悪辣同士お似合いでしょう?

ナギ

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掌編

無意識の束縛

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お祝いしたんだからされるのもあった。



「先に言っておくのですけれど」
「何をだ」
「わたくしの誕生日に、宝石やドレスやら、そういったものは贈っていただかなくてよろしいので」
「…………」
「あっ、まさかもう」
「準備してある」
「……頂いても、今も過分にあるのですけれど」
 そうだ、忘れていた。
 この女は、宝石やドレスを贈って喜ぶような、簡単な女ではなかったのだ。
 いらないとは言わない。仕方ないというような顔できっと受け取るのだろう。
 心から嬉しいと言わせてみたいとも思うが、それが簡単でないことも知っている。
 ではこの女を喜ばすにはどうしたらいいのだろうか、と思案してみるものの。
 それがよく、わからないままなのだ。
 まぁ、一つ心当たりはあるのだが。
 その手を使って喜ばすのは、俺があまりしたくない。
「国から頂くのもわかってますのよ。来年は、必要ありませんから」
「夫として何もしてないことになるだろう」
「別にそれでよろしいのですけれど」
「……それでは俺が甲斐性無しだと言われる」
「誰も言いませんわ」
 仲の良い夫婦だと思われている。それなら誕生日に何か贈るのは当然の事だろう。
 そうしなければ貴族たちに不和を疑われる可能性もある。
 しかし、もう来年は宝石やドレスなどは受け取らないだろう。何か別の物を考えなければいけないのか。
 それは、面倒だな。
「ではお前は、誕生日に何が欲しい」
「え?」
「言ってみろ、それをやる」
「……物じゃなくてもよろしいの?」
 なんだそれはと思う。
 しかし、何をするにも手間はかかりそうだ。構わないと頷けば、アーデルハイトは楽しそうな表情を浮かべた。
 少し、嫌な予感がする。
「それではわたくしは一日、あなたに干渉されないことを望みますわ」
「……無理だろう」
「無理ではありません。わたくし一人で出かけて遊んできますから、あなたは素知らぬふりをすればいいのです」
 ひとりで? 何を言っているのかわかっているのか。
 そもそも、誕生日のその日には祝いの席がある。欠席できるわけがないだろう。
 却下だと言い放てば、誕生日の、その日でなくていいのですけれどとなお食い下がってきた。
「一人で出かけるのがまず許可できない。何かあれば困る」
「あら、犬達と一緒に行きますから大丈夫ですわ」
「……遊んでくるとは、何をしてくる気だ」
「いえ、特に何かをすることもなく街を見て回ったりするだけですけれど?」
 つまりは、だ。
 城の中にいることに飽きたのだろう。そういえば城下にはまだ連れて行ってはなかったか。
「街に、遊びに出たいのか」
「……まぁ、そういう事になりますわ」
「それならそのうち、連れていってやる」
「連れて行ってやる? それは一緒にということ? お忍びで?」
「そうだが」
「…………本当にわかってらっしゃらないのね。あなたがいてはわたくしが心の底から楽しめないのですけれど」
「は?」
「そもそも、どうしてあなたが連れて行く、なんてことになりますの?」
 むっとした表情で、そのまま言葉続ける。
 こんな風に言われ続けるのはあまりない。けれど、別に怒っているわけでもない。不機嫌であることもない。
 本当に言いたいことを言っているのだろう。
「わたくしは、わたくしが好きなことをして遊びたいの。気の向くままに。絶対、口出ししてくるでしょう?」
 する。しかしそれのどこが悪いというのか。
「王太子妃である自覚をもってならいいが」
「あら、ではよろしいのね?」
「まだ許可はしていない」
「してくださる?」
「……何をする予定なのか、全部言えばな」
「それは、好きなことをさせていただけないということじゃない。気に入らなければ認めないのでしょう?」
 アーデルハイトはそう言って、もういいとそっぽを向いてしまった。
 下手なことをされて事件になっては困る。あの犬達がそうはさせないとは思うのだが簡単に頷くことはできない。
 万に一つというものがないとは言えないのだから。
「そのうち認めてやる。今はまだそういう時期じゃない」
「わたくしは、あなたのものではないのですけれど」
「そうだが、王太子妃であるなら王太子のものではある」
「……腹の立つこと」
 何をいまさら。
 お前は俺の言葉に乗ったのだ。
 何をするのか見張ってやると言ったその言葉に頷いたのだから、そうされるべきだろう。
 しかしそれに納得がいかないと言われても、もう遅いのだ。
 形としてはお前は俺のものであるのだ。そう思うと少し楽しくなる。
「何を、笑ってらっしゃるの?」
「……笑っていたか?」
「ええ。気持ち悪い……」
 気持ち悪いとはまたひどい。けれどそう言われる事も楽しくあることは否定しない。
「もういいですわ。今は諦めておきます」
「そうしてくれ」
 いつか言いくるめられて一人で自由に遊ばせてしまうのだろうか。
 いや、それはない。
 ないと、俺は思う。
 きっと誕生日のその日まで、この件を根にもって過ごすのだろう。
 それを忘れてしまえるようなことを、何か仕掛けてやれるだろうか。
 少し考えてみるかと、俺の心は少しばかり楽しくなるのだ。
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