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2章 騎士団の見習い
1.二人の姉
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城の図書室から自室に戻ろうとしていたアンナリーナの前に、スッと二人の少女が立ちはだかった。
それを見て、アンナリーナは一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに何でもない顔をする。王族は誰であれ相手に心の内を見せてはいけないからだ。それが敵対する者であれば、なおさら。
彼女たちは、アンナリーナの異母姉----第二妃を母に持つ姉たち、だった。
母譲りのよく似た赤茶の髪をした少女二人は、顔を見合わせてクスクス笑う。それは、決してアンナリーナに対して好意的なものではない。
「あら、お姉さま。焦って孤児なんかと婚約した愚か者が来ましたよ」
「まぁ、ヴィオラ。本当の事でもそんな風に言っては、はしたなくてよ」
サンドラとヴィオラはこうやって、頻繁にアンナリーナを貶めようと近付いてくる。アンナリーナには、その理由は分からなかったが、別に興味もなかった。敵対するならば受けてたつ、それだけの事だからだ。
アンナリーナは二人の言葉を受けて、にこりと綺麗に笑う。
「サンドラお姉さま、ヴィオラお姉さま。ご機嫌よう。今回はたまたま、良い方とのご縁があって、わたくしとても嬉しく思っていますわ」
そう言うと、アンナリーナは、ばっと扇を広げて目を伏せる。
「でも、わたくしとても小心者ですから……成人間際にお相手がいないなんて、そんな悲しいことになったらと思うと、想像するだけで泣いてしまいそう……。駄目ですね。万事において、悠々と構えていらっしゃる、お姉さま方のような逞しさがあれば、と常々思っておりますわ」
アンナリーナの言葉に、ヴィオラは顔を真っ赤にして声を張り上げる。
「な……っ、私たちはあなたに親切にも忠告して上げようと……!それをなんて無礼な……!」
「あら嫌だ、わたくし自分の矮小さを恥じたのであって、お姉さま方を侮辱するようなこと申しました?何かお心当たりでも?」
あと二年で成人を迎えるが、未だ婚約者が決まらないヴィオラに対して、アナリーナは小首をかしげて、しれっと答える。
「まぁまぁ、ヴィオラもアンナリーナもそう熱くならないで。私たちお互いを心配し合っているということで良いじゃない」
ヴィオラより一歳年上で且つ、婚約者が決まっていないサンドラは、その焦りなど微塵も見せず、ニコニコと笑って場をまとめようとする。
いつもこうだった。
ヴィオラが、王族に似合わない直球な嫌みをアンナリーナに投げつけ、応戦したアンナリーナに、ヴィオラがたじろぐと、何食わぬ顔をしたサンドラが適当なところで場を収めようと動く。
しかし、ヴィオラはサンドラにたきつけられて、アンナリーナを攻撃してくることを、アンナリーナは既に知っていた。
とはいえ、ここで変に事を荒立てる気もアンナリーナにはなかった。サンドラを詰めたところで、のらりくらりと逃げられるに決まっているからだ。
だから、アンナリーナは内心では青筋を立てながらも、サンドラに同意し、その場を離れる事を選択した。
――――全く面倒くさい。
アンナリーナは、この第二妃の娘達がどうにも好きになれなかった。こちらからは決して近寄らないようにしているのに、なぜか毎度毎度、向こうから近づいてくるのだ。
――――鬱陶しいったらありゃしない。
前々からアンナリーナを目の敵にして来る二人であるが、エヴァとの婚約後は態度が更に酷くなっている。
別に何を言われても、アンナリーナは痛くも痒くもないが、唯々面倒くさい。
それでも、毎日毎日、懲りもせずにやってくるのを、ほどほどに付き合ってあげているのだ。
だから、立ち去る前に、アンナリーナが一言余計に言いたくなっても仕方ないだろう。
「お姉さま方、わたくし騎士団からも一目置かれ、公爵家の養子になった優秀な婚約者を持ててとても幸せですの。ご心配には及びませんわ。早くお姉さま方の婚約者も、ご紹介いただけると嬉しいわ。それでは失礼します」
