悪辣同士お似合いでしょう?

ナギ

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本編

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 わたくしが夜会の準備をしていると、ディートリヒ様も一度、着替えに戻られました。
 そのお顔を見た時、わたくしはどうしましたのと思わず問うてしまったのです。
「どう、とは……」
「いえ、お疲れのようですから……」
「色々な話を詰めていただけだ。そんなに、わかるか」
「ええ」
 とりあえず、お座りになってとわたくしは促しました。ツェリにはお茶をと命じて。
 傍によると、ディートリヒ様はわたくしの手をとりその甲に口付をひとつ。
 何をしているのかよくわからなくて、本当に参っているのだなとわたくしは思ったのです。
「夜会、大丈夫ですの?」
「ああ」
「まだお時間がありますから、一眠りされては?」
「寝たら起きれないような気がする」
「起して差し上げますけど」
「寝起きの顔では夜会に出れない」
 それもそうですわね。
 ではせめてこちらで体を休めてくださいと言うと、傍にいてくれないのかと、そんなことを突然仰って。
「傍にいて欲しいのです?」
「請えばいてくれるのか?」
「まぁ、はい」
「では傍にいてくれ」
 隣にと座らされディートリヒ様はわたくしの肩口に頭を置かれました。
 そのまま瞳を閉じ、色々と面倒な話ばかりだと零されました。
「国境を明確にしたいだとか、この場所の整備はだとか。できる王ゆえに求める者も大きい。どちらも負担はするが、疲弊しているヴァンヘルより富めるこちらのほうがやるべきだろうと言われると、確かにそうでもある」
 しかしすべてをこちらで負担するわけには、とディートリヒ様は仰ります。
 ええ、それはわたくしもそうかと思いますわ。
 しかし、ヴァンヘルの人々の暮らしがどの程度なのか、わたくし達にはわかりません。
 今まで国としてのお付き合いが薄かったのですから、それは当然でしょう。
 いくら王族の方達が立派な衣服を纏っていてもそれは基準になりませんわ。それは最低限の礼儀なのですから。
「ではヴァンヘルに足をお運びになって、どの程度の暮らしを皆様がされているのかご覧になっては?」
「は?」
「だって、わからないのでしょう? 国の端で食べるに困る者達を狩りだしてまで国境の整備を、とは思わないでしょう? ある程度、安定した生活をしている、もしくは国境の整備によってそうなれる方達がいらっしゃらないと」
 国の中心にいるであろう貴族たちは、きっとそういった肉体労働にはでてきませんからお金を。
 ディートリヒ様が行かれるとしって、開かれる夜会やらの経費をそちらに回させればよろしいのではなくて? とわたくしは提案しました。
 ディートリヒ様はそれを聞いて、なるほどと零されました。
「そうだな。確かにヴァンヘルの国力がいかほどか、量れる基準がない……」
 その提案もしてみるかとディートリヒ様は笑ってわたくしの肩から頭を外されました。
「もうよろしいの?」
「お前の支度の邪魔もできんだろう?」
 行けと言われ、わたくしは着替えに戻ります。身に着けるのは、与えていただいたあのドレス。
 それから宝石。
 わたくしが準備を終えるとディートリヒ様も準備をすでに終えられ、先程よりすっきりとした表情をなさっていました。
「そのお顔なら皆様の前に出ても大丈夫ですね」
「休みなく動いているのは皆も同じだ」
「そうですわね」
 では、とわたくしをエスコートして。わたくし達は夜会にいらっしゃる方達をお迎えします。
 入り口でお迎えして、次々といらっしゃる方達にご挨拶を。
 来場順は、この国の貴族は早めに、それから他国の方々、最後にヴァンヘルの皆様となっています。
 国内の貴族はすでに中に入り、これからいらっしゃる方々をお迎えできる状況。
 国王様たちは一番奥のお席に。そこにセレンファーレさんもいらっしゃいます。レオノラ嬢もその傍に。先程、ガゼル様にも挨拶を頂きましたがさすがに他国の方々がいらっしゃるところでは何もされないでしょう。
 一応、犬達を彼女たちの傍に配してはいますが。
 そして他国の皆様も少しずつ赴かれ、挨拶をして中へ入っていかれます。
 その入場待ちの列の中にお父様の姿を見つけ、そしてその隣に立つ男性の姿にわたくしは瞬いたのです。
 ちょっとミヒャエル、なんでそこにいますの?
 それにはディートリヒ様も気づかれたようでわたくしに視線をひとつ。
 それにゆるく首を振って、わたくしは何も知りませんのよと示しました。
 お父様とミヒャエルがわたくしたちの前に来て、挨拶を。
「お父様、よくいらっしゃいました」
「今宵はお招きありがとうございます。こちらは招待状はないのですが……私の親類の男爵となります。世間勉強がてら、連れてきたのですが中に連れて入ってよろしいでしょうか?」
 親類。
 なるほど、あくまで王子であることは隠していくのですね。
 わたくしはよろしいのではなくて、と笑みを。ディートリヒ様もかまわないと頷きました。
「ありがとうございます。ミヒャエル・トランジットと申します」
 トランジット。それは確かに、親類にある名前でした。
 何故ここにいるのか、今は尋ねるべきではないでしょう。あとで話す時間を作る必要がありそうです。
 お父様からの手紙には一緒に来る、なんてありませんでしたからミヒャエルがわがままを言ってついてきたのでしょうけど。
 お父様とミヒャエル達を見送って、次の方のお相手を。
 そして他国からの使者の方たちも中へ入り、最後にヴァンヘルの方々を。
 城に滞在されている皆様を使いの者に呼びに行かせました。
「皆様をお迎えしたら最後ですわね」
「ああ、それにしても……何故いるのか」
「わたくしは何も聞いてませんわ」
「俺もだ」
 勝手にこんなことをされては困るなとディートリヒ様は苦笑して、すっと瞳を細められました。
 その視線の先には案内され、こちらにくるヴァンヘルの皆様がいらっしゃったからでしょう。
「こんなに盛大な夜会とは思わなかったのだが」
「あなたが来ると聞いて見物にこられたんですよ」
「ああ、知ってる。俺を見定めて、国として繋がりを持つ意味があるのかを考える材料を得る為にだろう?」
「よくおわかりだ」
 サレンドル様は笑ってこの後、国に帰ったらすぐ他国から妃がどうこうと言われるだろうなと仰って。
「私もディートリヒ殿のように傍らに美しい人を早く伴いたいものだ」
「ふふ、きっとすぐにそういう方とのめぐりあわせがありますわ」
 そうだと良いのだがと肩をすくめられ、サレンドル様はそれではと視線を扉の先へと向けられました。
「佳い夜に」
「そうなればいいが」
 ディートリヒ様の案内で中へ。その瞬間、皆様の視線が一斉に集います。サレンドル様はその視線をさらりと流すように笑って受け止めているのか、かわされているのか。
 この方もまた、傑物なのだとわたくしは傍を歩みながら思っていました。
 サレンドル様が中に入られ、まず国王様に挨拶を。国王様は歓迎のお言葉を向けられ、乾杯の声をかけられました。
 それからダンスホールに音楽が流れ始め、最初のダンスはわたくしたちのお仕事なのです。
 わたくしはディートリヒ様に手を引かれ、そちらへと向かいました。
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