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2:憂鬱の本当の始まり
オウサマの後継
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「こちらにいらっしゃったのですね。ララトア様、少し失礼します」
そう言って、ヒースさんはオウサマの耳元に口寄せて何事かを囁いた。
オウサマはそれを聞いて、瞬いて。
そうか、と一言零す。
オウサマのその声は何の熱も無い。冷えた、淡々としたものだった。
その声を聞く、オウサマの様子を見るヒースさんは不安げでもある。
なんだろう、この――空気の痛さは。
「ララトア、ごめんね。急用ができてしまった。今日は楽しかったよ」
オウサマは。
にこっと笑って俺に先に行かせてもらうねと言う。
え、あ?
さっきまで向けてた笑みなんてない。少し前までの、笑い方。
拍子抜けするほど、そこに色めいたものはなかった。オウサマは、上手だな。
隠すのが。いや、隠したんだろうか。消したんだろうか。どっちなのか、俺にはわからない。
「また地下迷宮は案内するよ。それから……返事は、今日でなくていいから」
「へ?」
「待ってるよ」
その時のオウサマの表情は。
ああ、いや。オウサマ、じゃないな。
なんでだろうか。オウサマじゃない――王様ではない、ベスティアさん自身の表情をみた気がしたんだ。
何とも言えない表情だった。
色がない、というのかな。そこに何も、感じられなかったんだ。
俺は、何も言えないままにベスティアさんを見送るしかできなかった。
その後、学校にいって過ごして。
次の日から、朝食の誘いはなかった。城の中でベスティアさんを見ることもなかった。
忙しいからかなと思う。それを寂しいとは思わなかったけど、変な気持ちにはなった。
そして、それが何故だか知ったのは数日後の事だった。
猛き『獅子の国』の、次の王が現れたという話を聞いたんだ。
そして、その人は今日、城にやってくるのだと。
ベスティアさんは、オウサマはその彼を迎えに行っていたらしい。
本当に王なのかどうかは、王でないとわからないから。そして、その人は王だったのだという。
場内はあわただしく、その人の部屋が用意され、なんだかそわそわとしていた。
そして新しい、次の王が見つかったことはシェラももちろん知っていたわけだ。
「次の王が見つかったってことは、ベスティア王もいつか王じゃなくなるってことか」
噂じゃ次の王は遠地の貧民街にいたんだって、とシェラは言う。
「あのさ、次の王が見つかるとどうなるんだ?」
「え?」
「えっと、世襲じゃないのが当たり前なんだろ。俺んとこはそうじゃないから……どうやって譲るのかなって」
「……どうやるんだろうな」
「は?」
「いや、言われてみると……王が変わるのが当たり前すぎて……どうやってるか、なんて」
シェラは改めて聞かれるとわからないと言う。
どういうことだ。
俺は、戴冠式は、告示は、と問う。すると戴冠式なんてない、と。王が変わって一年くらいすると、実は変わってましたと告示はあると言う。あと王が見つかると、その人のお披露目は一度するみたいだ。
ええええ、なんだそれ。
けれど、確かに。国として王が変わった報せはくるが戴冠式云々は、ない?
ないような気がする。なかった、な。
「……ベスティア王が、王になったのっていつ?」
「……8年前?」
「え、それ何歳で?」
「15かな」
「……今、23?」
「そうだけど」
え、あの人は15歳から王を?
「それ、見つかったって告示されたのは?」
「えっと、それは俺が3歳の時だから12年前かな」
「……すごいな。つまりあの人が次の王だって決まったのは8歳の時で、王になったのは15歳。引き継ぎとかあるだろうし政事にはもっと早くかかわってたってことだろ」
生きてきた半分以上、王になるために、王として過ごしてるってこと?
それ、苦しくないのか? 辛くないのか?
あの人には、俺の知らない側面があるんだと知る。俺はあの人の事を何も知らないんだ。
なんだろう、ざわざわする。心が。
オウサマは、俺の事を知ろうとして、色んな事を聞いてきた。
俺はおざなりにでも、それに答えた覚えがある。でも、俺はオウサマの事なんて何も興味を持って聞かなかった。
なんだろう。
俺はオウサマが、どんな風にオウサマになったのか知らない。
オウサマの事、知らない。
俺は誠実に、オウサマに向き合えているのだろうか。
オウサマが俺に好きと言う。求婚してきた。それは事実だ。
でも、それにちゃんと向き合ってただろうか。俺はそういうことを、していない。
逃げてた、と言えば。それもまた逃げになる気がする。
そうじゃない。俺はオウサマに失礼なことをしてたんだと思う。
なんでそう思うのか。オウサマが俺を好きというのを受け入れなけりゃならないってことじゃ、ないと思う。
けど、オウサマの話を聞いて。
王として過ごさなければいけなかったんだろうなと、そう簡単に想像できてしまった。
それは俺が皇族だからだろう。
皇族だからしちゃいけない、していい。そういう事はたくさんあった。
きっとそんなのはどこの国でだって同じだ。オウサマがどんな出自だったか、それは知らないけれど。
でも、王として日々を過ごすことがすぐさま身につくとはどう考えても、思えない。
「……オウサマ、忙しいよな」
「次の王が見つかったらその後見は現王だからね……忙しいだろうね」
会いたいって言えば会う時間作ってくれるかな。
難しいかな。それに、返事もしていないし。
ひとまず、俺はもうちょっとオウサマの事を知る事からはじめないといけない気がしていた。
そう言って、ヒースさんはオウサマの耳元に口寄せて何事かを囁いた。
オウサマはそれを聞いて、瞬いて。
そうか、と一言零す。
オウサマのその声は何の熱も無い。冷えた、淡々としたものだった。
その声を聞く、オウサマの様子を見るヒースさんは不安げでもある。
なんだろう、この――空気の痛さは。
「ララトア、ごめんね。急用ができてしまった。今日は楽しかったよ」
オウサマは。
にこっと笑って俺に先に行かせてもらうねと言う。
え、あ?
