転生令嬢はやんちゃする

ナギ

文字の大きさ
上 下
239 / 243
与太話

役得じゃない

しおりを挟む
息子ちゃんの恐怖体験



 ファンテールにきて数日後、俺は夜会にお招きされた。
 公式の大きな夜会じゃないつったくせに!
 ひと! おおい!!
 煌びやかーな感じで、俺浮いてるだろ、と!
 正直、こういうところに一人で来るべきじゃないと思う。俺、超、目立ってる。
 ガブ様の兄上様、ミカエラ様に紹介されあたりさわりない話をして別れる。
 皇王から声がかかるって何者ーみたいな視線を受けるけど、どこからか俺の素性は知れたらしく。
 そのうち探る様な視線はなくなった。
 そ! し! て!
 突然の俺、モテ期!
 なんかしらんが周りに綺麗なお嬢さん達がたくさんいる。なに、なんだこれ。
 どういうことだろうか、甘んじていいんだろうか!!
「どうしてこちらに?」
「公爵を継ぐ前にしばらく自由にと父母に願いまして、一人旅を」
「まぁ! どんなところに行かれましたの?」
 と、お嬢さん達からの質問攻め。
 根掘り葉掘り、なんか余計なことまできかれて答えてしまった気も、しないでもないけれど!
 そうたとえば、恋人も婚約者もいない、とか。
 そう知った途端お嬢さん達の圧が強まった。
 しかもそこにガブ様がきて、ダンス踊ってやりなよほらほらとか、言うもんだから!
 俺は全員と踊る羽目になって!
 ちょ、いや、さすがにひとりふたりならまぁ、なんだけど。10人越えては、さぁ!
 最初はひとりふたりでそれじゃあってしようと思ったんだけど、次から次へとタイミングのがさずやってきて、断り辛いというか。
 断るなよ、っていうような、目力が、ですね。
 俺、他国の人間なのになんでこんなに食いつきが良いのか。
 そう思ってたんだけど、俺はもう後継ぎ確定でフリーとかいう好物件であることに気が付く。
 ああああー、他国に出てもいいから地位安定というか、ある程度の水準を保てる家ってことかー。
 けどね!
 俺の親父殿とおかんはちょっと、普通の貴族じゃないから。そのへんについてこれないとつらいんじゃないかなぁと思う。
 つまりそれを許容できる子が俺の最低水準かなーとか、今更ながらに考え始めてしまった。
 好きな相手がいいし、そういう人と出会いたいなぁとは思うけど、俺貴族だしなぁ。
 けどこのままだと、シエラがウッ。やだそれ尻に敷かれる未来しかねーじゃねーの。
 それでも、ダンスのステップ間違えることがないのはしこたま親父殿に叩きこまれたからだろう。おかんはおかんでわざと足踏んでくるし。
 いやあれは普通に下手だったのかもしれないけど。
 それにしても、だ。
 次から次から、お嬢さん達は俺に身体をぴったりくっつけようとしてくる。
 いや、その。胸とかあたってやわらかいなぁとは思う。役得! って最初は思ってたけど、もう食傷気味です。
 まさかこんなところで自分の女の子の好みを知るとは、という。
 やっぱり女の子はおとなしくってかわいくってー!
 そうだよ! 俺の周りにいる女子って、なんか知らんが男勝りみたいなタイプが多かったんだよ!!
 趣味が刺繍です、お菓子作りですみたいな女の子との出会いください!!
 そう、思っているとやっとダンスも終わって。
 やばいな、このままここにいるとまた絡まれる。
 夜会で魔術とか、アウトなんだろうけどまぁ、逃げるだけだし。
 さりげなーく逃げて、さりげなーくバルコニーに出て姿を消す。
 周囲からこれで見えなくなるわけだ。
 はー、とため息ついて、俺はその場にしゃがみ込む。
「あー、めんどくさ……もう帰っていいかな……」
 夜会ってこんなにめんどくさかったっけー? いつも国でこういうのに出てないから慣れない。
「雰囲気は別に嫌いじゃないんだけどなぁ……」
 賑やかで楽しげな雰囲気は好きだ。でもさ、知ってる人なんていないに等しくて、物珍しそうに好奇の視線を向けられるのは飽きるというか、めんどいというか、しんどい。
 俺、こういうのより屋台とか見て食べ歩いたりの方が楽しいしなー。
 よし、そうしよ。ひとまず、帰って服着替えて。
 ここには親父もおかんもいないから夜遊びちょっとくらいしたってー!
 挨拶なしで帰るのも悪いしな、と魔術解いてひとまずガブ様のとこへ。俺はもう帰るんでーと言うとああそう、気を付けてと笑われて。
 お、なんかさらっと帰れる? と思った俺が、甘かったんだよ!!
「帰っちゃうんです?」
「あっ、はい」
「あの、またお会いしたいのですけど! どちらにお泊りで?」
「えっ、どちらにって……国の……」
「では明日、遊びにいってもよろしくて?」
「あ、ちょっと抜け駆けなんてずるいわ!」
「イライアス様! 私とお約束してくださいますわよね!?」
「えっ!?」
「あら、あんたみたいなぺちゃぱい相手にされるわけないじゃない! 私とですよね?」
「おばさんはさがってて!」
「な、なによ! 一つしか違わないくせに!」
 や、ちょ、なにこれ。
 なにこれこわい。
 俺の両腕はしっかりとつかまれている。逃げられない。しかもその、なんていうか。
 すごい、力で、だな?
 爪が食い入ってきているような、服越しなのに!! そんなにしっかりアイタタタ!!
 俺を挟んで数人が、ものすごい言葉でものすごいののしりあいをしてものすごいいきおいで俺に迫ってくる。
 これ役得でもなんでもない。
 ただただ、こわいにつきる。
 こわい。
 おんなのここわい。
 その日、俺がどうやって帰ったのか覚えてないんだけど、気が付いたらちょっとぼろっとなって泊まってる部屋にいた。
 うん。さっさとここからおさらばしよう。
 そう俺は決めた。
 ごまだれとポン酢のために……!



夜会の隅っこでものすごいたたかいが繰り広げられ、いい加減にしなさいと偉い人に言われて終わったんだと思います。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

処刑された人質王女は、自分を殺した国に転生して家族に溺愛される

葵 すみれ
恋愛
人質として嫁がされ、故国が裏切ったことによって処刑された王女ニーナ。 彼女は転生して、今は国王となった、かつての婚約者コーネリアスの娘ロゼッタとなる。 ところが、ロゼッタは側妃の娘で、母は父に相手にされていない。 父の気を引くこともできない役立たずと、ロゼッタは実の母に虐待されている。 あるとき、母から解放されるものの、前世で冷たかったコーネリアスが父なのだ。 この先もずっと自分は愛されないのだと絶望するロゼッタだったが、何故か父も腹違いの兄も溺愛してくる。 さらには正妃からも可愛がられ、やがて前世の真実を知ることになる。 そしてロゼッタは、自分が家族の架け橋となることを決意して──。 愛を求めた少女が愛を得て、やがて愛することを知る物語。 ※小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢は天然

西楓
恋愛
死んだと思ったら乙女ゲームの悪役令嬢に転生⁉︎転生したがゲームの存在を知らず天然に振る舞う悪役令嬢に対し、ゲームだと知っているヒロインは…

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

処理中です...