悪辣同士お似合いでしょう?

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鳥籠編【塩期間編】(読まなくても問題ありません)

閑話

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 そもそもの話。
 あの主が、嫌な男と共に過ごせるかと言えば、そうではないことを三人は知っている。
 嫌な男に口付けや、あまつさえ体の関係を持てるかと言えば――持てるわけがないと思うのだ。
 何があっても、どうにかしてでも逃げるだろう。
 逃げられず、そういったことをされたとしたら、その後であんな、普通の態度はとれないと言うのが主の在り方だと知っている。
「あれは、好きだよな……」
「そうだと思う」
「嫌いだったらもっと喚いて、俺達が来たと同時に脱出するっていうだろうし」
 まさにその通りだと頷き合うしかない。
 あの主、アーデルハイト。
 彼女にとって、そんな相手が現れるとは喜ばしいようで。そして少し寂しくもある。
 彼女の特別は、今まである意味自分達だったのだから。
「あー……あのまま、ジークの所に嫁に行って。俺達もそこに一緒にいる、とかだと思ったんだけどなぁ」
「どうして俺……」
「えー? だって、俺は辺境伯家のって言っても、次男とかだし。跡継ぐわけでもないしさ。ハインツもそうだし」
「そもそも孤児だし、弟がいる」
「そうなると公爵が納得するのはジークしかいない。いつまでも嫁にやらずでは外聞悪いしね」
 でも、あの王太子にひっかかるとは思わなかったと、瞳細めてフェイルは紡いだ。
 やっかいな相手だとジーグは頷き、でも丁度良いとハインツは言う。
「けど、アーデが正妃って……」
 その言葉にそれぞれが黙ってしまう。
 あの主に、やってできないことは無いだろう。
 向かってくる令嬢などは軽くあしらえるだろう。男相手であっても、言いくるめるくらいはできる。
 それはアーデルハイトの父である公爵がつけた教師から必要以上を学んだからだろう。
 そうなってしまったのは、彼女が正妻との子ではないことも関係していると、ともに幼少のころから過ごす機会のあったジークとハインツは知っている。
 フェイルも、知ってはいるのだろう。
 能力的なことは問題ない。しかし、危ういなと思うのは主の心根の問題なのだ。
 あまり、そう。何事にも深く興味を持てない。
 懐に入れた相手についてはそういう事は無いが、自分には関係ないと割り切ってしまっている事に対して興味が持てないのだ。
 だからこそ問題もあったし、それを払ってきたのは三人だった。
 しかし王太子の正妃となれば、興味の無い事にも関わらなければならない。それを退屈と断じてしまえば、表向きはにこやかにしていても内心はというところ。
 心内を隠すのは上手だが、あとで面倒なことになると思える。
「……無事に行くと、思う?」
「いやまったく」
「問題だらけだろ」
「そうだよな……」
 はぁ、とため息を同時に零す。
 正妃だなんた、それはまた別にして三人には不安なことがあった。
 大丈夫なのだろうか、というところだ。
「あの王太子、アーデを御せるかな」
「剣の腕は大したものだ。俺たちがいなくてもアーデを守れる」
「アーデをやり込められるし、此処を探すのに時間もかかった。根回しとか、そういう部分も上手い」
「あと隠密かなんか持ってるよね。気配くらいしかわからないから、相当やばいの持ってると思う」
 今もこの話、聞かれてるなとジークは周囲を窺う。
 聞かれて問題のある話は、していない。王太子に知られて良いと思っている話しかしていないのだ。
「ま、相手としては文句のつけようがないんだよな。アーデは断るって言ってるけどそのうち折れそうだし」
「そうだな。そのあたりは駆け引きだろう。そもそも、あの王太子は逃がす気がないよな……」
「肖像画とか、国内告知用としか思えない。いつまでここに置いておくつもりかは知らないけど」
「それはアーデが頷くまではここだろう。すぐ頷くわけもないから、そのうちに根回し……もう終わってるかもしれないけど」
「さすがにすべては終わってないだろうが……」
 もう、なんとなくこの先の事を三人は理解している。
 そして一応、納得もしているのだ。
 そのうち、主であるアーデルハイトは王太子の求婚を受けるだろう。
 そして王太子妃となるためにセルデスディアに行く。
 ではその時――自分たちはどうするのか。
 そこが、一番の問題だ。もちろんついていくつもりではあるのだが、それが認められるかどうかはわからない。「アーデを一人で他国にはやれない」
「最悪このうちの誰かだけでもいいよ」
「俺はどうにかしてねじ込むけど」
「アーデは寂しがりだからな」
 それにしても、と。
 三人は思う。
 それにしても、あのアーデが。
 無自覚ながら、恋だなんて。天地がひっくり返ったような思いだ。
 そういった感情は無い――というより、もう無意味なものだと知っている。
 自分たちはそういう感情を持ってもらえる相手ではなかったのだ。
 それをもう知っているし、それが変わることが無いことも知っている。
 けれど一緒にいたいからこの位置にいる。
「…………アーデが、恋かああああ!!! しかも! 無自覚! 自分の気持ちに気付いてない! やばい超面白いわこれー」
「フェイル……」
「だって、さぁ! あれだけ秋波送られても気づかないアーデが、だよ? あんな、アーデの事を好きかどうかわからない。アーデの人となりに気付かず、でも能力には気付いて選ぶ男に、だよ?」
「フェイル……」
「言いたいことはわかる。そうだな、確かに面白い、とは、思う」
「ほら見ろ! やっぱりそう思うだろ」
 けど、とそこでハインツが口を挟む。
 静かな男は二人からの視線を受け、やっぱり言うのやめると言の葉落とすのを取りやめた。
 なんだよそれ、とフェイルが問えば言うのが嫌になったと零す。
「言って、本当になったらそれはそれで嫌な気分になる……かも、しれない」
「ああ……それだけでもう、何を言おうとしたのかわかってしまった……」
「あー……俺も」
 それは、少し悔しくもあるような気がする。

 王太子は、いつかアーデを好きになる。

 それは言葉にしたら、早々に成されそうで嫌なのだ。
 もうしばらく、彼女は自分達だけのアーデであってほしいと思ってしまう。
「アーデが幸せになれるなら、俺は王太子でもなんでもいいと思うけどさ」
「それは、俺もそう思うが」
「まぁ、うん。幸せにできる相手なら、ね」
 あの男は本当に、そうなのか。
 まだ懐疑的な部分が多い。それはこれから見定めていくべきことだろう。
 そして、もし。
 もし、いつか彼女がもう嫌だと言ったなら、助けられるのは自分達だけだ。
 そのためにも、どこに行くのであっても傍にいなければならない。
 王太子に能力がある事は示すことができただろう。
 アーデに対して、ああいう態度をとる男なら捨て置くことはないだろうと思っている。
 たしかに、王太子を試す意味もあったのだがきっとこの決定は覆らないだろうと察していたのだ。
 なら、使えるのだと示して、傍に置かれるようにするだけだ。
「初恋が実るといいね」
「初恋か……」
「初恋……」
 応援はしてあげたいが心の底から、そう思えるようにはまだ時間がかかりそうだと三人とも思う。
 そもそも応援するに値する相手なのか。けれど、リヒテールの王子や、今まで周囲にいた貴族の子息達よりはとも、思えなくはない。
 まだこちらの気持ちの切り替えには時間がかかりそうだとそれぞれ思っていた。
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