悪辣同士お似合いでしょう?

ナギ

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 身体が、ぎしぎし言っているような。
 無理をさせたからと抱き上げて移動しようとするリヒトに、それはしなくていいと強がったもののつらいのは変わらずで。
 目の前に並ぶ宝石類がどんなものか、あまりよく目に入りません。
「気にいるものはございませんか?」
「え? ああ、いいえ。沢山あって目移りしてしまって。どれも素敵なんですもの」
 商人はほっとした様子。
 わたくしは隣にいるリヒトに視線を向け、選んでくださる? と微笑みました。
「任せてくれるのか?」
「だって、買ってくださるのでしょう?」
「ああ。自分の選んだものでお前を飾れるのは嬉しいしな……」
「いつもそう言いますものね。ああ、でもそちらとそちらは駄目ですわ。それはわたくしが買いますの」
 わたくしはイヤリングとレックレスの揃いのものを示して別にして置いてと商人へ。指輪もあったのですが、彼女の指のサイズもありますし。
 あまり派手なものではなく、普段使いもできそうなシンプルなものなのでこれなら困らないでしょう。
「自分で買うのか?」
「ええ、セレンファーレさんへの贈り物ですのよ」
「ああ……それは私もすべきだろうか」
「リヒトはしなくていいと思いますわ。それにお嫁入り道具の準備だけで十分でしょうし。そもそも贈ったなんてミヒャエルが知ったら妬きますもの」
 あなただって、わたくしがどなたから宝石を貰ったら気に入らないでしょう? と問えばそうだなとリヒトは笑う。
 お嫁入り道具というのは国からのものだけれど多岐にわたるもの。ドレスや宝石の類は王家の物を分け与えたり。そう行ったものの中にはリヒト自身がかつて買ったものだって入ってるでしょう。
 それから茶器や、気に入りのものなど。家具だってそう。セレンファーレさんは家具はあちらのものをと言っていましたが化粧台やらはこちらで準備しましたし。
 そして国として、誠意をこめての特産品やらなにやら。形あるものもですけれど交易の分野では広がりを見せるでしょう。
 わたくしが嫁いでくるときだって、互いの国に恩恵があったのです。今回は、王家同士のものですからそれは一層、広がるでしょう。
 リヒトは宝石類をいくつかわたくしに。それから贈らなくて良いと言ったのに、華美ではないシンプルな宝石箱を一つ。
 その宝石箱にわたくしの買ったものを入れてほしいと言付けていました。
「宝石箱ならいいだろう?」
「そうですわね。身に着けるものでもありませんし、わたくしが贈ったものが入っているというところで問題ないでしょう」
 宝石箱と、宝石と。夫婦からの贈り物となるのでしょう。
 商談を終えて、それでは後程、包装してお持ちいたしますと商人は部屋を出て残ったのはわたくしたちだけ。
 するとリヒトは大丈夫かと問うてきました。
「何が、ですの」
「体調だ。悪いな」
「……仕方なかったとはいえ、やりすぎたとは思ってらっしゃるのね?」
「ああ。悪かった」
「……夫婦ですので、助け合いは大事でしょう」
 そう言ってもらえてよかったとリヒトは笑って、わたくしの頬を撫でる。
 そのまま顔を寄せてくるので何故と思って身を引けば、ぴたりと動きを止め。
「いやか?」
「く、口付される意味がなくてよ?」
「俺がしたいからだ」
 悪戯するように笑うので、わたくしは困ってしまう。
 なんなの。なんなの、この方。昨晩、欲は満たされたはずなのにまだお望みなのと思ってしまう。
 したいからと言って迫る。拒否するのが一拍遅れて、唇が重なって。
 触れるだけで、満足はしてないのでしょうがそれだけで離れたのは部屋へ、来客の報せがあったから。
 ツェリはこういった事に動じませんから、わたくしももう慣れてしまって。
 けれどさすがに、今朝は体は大丈夫かと問われてしまいました。それも、明日からまた移動があるからですが。
 来客は、サレンドル様。
 これは昨日のことを問い詰めなければと思っていると、そんなわたくしの決心を鈍らせるような、にこやかな笑顔で。
 そう、まるで昨晩の原因はこの方にあるのにまったく、反省もしていない。悪びれていないような表情だったのです。
「明日発たれると、次にお会いするのはいつかわかりませんから」
「……サレンドル様」
「なんです?」
「……いえ、もういいですわ。何を言っても流されるような気しかしませんもの」
 ははは、そうですねと軽く肯定されて、わたくしはため息をひとつ。
 リヒトをそっと見れば何も言いませんので、もしかしたらわたくしが知らない間に二人の間では、何か話があったのかもしれません。
「昨日の物は臣下が私に含ませ、セレンファーレ姫とどうにかさせようと思っていたものでね」
 しかし、事前にそれがわかり没収して。間違えて振舞ってしまったのだとサレンドル様は仰います。
 ちらとリヒトを見れば、何を言っているというような顔なのでそれは信じていいものではないでしょう。サレンドル様が間違えて、というのがにわかに信じがたいのです。
 しかし、そうしておくべきところでもあるはず。なのでわたくしたちは何も言いませんでした。
 それをどうとったのかはわかりませんけれど、にこりとサレンドル様は微笑まれました。
 そしてしばらくお話をして、サレンドル様は退室される前にそうだと零されました。
「リヒテールに向かわれる途中、小高い丘があるのです。そこには先の戦いで命を落とした者達の慰霊碑がたっていて、良ければ途中、祈っていただけますか?」
 惨憺たる戦いでも、たとえ前王の側についていたとしても失われた命は命ですからとサレンドル様は仰いました。
 ひどく、優しげな瞳で。
 ああ、この方はこの事を言いに来たのねとわたくしはサレンドル様を見やりました。
 わたくしはこの方を王としてあるべく、自らを律し。けれど、遊びの余裕も備えていらっしゃって。
 ある一定以上、人を踏み込ませない方だと思っていたのですけれどそうではなかったのかもしれないと思いました。
 そしてわたくしは察したのです。その慰霊碑に祈る、ということは――モニアさん。つまりハルモニア嬢の為にも祈るということ。
 わたくしにとってあの方は、仲が良いわけでもなく。良い思い出を持った方でもありません。
 けれど、ここで彼女が本当はどこの誰であったか知っているのはわたくしだけですから。
 わたくしはええ、と頷いて。祈りますわとお約束したのでした。
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