは、なぜラタを使わないのかな?と思ったが、恐らく、何かユーハンには考えがあるのだろう。
何も言わずに、エヴァはそっと手紙を懐にしまう。
出ていく、ルーカスとラーシュに手を振って見送った後、バルトサールを見上げた。
「僕は今日は何をしたらいいですか?」
「今日は部屋でのんびりするといいよ。いつ急に呼び出しがあるか分からないからね」
にっこりと笑ったバルトサールは、エヴァを外に出してくれる気はなさそうだった。
よく考えていなかったが、もしかしたらバルトサールは見張りも兼ねているのかもしれない、とエヴァは思った。自分の疑いは完全に晴れたわけではない。有無を言わさず神殿に突き出すこともせず、匿われているだけましだと納得することにした。
エヴァは、バルトサールに軽く声をかけると部屋に戻って、ユーハンからの手紙を読むことにした。
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