悪辣同士お似合いでしょう?

ナギ

文字の大きさ
上 下
158 / 245
本編

144

しおりを挟む
「頭が痛い……」
「随分お飲みになられたのね」
「ああ……」
「父様、いたい?」
 フリードリヒに大丈夫だと笑うリヒト。強がりかしら。
「あなたは今日は会議ですよね。わたくしはガーデンパーティーですけれど」
「ああ。途中で顔を出す。フリードリヒもずっとそちらか?」
「はい」
 今日の話をしながら朝食を終え、しばらくすればリヒトは出ていく。
 それは今までと変わらぬ事。フリードリヒと一緒に見送って、わたくしたちも支度を。
 ガーデンパーティーは城の庭で。しきりはわたくしですから皆様をお迎えしなければいけませんもの。
 時間は昼から三時間くらい。夕刻までにはお開きになる予定。けれど、それより早くいらっしゃる方もいます。
 子供たちにとっては顔を合わせる機会にもなります。きっと主だった貴族の方達は子供たちを連れてくるでしょう。
 庭ですし、ドレスも少しお洒落なくらいで気張ることもなくできるというのは幸い。
 すでに天幕などの用意もされているはずであとはわたくしが確認に行くだけ。軽食や菓子も事前に打ち合わせしてますし。
「フリードリヒ、母様はパーティーの下見に行きますけれど、あなたどうします?」
「いっしょにいく!」
「そう。じゃあ……服のかえは持っていきましょうか」
 侍女に声をかけてフリードリヒは服の変えを。ローデリヒは今日も乳母任せになってしまいますわね。
 庭に向かえば準備はほぼ終わっており、テーブルや椅子などもすでに並んでいる。
 子供たちが遊べるようにと、天幕の下に絨毯を敷いてクッションなども置いて。さっそくフリードリヒがそこに駆け込んでしまいましたわ。
「フリードリヒ、お庭から出ちゃだめよ」
「はーい!」
 元気なお返事。周囲にいる皆にもそれとなく見ておいてと言いつつ、準備のチェック。
 皿やグラスの数は多めに。今日は熱いので冷たい飲み物もすぐ持ち出せるよう近くの部屋に準備を支持していると、犬達が子を連れてやってくる。
 三人の子は挨拶をするとすぐにフリードリヒの所へ。きゃっきゃとクッションを投げ合ったり追いかけっこをしたりと楽しそうにしている。
「この辺りの警備は問題なく終わっている。他国のご婦人方も少しずつ集まっていた」
「そう。それじゃあ少し早めにお通ししましょうか。わたくしに挨拶をするだけでしょうし」
 遠方からいらっしゃった方は今日、お帰りになられる方達もいる。そう言った方達は、本当はリヒトにご挨拶したいのでしょうけれど、全てにお応えはできませんし。
 入り口で御記帳いただいて、わたくしが言葉を受けて伝えておきますと言えばそれで形にはなるのですから。
「今日はフリードリヒ王子もずっと一緒? 俺達の子らを護衛かわりでいい? リシェがいると皆が世話焼きたがって危ないことはしないだろうけど」
「そうね。誰かは近くにいてあげてくれる?」
「それはもちろん」
 ツェリとフェイルの子、リシェは唯一の女の子。だからフリードリヒと、ジークの子とハインツの子とで騎士ごっこというか。傍で見ていてほほえましいものはあるのです。
 いつでもお客様をお通しできると連絡が来て、それではご案内して、とわたくしは命じる。
 城の中庭に誂えた茶会の場所。中庭に通じる出入り口を受け付けとして、お名前をいただいてからお通ししていく。
 一番にいらっしゃった方は隣国の外交官の方。我が国とは特に、何かすぐさま取り決めなければいけないこともないので世間話がてら、今後ともと挨拶され。他にもいらっしゃった方達と順番に巡っていく。
 しばらくすると、他国からのお客様の姿が消え、貴族達が集い始めました。
 皆様、わたくしに最初に挨拶を。それから、お子様がいらっしゃる方はあちらにどうぞとフリードリヒのいる方を示す。
 フリードリヒよりも大きな子達もいるようで、天幕の一つは子供たちが集う場所になってしまいました。
 ある程度、物事のわかる子達には親から失礼の無いようにだとか、仲良くなってきなさいとか言われているのでしょう。
 話しかけたり、何かしらの行動はとっているようですがやはり仲がいいのは犬達との子でした。
「よし、よくやってる」
「さすが我が子……」
「……あなた達、変なこと刷り込んでないわよね?」
 何も、とハインツもジークも言う。ただ、近寄ってくる者達はリシェにちょっかいを出すから追い払えと言ってあるだけだ、と。
 リシェを引き合いにして、上手に近づいてくる人たちを払っているという。
 それはフリードリヒに近づけさせない為でもあるのはみえみえ。わたくしはそこまで気を遣わなくていいのにと思うのですけれど。
 フリードリヒの様子を視界の端に捕えつつ、皆様に挨拶をしていると遠くにまた人垣。
 どうしたのかしらと思えばどうやらリヒトが来た様でまっすぐこちらに向かってくる。
 わたくしとお話をしていた方は後ろに下がられて、リヒトはわたくしの所へ。
「上手く回っているようだな」
「ええ」
「フリードリヒは?」
「そこで遊んでいるわ」
 そう言えば、子供たちの方に視線を向けて笑う。あれを邪魔するのはと声をかけるのはやめたそうです。
 リヒトは集った貴族達相手に、これからも国を支えて欲しいと言葉を向ける。
 昨日の夜会などは、対外的な側面が大きかったですから。それを貴族達もわかっているのでしょう。
 わたくし達が並んでいると、それに気付いたのかフリードリヒがこちらに来ようとする。
 さすがに大人の間を抜けてくるのは無理でしょうから、わたくしはリヒトに目配せして示す。
 皆の間を抜けて迎えに行けば嬉しそうに笑う。リヒトはフリードリヒを抱え上げました。
「父様! おしごとは?」
「まだある。少し抜けてきたんだ」
 そっか、とフリードリヒは残念そう。これから遊んでもらえると思っていたのかもしれません。
 あとでなとリヒトは笑ってフリードリヒを降ろすとその場にいた子供たちにも笑いかけました。
「皆で仲良く遊んでくれているのだな。これからもそうしてほしい」
 彼らは何を言われたのか、それはまだわからないのかもしれません。子供に向けた何気ない言葉ですけれど、周囲の大人たちからすれば、この先にある治世を支えてくれと言っているようなものでしょう。
 それはまた余計なことなのではとわたくしは思ってしまう。
 わたくしとリヒトでは、きっと政治に対しては考え方が違うのでしょう。
 フリードリヒがきっと王位を継ぐことになる。
 わたくしはそれを理解して、覚悟しようとしている。けれど、まだ心のどこかで上手にそれを扱えないままでもあるのです。
 きっとそれは見通されている。
 わかっていますのよ。フリードリヒが王にならなくても良いようにするのが不可能であることは。
 わたくしの子はあなたの子であるのだから。
 仕方ない、と割り切ってしまえばそうできない。不安があるの。リヒトの子でもあるけれど、わたくしの子でもあるのですから。
 わたくしはお母様に、貴族の方に迷惑をかけてはいけない。本流に血を残すようなことは畏れ多いとずっと教えられていて。
 それは、今も変わらず、わたくしはそう思っている。それが正しいと、思っている。
 そんなことは無いと言われるけれど、この考えは覆らないのです。
 リヒトはこれを根深いなと苦笑するばかり。ええ、本当に根深いのよ。
 今も隣で笑っているけれど、心の中は掻き混ぜられたような感覚。取り乱したりはしないけれど、わたくしは不安になるの。
 何故、そんな気持ちになるのかわからないのだけれども。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

