転生令嬢はやんちゃする

ナギ

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与太話

ヒューイ君とやら

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ヒューイ君とやらを見定めるまで旅に出れない息子ちゃんの話
なんとなく息子ちゃんと娘ちゃんのこれをカタつけておかないと
他の話かけないかなというきもち。




 魔術の才能があってよかったと思う。
 俺は現在、自分の姿を見えなくして、足元の学園を見下ろしている。
 そう、ノエルの通っている学校。そこにノエルの彼氏もいると聞いて。
 ばあちゃんとじいちゃん情報では、ヒューイ君とやらは侯爵家の跡取りだそうで。
 縁組としては有りだとのこと。本人について、顔も良くて悪いうわさもないらしい。
 ばあちゃん達はヒューイ君を見たことがあるそうだ。ガーデンパーティーをして何人か友人を招いてしたらしい。
 大勢の中の一人だったのでしっかり覚えてはいないけど、あの時、嫌だなと思う者はいなかったそうだ。
 いやいや、顔も良くて悪い噂がない。そんな馬鹿なことあるか、と俺は思う。
 顔もよくて性格も良い? ないない。俺の親父とか母さんとか、伯父さんとかその奥さんとか。
 ないないない。絶対ない。顔は良くてもちょっとおかしな人達ばっかりだろ。
 それにしても、母さんたちはこれ知らないだろうな。
 しかしノエル。ノエルは殿下にめろめろだったじゃないか。
 殿下との歳の差を考えるとどうなんだよと思って俺は引き離しにかかり、それが達成されたと言えばそうなのだけど。
 そもそもその歳になっていい話が何もない殿下は本当に女運がないのか、それとも興味がないのか、とさえ思う。
 いや、今は殿下の事は良い。おいといて。
 新たな敵というかなんというか。
 とにかく、ノエルに似合いの男かどうか、というより。ノエルが欲しければ俺を倒して行け的なあれだ。
 そもそも本当に彼氏? 付き合ってんの? それノエルの一方通行じゃねぇの?
 ノエルの好意を邪険にしてるならそれもまた許せないんだけど、それでもくっついてるよりかは。
 いやしかしでも、でもノエルもそのうちお嫁にウッ、お兄ちゃんつらい。
「上からみててもよくわかんねーなぁ……ヒェッ、シエラもいたんだった!」
 視線を巡らせていると見知った顔。俺の従妹だ。母親似の中身は、伯父さん似。
 年下だけど俺も気を抜いてると弄ばれていると言うか、知らないうちに婚約誓約書なるものに名前書かされたこともあるおそろしいこ。
 俺よりもっといい人いるだろ、と思うんだけどな。
 いや、シエラの事も今は良い。
 それより、ヒューイ君とやらだ! さすがに顔わからない相手を探すのは、と思うがノエルが好きな相手なんだ。
 これから昼時、外から見えるテラスを眺めてたらまずわいわいと女生徒たちがでてきて固まる。
 そして男ども。
 あー、わらわらと徒党組んでるなー。やっぱ派閥とかあるんだろうな。
 貴族が多くいる学校いかなかった俺はこういうのと縁がない。将来的に、公爵継ぐならここ行っておいた方がよかったんだろうな。
 でも、な。
 そういう繋がり作らんでも、親父と一緒に動き始めたら嫌でも知り合いは増えるだろう。最低限、母さん達と仲が良い家の子とは知り合いだし。
 貴族同士で幼馴染っつーのはいないけど、別にそれが悪いとは思わない。俺にとって幼馴染は領地で一緒に育って、遊んだ奴らだし。
 あいつらは、領地のために騎士になってくるとか言ってしばらく会ってないけど、母さんと親父に、俺と一緒にしごかれて、多分普通じゃない。基本的に空飛べたらもう、普通じゃねーんだよな。