ニッコリと笑ってアンナリーナはその場を立ち去る。
後ろから刺すような視線を感じるがアンナリーナは気にしない。そんなもので、人は死なないのだ。
それを見て、アンナリーナは一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに何でもない顔をする。王族は誰であれ相手に心の内を見せてはいけないからだ。それが敵対する者であれば、なおさら。
彼女たちは、アンナリーナの異母姉----第二妃を母に持つ姉たち、だった。
母譲りのよく似た赤茶の髪をした少女二人は、顔を見合わせてクスクス笑う。それは、決してアンナリーナに対して好意的なものではない。
「あら、お姉さま。焦って孤児なんかと婚約した愚か者が来ましたよ」
「まぁ、ヴィオラ。本当の事でもそんな風に言っては、はしたなくてよ」
サンドラとヴィオラはこうやって、頻繁にアンナリーナを貶めようと近付いてくる。アンナリーナには、その理由は分からなかったが、別に興味もなかった。敵対するならば受けてたつ、それだけの事だからだ。
アンナリーナは二人の言葉を受けて、にこりと綺麗に笑う。
「サンドラお姉さま、ヴィオラお姉さま。ご機嫌よう。今回はたまたま、良い方とのご縁があって、わたくしとても嬉しく思っていますわ」
そう言うと、アンナリーナは、ばっと扇を広げて目を伏せる。
「でも、わたくしとても小心者ですから……成人間際にお相手がいないなんて、そんな悲しいことになったらと思うと、想像するだけで泣いてしまいそう……。駄目ですね。万事において、悠々と構えていらっしゃる、お姉さま方のような逞しさがあれば、と常々思っておりますわ」
アンナリーナの言葉に、ヴィオラは顔を真っ赤にして声を張り上げる。
「な……っ、私たちはあなたに親切にも忠告して上げようと……!それをなんて無礼な……!」
「あら嫌だ、わたくし自分の矮小さを恥じたのであって、お姉さま方を侮辱するようなこと申しました?何かお心当たりでも?」
あと二年で成人を迎えるが、未だ婚約者が決まらないヴィオラに対して、アナリーナは小首をかしげて、しれっと答える。
「まぁまぁ、ヴィオラもアンナリーナもそう熱くならないで。私たちお互いを心配し合っているということで良いじゃない」
ヴィオラより一歳年上で且つ、婚約者が決まっていないサンドラは、その焦りなど微塵も見せず、ニコニコと笑って場をまとめようとする。
いつもこうだった。
ヴィオラが、王族に似合わない直球な嫌みをアンナリーナに投げつけ、応戦したアンナリーナに、ヴィオラがたじろぐと、何食わぬ顔をしたサンドラが適当なところで場を収めようと動く。
しかし、ヴィオラはサンドラにたきつけられて、アンナリーナを攻撃してくることを、アンナリーナは既に知っていた。
とはいえ、ここで変に事を荒立てる気もアンナリーナにはなかった。サンドラを詰めたところで、のらりくらりと逃げられるに決まっているからだ。
だから、アンナリーナは内心では青筋を立てながらも、サンドラに同意し、その場を離れる事を選択した。
――――全く面倒くさい。
アンナリーナは、この第二妃の娘達がどうにも好きになれなかった。こちらからは決して近寄らないようにしているのに、なぜか毎度毎度、向こうから近づいてくるのだ。
――――鬱陶しいったらありゃしない。
前々からアンナリーナを目の敵にして来る二人であるが、エヴァとの婚約後は態度が更に酷くなっている。
別に何を言われても、アンナリーナは痛くも痒くもないが、唯々面倒くさい。
それでも、毎日毎日、懲りもせずにやってくるのを、ほどほどに付き合ってあげているのだ。
だから、立ち去る前に、アンナリーナが一言余計に言いたくなっても仕方ないだろう。
「お姉さま方、わたくし騎士団からも一目置かれ、公爵家の養子になった優秀な婚約者を持ててとても幸せですの。ご心配には及びませんわ。早くお姉さま方の婚約者も、ご紹介いただけると嬉しいわ。それでは失礼します」
ニッコリと笑ってアンナリーナはその場を立ち去る。
後ろから刺すような視線を感じるがアンナリーナは気にしない。そんなもので、人は死なないのだ。
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