224 / 245
掌編
無意識の束縛
しおりを挟む
お祝いしたんだからされるのもあった。
「先に言っておくのですけれど」
「何をだ」
「わたくしの誕生日に、宝石やドレスやら、そういったものは贈っていただかなくてよろしいので」
「…………」
「あっ、まさかもう」
「準備してある」
「……頂いても、今も過分にあるのですけれど」
そうだ、忘れていた。
この女は、宝石やドレスを贈って喜ぶような、簡単な女ではなかったのだ。
いらないとは言わない。仕方ないというような顔できっと受け取るのだろう。
心から嬉しいと言わせてみたいとも思うが、それが簡単でないことも知っている。
ではこの女を喜ばすにはどうしたらいいのだろうか、と思案してみるものの。
それがよく、わからないままなのだ。
まぁ、一つ心当たりはあるのだが。
その手を使って喜ばすのは、俺があまりしたくない。
「国から頂くのもわかってますのよ。来年は、必要ありませんから」
「夫として何もしてないことになるだろう」
「別にそれでよろしいのですけれど」
「……それでは俺が甲斐性無しだと言われる」
「誰も言いませんわ」
仲の良い夫婦だと思われている。それなら誕生日に何か贈るのは当然の事だろう。
そうしなければ貴族たちに不和を疑われる可能性もある。
しかし、もう来年は宝石やドレスなどは受け取らないだろう。何か別の物を考えなければいけないのか。
それは、面倒だな。
「ではお前は、誕生日に何が欲しい」
「え?」
「言ってみろ、それをやる」
「……物じゃなくてもよろしいの?」
なんだそれはと思う。
しかし、何をするにも手間はかかりそうだ。構わないと頷けば、アーデルハイトは楽しそうな表情を浮かべた。
少し、嫌な予感がする。
「それではわたくしは一日、あなたに干渉されないことを望みますわ」
「……無理だろう」
「無理ではありません。わたくし一人で出かけて遊んできますから、あなたは素知らぬふりをすればいいのです」
ひとりで? 何を言っているのかわかっているのか。
そもそも、誕生日のその日には祝いの席がある。欠席できるわけがないだろう。
却下だと言い放てば、誕生日の、その日でなくていいのですけれどとなお食い下がってきた。
「一人で出かけるのがまず許可できない。何かあれば困る」
「あら、犬達と一緒に行きますから大丈夫ですわ」
「……遊んでくるとは、何をしてくる気だ」
「いえ、特に何かをすることもなく街を見て回ったりするだけですけれど?」
つまりは、だ。
城の中にいることに飽きたのだろう。そういえば城下にはまだ連れて行ってはなかったか。
「街に、遊びに出たいのか」
「……まぁ、そういう事になりますわ」
「それならそのうち、連れていってやる」
「連れて行ってやる? それは一緒にということ? お忍びで?」
「そうだが」
「…………本当にわかってらっしゃらないのね。あなたがいてはわたくしが心の底から楽しめないのですけれど」
「は?」
「そもそも、どうしてあなたが連れて行く、なんてことになりますの?」
むっとした表情で、そのまま言葉続ける。
こんな風に言われ続けるのはあまりない。けれど、別に怒っているわけでもない。不機嫌であることもない。
本当に言いたいことを言っているのだろう。
「わたくしは、わたくしが好きなことをして遊びたいの。気の向くままに。絶対、口出ししてくるでしょう?」
する。しかしそれのどこが悪いというのか。
「王太子妃である自覚をもってならいいが」
「あら、ではよろしいのね?」
「まだ許可はしていない」
「してくださる?」
「……何をする予定なのか、全部言えばな」
「それは、好きなことをさせていただけないということじゃない。気に入らなければ認めないのでしょう?」
アーデルハイトはそう言って、もういいとそっぽを向いてしまった。
下手なことをされて事件になっては困る。あの犬達がそうはさせないとは思うのだが簡単に頷くことはできない。
万に一つというものがないとは言えないのだから。
「そのうち認めてやる。今はまだそういう時期じゃない」
「わたくしは、あなたのものではないのですけれど」
「そうだが、王太子妃であるなら王太子のものではある」
「……腹の立つこと」
何をいまさら。
お前は俺の言葉に乗ったのだ。
何をするのか見張ってやると言ったその言葉に頷いたのだから、そうされるべきだろう。
しかしそれに納得がいかないと言われても、もう遅いのだ。
形としてはお前は俺のものであるのだ。そう思うと少し楽しくなる。
「何を、笑ってらっしゃるの?」
「……笑っていたか?」
「ええ。気持ち悪い……」
気持ち悪いとはまたひどい。けれどそう言われる事も楽しくあることは否定しない。
「もういいですわ。今は諦めておきます」
「そうしてくれ」
いつか言いくるめられて一人で自由に遊ばせてしまうのだろうか。
いや、それはない。
ないと、俺は思う。
きっと誕生日のその日まで、この件を根にもって過ごすのだろう。
それを忘れてしまえるようなことを、何か仕掛けてやれるだろうか。
少し考えてみるかと、俺の心は少しばかり楽しくなるのだ。
「先に言っておくのですけれど」
「何をだ」
「わたくしの誕生日に、宝石やドレスやら、そういったものは贈っていただかなくてよろしいので」
「…………」
「あっ、まさかもう」
「準備してある」
「……頂いても、今も過分にあるのですけれど」
そうだ、忘れていた。
この女は、宝石やドレスを贈って喜ぶような、簡単な女ではなかったのだ。
いらないとは言わない。仕方ないというような顔できっと受け取るのだろう。
心から嬉しいと言わせてみたいとも思うが、それが簡単でないことも知っている。