 多分、俺の足元にいるやつらはどんなに魔術の勉強してても、空飛べないから普通だと思う。
 むーと唸りながら眺めてると、おう。
 女生徒の視線を一身に浴びる生徒が一人。男だ。
 あっ、ノエル! ノエルも視線を送っている!
「ということは、あれがヒューイ君とやらか……」
 にこにこ笑ってるけど、周囲は取り巻きって感じで仲の良いやつがいるってわけじゃなさそう。
 あ、いや。一人いるかな。傍で苦笑してて周囲を押さえてるような。苦労性系の幸薄そうな顔してるやつが。
 しかし、ヒューイ君。
 薄い茶の髪、顔は良い。身長もそこそこある。態度というか、周囲への振る舞いは……伯父さんぽい。
 貴族って感じだ。うん、良いとこの坊ちゃんだ。
 ええー? ノエル、本当にこいつがいいのかー?
 確かにイケメンだけど、俺は周囲と上手にできないやつはどうかと……ん?
「……あれ?」
 ノエルの視線を、追う。
 見てるには視てるけど、あれ?
 あれ?
 あの茶髪を通り越して、その向こうの幸薄そうなやつみてる?
 えっ、そっち? そっち!?
「……傍行ってみるか」
 ここからじゃ名前とかどんなやつかも。どっちかもよくわからない。
 俺は姿消したままで傍に降りる。すると、会話も聞こえてくるわけで。
「ヒューイ、午後の授業は?」
「僕は休講。だから図書館で時間を潰そうかと」
「休講? ずるいな……」
「ずるいって言われても」
 はい。
 ヒューイって言ったのは、あの茶髪。呼ばれたのは幸薄君。ということは、やっぱりヒューイはこの幸薄君だ。
 たしかに、顔は良い。柔らかな感じの……雰囲気は親父に似てるけど、気質は弱そう。へらへら笑ってる感じが、なんだかなぁって感じ。
 えー! 本当にこいつー? ノエル、こいつー!?
 これは、ちょっと試しておきたい。さて、どうするかな……と、俺は思案する。
 ゆえに、気付いてなかったんだ。
「……イラお兄様!」
「ぎゃ! あっ、し、しえら!?」
 後ろから音もなく、近寄って。ていうか俺、姿見えなくしてたんだけど!? 何、え!?
 野生の勘!?
 びっくりして、姿隠してた魔術が解けた。ここで解けるのが俺がまだまだ甘いってことだ。
「お、お兄様!?」
 ノエルも、俺を見てどうしてここにという顔。そして、どういう事なのですかと後ろに鬼が見える。
 あー! いや、これはねノエルー!
「い、いや……俺はこっちの学校に行ってなかったから、どんな感じかなってちょっと見学に……」
「ふふ、イラお兄様、そんな恥ずかしがらなくていいのですよ! シエラに会いにこられたんでしょう?」
「いやそれは違うからな。というか、お前どうしてわかった」
「わたしがお兄様の匂いを忘れるわけがありません!」
 ふんすと鼻息荒く。ヒェッ、まじ野生のアレだった。ああー、こうなるともう帰るしかない。
 突然現れた不審者に周囲はざわつくが、俺がノエルの兄ということで安心はしてるみたいだ。
 けど。
「ノエル嬢のお兄様? ということはあちらが」
「シエラ嬢とのお噂は本当なのかしら」
「えっ、思ってたより素敵なんだけど」
「まだ婚約者は」
 という、令嬢方のざわざわ視線すごい。
 そして反対に。
「仲良くなればノエル嬢とお近づきになれるかな」
「領地にいたって聞くけど」
「いや、魔術の腕は相当と……」
「次期公爵といまここで」
 というような男子生徒からのじろじろ。
 とにかくここにいるのはよくない。
「……シエラ、離してくれるか? お前とはあとで……ちゃんと……あ、遊んで、やるから……」
「本当です!? ではわたしが勝ったらその時はお兄様、結婚のお約束をしてくださいね!」