さっきまで向けてた笑みなんてない。少し前までの、笑い方。
拍子抜けするほど、そこに色めいたものはなかった。オウサマは、上手だな。
隠すのが。いや、隠したんだろうか。消したんだろうか。どっちなのか、俺にはわからない。
「また地下迷宮は案内するよ。それから……返事は、今日でなくていいから」
「へ?」
「待ってるよ」
その時のオウサマの表情は。
ああ、いや。オウサマ、じゃないな。
なんでだろうか。オウサマじゃない――王様ではない、ベスティアさん自身の表情をみた気がしたんだ。
何とも言えない表情だった。
色がない、というのかな。そこに何も、感じられなかったんだ。
俺は、何も言えないままにベスティアさんを見送るしかできなかった。
その後、学校にいって過ごして。
次の日から、朝食の誘いはなかった。城の中でベスティアさんを見ることもなかった。
忙しいからかなと思う。それを寂しいとは思わなかったけど、変な気持ちにはなった。
そして、それが何故だか知ったのは数日後の事だった。
猛き『獅子の国』の、次の王が現れたという話を聞いたんだ。
そして、その人は今日、城にやってくるのだと。
ベスティアさんは、オウサマはその彼を迎えに行っていたらしい。
本当に王なのかどうかは、王でないとわからないから。そして、その人は王だったのだという。
場内はあわただしく、その人の部屋が用意され、なんだかそわそわとしていた。
そして新しい、次の王が見つかったことはシェラももちろん知っていたわけだ。
「次の王が見つかったってことは、ベスティア王もいつか王じゃなくなるってことか」
噂じゃ次の王は遠地の貧民街にいたんだって、とシェラは言う。
「あのさ、次の王が見つかるとどうなるんだ?」
「え?」
「えっと、世襲じゃないのが当たり前なんだろ。俺んとこはそうじゃないから……どうやって譲るのかなって」
「……どうやるんだろうな」
「は?」
「いや、言われてみると……王が変わるのが当たり前すぎて……どうやってるか、なんて」
シェラは改めて聞かれるとわからないと言う。
どういうことだ。
俺は、戴冠式は、告示は、と問う。すると戴冠式なんてない、と。王が変わって一年くらいすると、実は変わってましたと告示はあると言う。あと王が見つかると、その人のお披露目は一度するみたいだ。
ええええ、なんだそれ。
けれど、確かに。国として王が変わった報せはくるが戴冠式云々は、ない?
ないような気がする。なかった、な。
「……ベスティア王が、王になったのっていつ?」
「……8年前?」
「え、それ何歳で?」
「15かな」
「……今、23?」
「そうだけど」
え、あの人は15歳から王を?
「それ、見つかったって告示されたのは?」
「えっと、それは俺が3歳の時だから12年前かな」
「……すごいな。つまりあの人が次の王だって決まったのは8歳の時で、王になったのは15歳。引き継ぎとかあるだろうし政事にはもっと早くかかわってたってことだろ」
生きてきた半分以上、王になるために、王として過ごしてるってこと?
それ、苦しくないのか? 辛くないのか?
あの人には、俺の知らない側面があるんだと知る。俺はあの人の事を何も知らないんだ。
なんだろう、ざわざわする。心が。
オウサマは、俺の事を知ろうとして、色んな事を聞いてきた。
俺はおざなりにでも、それに答えた覚えがある。でも、俺はオウサマの事なんて何も興味を持って聞かなかった。
なんだろう。
俺はオウサマが、どんな風にオウサマになったのか知らない。
オウサマの事、知らない。
俺は誠実に、オウサマに向き合えているのだろうか。
オウサマが俺に好きと言う。求婚してきた。それは事実だ。
でも、それにちゃんと向き合ってただろうか。俺はそういうことを、していない。
逃げてた、と言えば。それもまた逃げになる気がする。
そうじゃない。俺はオウサマに失礼なことをしてたんだと思う。
なんでそう思うのか。オウサマが俺を好きというのを受け入れなけりゃならないってことじゃ、ないと思う。
けど、オウサマの話を聞いて。
王として過ごさなければいけなかったんだろうなと、そう簡単に想像できてしまった。
それは俺が皇族だからだろう。
皇族だからしちゃいけない、していい。そういう事はたくさんあった。
きっとそんなのはどこの国でだって同じだ。オウサマがどんな出自だったか、それは知らないけれど。
でも、王として日々を過ごすことがすぐさま身につくとはどう考えても、思えない。
「……オウサマ、忙しいよな」
「次の王が見つかったらその後見は現王だからね……忙しいだろうね」
会いたいって言えば会う時間作ってくれるかな。
難しいかな。それに、返事もしていないし。
ひとまず、俺はもうちょっとオウサマの事を知る事からはじめないといけない気がしていた。
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