最初から間違っていたんですよ

わらびもち
恋愛
二人の門出を祝う晴れの日に、彼は別の女性の手を取った。 花嫁を置き去りにして駆け落ちする花婿。 でも不思議、どうしてそれで幸せになれると思ったの……?

転生したら冷徹公爵様と子作りの真っ最中だった。

シェルビビ
恋愛
 明晰夢が趣味の普通の会社員だったのに目を覚ましたらセックスの真っ最中だった。好みのイケメンが目の前にいて、男は自分の事を妻だと言っている。夢だと思い男女の触れ合いを楽しんだ。  いつまで経っても現実に戻る事が出来ず、アルフレッド・ウィンリスタ公爵の妻の妻エルヴィラに転生していたのだ。  監視するための首輪が着けられ、まるでペットのような扱いをされるエルヴィラ。転生前はお金持ちの奥さんになって悠々自適なニートライフを過ごしてたいと思っていたので、理想の生活を手に入れる事に成功する。  元のエルヴィラも喋らない事から黙っていても問題がなく、セックスと贅沢三昧な日々を過ごす。  しかし、エルヴィラの両親と再会し正直に話したところアルフレッドは激高してしまう。 「お前なんか好きにならない」と言われたが、前世から不憫な男キャラが大好きだったため絶対に惚れさせることを決意する。

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

処理中です...