「ちょっとお待ちになって、シエラさん! お、お兄様のお相手はしかるべき方をですから、勝手に決められません!」
「ふふん、ノエルさん。わたしもしかるべき家の方ですから問題ありませんわ!」
 にゃーにゃーとかわいいかわいい。
 シエラの言葉にノエルが飛び出てくる。そもそも、俺が負ける事はないから大丈夫だ、ノエル。シエラとフラウ二人相手だと五分五分だけどな。
「と、とにかく! お兄様は不法侵入ですからお帰りください!」
「そうする。じゃ、お邪魔しましたー」
 シエラの手が離れた瞬間に距離をとる。逃がさないとばかりにシエラが手を伸ばすけど、うーん。ここは帰るべきだからな。
 その手を逆にとればシエラは驚いて瞬いた。
「また後でな」
 その掌に口づけひとつ。突然の、淑女扱いにシエラはかーっと顔を赤くする。
 そういうところは年相応なんだよなぁ。だから隙を作りやすい。
 俺は空に逃れて姿を消す。こうなると、皆うわぁと騒ぐわけで。
 空飛べるのは限られてる。残念ながらシエラもノエルも飛べないんだよなー、これが。
 コツ掴めば簡単なんだけど。
 けど、だ。
 この騒ぎの中で皆、ノエルにあの人を紹介してくれーとか、お話聞かせてーとか。シエラにもどういう関係なのかとかと聞きたがりがわらわら近づいてくる。
 そんな中で、茶髪小僧もそのうちの一人なんだが、ヒューイ君はそうじゃなくてちょっと下がって見守っている。
 あれ、あんまり興味無いんだな。
 俺はすでに帰ったと思われている。まだいるけど。そしてヒューイ君の周囲には誰もいない。
 となると、だ。
 俺はそっと後ろに降り立って、ぽんと肩に手を置いて。
「そのままな、俺はさっきまでそこにいたノエルの兄」
「! 何か、御用でしょうか」
「いや、ノエルがお前の事好きっていうから、どんな奴かと見に来たんだけど……」
 落ち着いた声だ。突然声かけられればそりゃあびっくりするだろうけど、落ち着いている。
 おろおろしてる様子もない、堂々としたもんだ。幸薄そうに友達のフォローしてるタイプじゃない。
「ノエルとは」
 ちょ、よ、よびすて!!
「真摯にお付き合いさせていただいてます」
「……ああ、そう」
 ぐらりと、ちょっと目の前が揺れる。まじか、まじなのか。
 両思いでお付き合いしてますってやつか!!
 うわ、うわ! う わ !
 お、お兄ちゃんちょっとどころかめちゃくちゃショック。
「誠実に、裏切りません。認めていただけると幸いです」
「認めるも何も、俺はお前の事何も知らないしな……でもノエルが良いって言うなら、まぁ。まぁ……」
 けど、まだそれがどうなるかはわからないものだと思う。
 心変わりってあるかもしれないし、今は下手にあれそれ聞かない方が良いか。
 唸っていると、ノエルがこっちにやってくるのがみえて俺は手を放した。
「ノエルには内緒な」
 まぁ、またそのうちしっかり話をさせてもらおう。
 悪いやつじゃないなぁというのは、わかる。
 ノエルを見る視線が優しいし、ノエルも幸せそうに笑ってるから。
 ああ、とうとう兄離れ? 俺も妹離れしないとだめ?
 でも俺の妹最高にかわいいし! 無理! シスコンってずっと言われてもいい、俺はノエルが好き!
 しかしここは引くべきだ。
 もうちょっとヒューイ君とやらについて知らないと、判断ができない。そして母さんと親父殿にもチクっとかないと。
 昼食の時間も終わり、それぞれ授業に戻っていく。
 俺はそんな姿みつつ、家へと帰ってベッドに倒れこむ。
 思っていたよりも、妹に恋人がいるというのが堪えたらしい。




息子ちゃんのめんたる弱そう(妹限定で)
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