悪辣同士お似合いでしょう?

ナギ

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箱庭編【過去編】(読まなくても問題ありません)

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 ハルモニア嬢の上手な手管により、多数の子息がセレンファーレさんから離れました。
 暴君からすれば独り占めできるのでこれ以上ないことでしょう。
 令嬢の皆さんは、彼女が微笑んでも関わらないようにしています。
 ハルモニア嬢が怖かったからです。そして、彼女の命により嫌がらせを行っているものたちもいました。
 偶然見かけたセレンファーレさんは泥水でもかけられたのでしょうか。
 汚れており、見るに堪えぬものでした。その格好でこの箱庭の中を歩かれるのは良い気分ではありません。
「……ハインツ、わたくしのドレスあったでしょう? 一枚差し上げてきて」
「優しいアーデが少し、出てきた?」
「いえ、わたくしの視界に泥まみれの令嬢がいるのはわたくしが嫌なだけですわ」
 そう、とハインツは笑ってわたくしがなにかあった時の為に持ってきているドレスを一枚手に取りました。
 ハインツはそれを持って彼女の元に行き、開いていた部屋に案内したそう。
 セレンファーレさんがお礼を言っていたと戻ってわたしくしに告げました。彼女はわたくしにお礼をと、ついてこようとしたそうですが、上手に撒いてきたそうです。
 お願いを聞いてくれてありがとうと撫でると、本当に嬉しそうにします。
 しかし、この件もまた利用されてしまいました。
 セレンファーレさんがわたくしのドレスを盗み、ハインツを籠絡したとか。ハインツがわたくしのドレスを盗み、彼女に送っただとか。
 唐突すぎて思わず笑ってしまったのですが、ハインツは不本意そうでした。そして、この話は暴君にも届いてしまったようです。
「どういうことだ」
「どういうことと仰られましても……」
 暴君はお怒りの様子です。
 どうやってこのお怒りを鎮めようかしらと思うのですが、暴君の視線はわたくしを通り越してハインツに向いております。
 これはいわゆる、嫉妬でしょう。
「あの噂は真実ではありませんよ。わたくしが彼女のドレスが汚れているのをお見かけして、そのままではとわたくしのものを贈っただけですわ」
「その男がと言う話は」
「わたくしが持って行ってとお願いしましたの。だってわたくしが彼女と直接あったら、あなたわたくしに何をたくらんでるって問い詰めますでしょう?」
 興味なんてないのです、とわたくしはミヒャエルに告げます。
 ミヒャエルはしばらく黙っていましたが、そうだなと頷きました。しかし、やはり嫉妬の炎は燃え上がったままなのでしょう。
「おい、その気はないんだな」
「ありません、殿下。そもそも俺はアーデのものなので、アーデ以外に心動きませんのでご心配されるようなことは絶対にないと、神に誓います」
 ハインツは冷めた視線を向けています。そんなこと言われても迷惑だと思っているのでしょう。
「わたくしのものをいじめないでくださいませ。下心などないのはわたくしも誓いますわ」
 ミヒャエルはそうか、とまだ完全に納得はできていないのでしょうが引き下がりました。
「……それと、セレンに変な噂がある。知っているか」
「変な、とは?」
「……男を漁っている、と」
「わたくしはそのような噂、しておりませんわ。そういうお話を聞いたことはありますが」
 そうか、と暴君は一言落とします。いらだっているのが、見て取れました。
 暴君が帰って行くのを眺めて一息。けれどまだ終わりではありません。
 不機嫌なハインツがそこにいるのですから。
「アーデ」
 ねだるような声に仕方ありませんわねとわたくしは苦笑します。
「ええ、いらっしゃい」
「あっ、ずるい!」
 俺もと飛びついてくるフェイルをハインツは蹴り飛ばし、わたくしの膝の上に頭を置きます。
 撫でてあげれば嬉しそうに瞳を細めていました。
 わたくしは犬達に、それとなくセレンファーレさんを助けてあげてと言いつけました。
 わたくしの近くにいるときだけで良いので、と。
 というのも、わたくしが近くにいる時に何かあるとわたくしのせいにされそうではないですか。
 ハルモニア嬢の策略に乗せられるのは嫌ですし。
 わたくしのこの命は効果がありました。
 暴君もいつも彼女の傍にいるわけではありません。
 食堂で水をかけようとするものがいればジークがその前を通り一瞥し、階段から背中を押そうとするものがいればハインツが声をかけ。フェイルは何か計画があることを突き止めてきたり。
 しかし、わたくしのこの行為はハルモニア嬢の怒りを募らせるものだったのかもしれません。
 ハルモニア嬢の思うように事が進んでいないのですから。
 箱庭の中の雰囲気は最悪でした。
 彼女が来る前より、格段に空気が悪いのです。
 そんなある日の事――それは起こりました。
 わたくしがいつものように自分のお気に入りの場所へいく最中の事です。
 わたくしの場所は箱庭の中でも奥まったところにあり、あまり足を運ぶものはいません。わたくし達だけです。
 が、今日はそうではなかったのです。
 小さな悲鳴が近くの茂みから聞こえました。
「何?」
「あー……あそこじゃない?」
 そう言ってフェイルが示した先では数人が一人を囲んでいたのです。
 あまり気分のよろしくない光景ですが、その囲まれているのがセレンファーレさんだと気づきました。
 いや、やめてと泣きそうな声です。
 さすがにわたくしも何をされようとしているのか、一番悪い想像をしてしまいました。
 そしてそれはきっと正解です。
「あれはさすがにいただけないわ、連れてきて。わたくしは先に行っていますから」
 その一言に犬達は頷いて、彼女を助けに向かいました。わたくしはそのままいつもの場所へ向かいます。
 鈍い音が聞こえたので囲んでいた数人は三人が処理したのでしょう。きっとすぐには帰れない状態でしょうし、見つけてしまったのはわたくし。
 最後までお話を聞いてさしあげるのが筋でしょう。
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