悪辣同士お似合いでしょう?

ナギ

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掌編

湖畔にて

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バカンス編続き
いちゃいちゃしてるだけのやつ。



 馬車に中からきらきらと輝く湖が見える。
 目的地近くになると、フリードリヒもローデリヒもその光景を食い入るように見つめている。
「おっきい!」
「おおきな、みずたまり」
「あれは湖というのだ」
 みずうみ? と首をかしげる二人に、リヒトが教えてあげる。
 こうやって過ごすのはいつぶりかしら。
 リヒトが王位を継いで、仕事に明け暮れて。二人に構う時間はもちろんあったけれど、どこか遠くへ行くなんてことはなかったわ。
 言われてだったけれど、こうして外に出るきっかけを作ってもらったのだから良かったかもしれない。
「ほら、あれがしばらく過ごすところだ」
 遠くに見える、湖畔側の館。それは王家の別荘。
 そこに到着したのは昼過ぎ。
 馬車から荷を下ろすのはわたくしたちの役目ではない。
 屋敷の中に入り、そこを整えていた侍従達を労いサロンへ。
 湖に張り出すように作られたテラスは涼やかな風が吹き込んでくる場所でした。
「そのうち船を出してやろう」
「ふね?」
「ああ、湖の上を進むものだ」
 フリードリヒとローデリヒは楽しそうにしているけれど、船が何かわかっているのかしら。
 けれど、今日は到着したばかりですしこちらになじむべき。
 遊ぶのはまた明日にして、今日はゆっくりしましょうとわたくしは二人に着替えを促す。
 その間に茶なども準備してくれ、いつもながらに気が利くツェリ。ツェリも子供を連れてきているのだからそのうち、休む時間を作れたら良いのだけれど。
 子供達はリヒトにべったりくっついている。
 この人が休まないからとこうして無理にでも連れ出したのに、子供達の相手をしたら余計に疲れてしまうのでは?
 けれどなかなかこうして遊べないリヒトに構ってほしい気持ちもわかる。
 きっとリヒトは大丈夫だと言うでしょうし、わたくしはほどほどにしなさいねと言う事しかできないでしょう。
 しばらくはしゃげばやはり旅の疲れか、子供たちはうとうとし始める。
 ソファの上でリヒトに寄りかかる様に寝てしまったものだから、動けないと困っている様子。
 仕方ないと助けてあげて、子供たちを寝室に。
「元気だな」
「ええ、けどいつもよりはしゃいでいるわ」
「アーデルハイト、子供たちは皆に任せて少し出ないか」
 久しぶりに二人で過ごしたいとわたくしの耳元で囁く。
 でも、と思うのはいつ二人が目覚めるかわからない。目覚めた時にいなければ泣いてしまうかもしれないわ。
 そう思っていると面倒はみますのでとツェリが言ってくれる。
 任せて大丈夫だなとリヒトがすぐに判じて、わたくしの手を引いて外に。
「強引ね」
「そうしなければ付き合ってくれないだろう」
 馬屋に行って、愛馬に鞍を。そしてわたくしを乗せて自分も乗る。
 どこに行くのと聞く間もなく、リヒトは馬を走らせ始める。といっても、ゆっくりなのでしょうけれど。
「どこにいきますの?」
「決めてない。湖の周りを少し進んで、戻ろうか」
「お任せするわ。そもそも馬に乗せられたわたくしは運ばれるだけですもの」
「ああ」
 寄り添えば嬉しそう。
 こうして抱き寄せられるのも久しぶりでは?
 だって、いつもはわたくしもリヒトも子供たちを抱えるばかりですもの。
 そう思ってふと、リヒトを見上げると前を向いて、凛々しいというか。
 やはり、このお顔立ちはわたくしの好みと再確認するだけでした。
「本当に、ずるいわね、あなたは」
「何がだ」
「馬に乗っているだけでわたくしの心をくすぐるのですもの」
「お前こそ、いつも俺の心をくすぐっているが」
「あら、そうなの。それはよろしいことで」
 かわいげのない物言いもかわいいなとリヒトは言う。
 結局はかわいいと言っているのだけれど、わたくしはかわいいと言われる年は過ぎているのよ。
「もう少し早い時間であれば、靴を脱いで湖に入るかと言うのだが」
「それは子供たちをつれて、またしましょう?」
「そうだな。しかし……二人きりなのだから、少しくらい子供らの事を忘れてくれてもいいだろう?」
 こっちを向けと顎を掬い上げられて口づけられる。
 無駄のない動きねと感心しつつ、欲しいと強請るような舌の動きは拒む。
 それに残念そうな顔をするのだけれど、駄目よ。
 だってこの人、外でも抱きたいとか言い出しそうだもの。わたくしは、いや。
 その気になんて絶対になってやりません。
「つれない……」
「そういうのもお好きでしょう? わたくしに遊ばれるのだから」
「だがあまりにもつれないと強硬手段に出るぞ」
「……時と場合を考えてくだされば、ちゃんとつれてあげますわ」
 わたくしの言葉にそうかとにこやかに笑む。やだわ、これ、絶対に旅の間に一度は抱かれる。
 一度くらいであればいいのだけれど。かわせるかしら……城では時々、乳母たちに預けて相手もしているけれど、それでも回数は減っている。
 たまっているのはわかっているのだけど付き合えばわたくしが大変ですし。
 リヒトにはほどほどを覚えていただきたいのだけれど、あなたのほどほどはわたくしの大変なのですよね。
「アーデルハイト、見ろ。オシドリだ」
「どちらに?」
 あそこだ、と湖の端を示される。あら、本当に仲良く遊んでいる。派手な雄と地味な雌、だったかしら。
 けれど、リヒト知ってますの? あの鳥は一年ごとにパートナーを変える鳥ですのよ。
「式典のリヒトの方が、派手ね」
「お前もあれほど地味ではない。俺はあのオシドリのようにならぬよういつもお前に愛想をつかれないようにしているつもりなのだが」
「あら、ちゃんとご存知でしたのね。大丈夫よ、わたくし、パートナーを変えるなんてことしませんわ。そもそもさせてくれませんでしょう?」
「ああ、させない」
 まぁ、このようなことを言う前に。
 わたくしもリヒトが好きで。きっとこれ以上、このような感情を抱く方は現れないと思っているのですけれど。
 惚れたほうが負け、というけれど互いが互いに負けているのです。それをお互いに、また知っている。
「ねぇ、そろそろ戻りません? 日も暮れてきそうよ」
「そうだな。あと一度、口付けたらな」
「もう」
 仕方ないわねと応えてあげる。
 二人だけ、というのは久しぶり。一緒に出てきて良かったかもしれないわ。
 いつも皆のリヒトですもの。今だけ独り占めできている気分。
 ああ、とても幸せとわたくしは思う。




いつもの!いちゃついてるだけの!
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