ではこの女を喜ばすにはどうしたらいいのだろうか、と思案してみるものの。
それがよく、わからないままなのだ。
まぁ、一つ心当たりはあるのだが。
その手を使って喜ばすのは、俺があまりしたくない。
「国から頂くのもわかってますのよ。来年は、必要ありませんから」
「夫として何もしてないことになるだろう」
「別にそれでよろしいのですけれど」
「……それでは俺が甲斐性無しだと言われる」
「誰も言いませんわ」
仲の良い夫婦だと思われている。それなら誕生日に何か贈るのは当然の事だろう。
そうしなければ貴族たちに不和を疑われる可能性もある。
しかし、もう来年は宝石やドレスなどは受け取らないだろう。何か別の物を考えなければいけないのか。
それは、面倒だな。
「ではお前は、誕生日に何が欲しい」
「え?」
「言ってみろ、それをやる」
「……物じゃなくてもよろしいの?」
なんだそれはと思う。
しかし、何をするにも手間はかかりそうだ。構わないと頷けば、アーデルハイトは楽しそうな表情を浮かべた。
少し、嫌な予感がする。
「それではわたくしは一日、あなたに干渉されないことを望みますわ」
「……無理だろう」
「無理ではありません。わたくし一人で出かけて遊んできますから、あなたは素知らぬふりをすればいいのです」
ひとりで? 何を言っているのかわかっているのか。
そもそも、誕生日のその日には祝いの席がある。欠席できるわけがないだろう。
却下だと言い放てば、誕生日の、その日でなくていいのですけれどとなお食い下がってきた。
「一人で出かけるのがまず許可できない。何かあれば困る」
「あら、犬達と一緒に行きますから大丈夫ですわ」
「……遊んでくるとは、何をしてくる気だ」
「いえ、特に何かをすることもなく街を見て回ったりするだけですけれど?」
つまりは、だ。
城の中にいることに飽きたのだろう。そういえば城下にはまだ連れて行ってはなかったか。
「街に、遊びに出たいのか」
「……まぁ、そういう事になりますわ」
「それならそのうち、連れていってやる」
「連れて行ってやる? それは一緒にということ? お忍びで?」
「そうだが」
「…………本当にわかってらっしゃらないのね。あなたがいてはわたくしが心の底から楽しめないのですけれど」
「は?」
「そもそも、どうしてあなたが連れて行く、なんてことになりますの?」
むっとした表情で、そのまま言葉続ける。
こんな風に言われ続けるのはあまりない。けれど、別に怒っているわけでもない。不機嫌であることもない。
本当に言いたいことを言っているのだろう。
「わたくしは、わたくしが好きなことをして遊びたいの。気の向くままに。絶対、口出ししてくるでしょう?」
する。しかしそれのどこが悪いというのか。
「王太子妃である自覚をもってならいいが」
「あら、ではよろしいのね?」
「まだ許可はしていない」
「してくださる?」
「……何をする予定なのか、全部言えばな」
「それは、好きなことをさせていただけないということじゃない。気に入らなければ認めないのでしょう?」
アーデルハイトはそう言って、もういいとそっぽを向いてしまった。
下手なことをされて事件になっては困る。あの犬達がそうはさせないとは思うのだが簡単に頷くことはできない。
万に一つというものがないとは言えないのだから。
「そのうち認めてやる。今はまだそういう時期じゃない」
「わたくしは、あなたのものではないのですけれど」
「そうだが、王太子妃であるなら王太子のものではある」
「……腹の立つこと」
何をいまさら。
お前は俺の言葉に乗ったのだ。
何をするのか見張ってやると言ったその言葉に頷いたのだから、そうされるべきだろう。
しかしそれに納得がいかないと言われても、もう遅いのだ。
形としてはお前は俺のものであるのだ。そう思うと少し楽しくなる。
「何を、笑ってらっしゃるの?」
「……笑っていたか?」
「ええ。気持ち悪い……」
気持ち悪いとはまたひどい。けれどそう言われる事も楽しくあることは否定しない。
「もういいですわ。今は諦めておきます」
「そうしてくれ」
いつか言いくるめられて一人で自由に遊ばせてしまうのだろうか。
いや、それはない。
ないと、俺は思う。
きっと誕生日のその日まで、この件を根にもって過ごすのだろう。
それを忘れてしまえるようなことを、何か仕掛けてやれるだろうか。
少し考えてみるかと、俺の心は少しばかり楽しくなるのだ。
0
お気に入りに追加
1,564
あなたにおすすめの小説
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
転生したら冷徹公爵様と子作りの真っ最中だった。
シェルビビ
恋愛
明晰夢が趣味の普通の会社員だったのに目を覚ましたらセックスの真っ最中だった。好みのイケメンが目の前にいて、男は自分の事を妻だと言っている。夢だと思い男女の触れ合いを楽しんだ。
いつまで経っても現実に戻る事が出来ず、アルフレッド・ウィンリスタ公爵の妻の妻エルヴィラに転生していたのだ。
監視するための首輪が着けられ、まるでペットのような扱いをされるエルヴィラ。転生前はお金持ちの奥さんになって悠々自適なニートライフを過ごしてたいと思っていたので、理想の生活を手に入れる事に成功する。
元のエルヴィラも喋らない事から黙っていても問題がなく、セックスと贅沢三昧な日々を過ごす。
しかし、エルヴィラの両親と再会し正直に話したところアルフレッドは激高してしまう。
「お前なんか好きにならない」と言われたが、前世から不憫な男キャラが大好きだったため絶対に惚れさせることを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる