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与太話
愛し君に捧ぐ
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お兄さまとデジレ様の話
いちゃいちゃしてるひとたち
金髪の美しい女が微笑んで。
ただそれだけで、俺の心は捕らわれたのだと思う。
それを恋とするには俺の心は未熟で、高慢で、そして諦めを含んでいて。
けれどそれを認めたなら、得るために努力したと思う。
妹は俺の事を偉そうだとか、なんでもできると思っているのだろうがそうではない。
それは培ったものの上に成り立っているものだ。まぁ、性格は別として。
そして努力の末に、今隣にいてくれている。
午後のティータイムはデジレの気に入りの時間だ。
俺は時間があればその隣に座って書類を眺めたり、何もしなかったり。
今日は何もしない方の日だった。
ああ、幸せと言うのはこういう時間を、言うのだろう。
「何を、笑っている?」
「別に」
「お前が穏やかに笑う顔は可愛いと思っているのだけどな、私は」
「……」
「今は照れているな! 可愛いと言われて」
お前は妹の前では偉そうにするのに私の前では素直だなとデジレは笑う。
そうだ、悪いかと思う。何も言えないのだから。
きっとこれが惚れたほうが負け、というやつだろう。
「甘えてもいいんだぞ?」
「それはお前だろう。お前は甘えるのが下手だからな」
「何を言う。私を甘やかしてくれるのはお前だけだから、お前にしか甘えないよ。それを下手だというのなら……そうだな、アレクやレティにも甘えてみせようか」
アレクには気持ち悪いと言われるだろうし、レティにはなんでという顔をされるだろうがと笑って。
甘えるなら俺だけでいいだろうと紡げば、そんな不機嫌そうな顔をするなとデジレは頬を撫でてくる。
くそ、そういう事をしてくるから、俺は。
「……もう明日は、仕事に行かない」
「ん? いいのか?」
「いい。急ぎもないしどうせアレクがやってくれる」
次期王に押し付けるなんて豪胆だなと言うが、あいつはお前の弟で俺の親友だ。
俺が来なければああと諦めるだろうさ。
別に大事な要件もないと言うと、そうかと花綻ぶように笑う。
「俺だけか?」
「ん?」
「俺だけに笑っていてほしい」
「うぅん、それは無理な話だが、まぁ二人だけの時はそうなっているさ」
お前がいてよかったとデジレは言う。
それが何を思って紡がれた言葉なのか、俺はよくわからない。
けれど否定ではないのだから、好意的なものなのだろう。
俺はいつも、不安だ。
この女がするっと、いつのまにか傍から離れていなくなってしまうのではと思っている。
そうならないように気を付けてはいるのだけれども。
俺の妹もなかなか自由なやつだが、知らぬところではデジレのほうがもっと気ままだ。
気ままだからこそ、駆け引きができたのもある。
俺と一緒にいれば楽しいと幾度もなく囁いて、少し強引な手も使って。
それでどうにか、隣に来てくれたのだから。
そしてこれからもそうあってもらうために、俺は心を傾けるのだと思う。
「ところでな、トリスタン。その、だな……言わなければいけない事が、ある」
「……それは良い事か?」
「そうだな、良い事だと、思う。私は嬉しい」
浮ついた声色だ。
そこから先、言うであろう言葉はもう察しがついた。
そうか、そうかと思う。けれど何も言わず言葉を待った。
「……お前との子だ。授かったことを嬉しく、思う」
「俺も。ありがとう、デジレ」
「ありがとうなのか? じゃあ……どういたしまして」
ありがとうに含めるのは様々な気持ちだ。
俺の前に現れてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。
捕まってくれてありがとう、と。
選んでくれてありがとう、と。
言葉にすれば何を言っていると笑われそうなことばかり思ってしまう。
愛しているよと囁くとくすぐったそうに笑う姿に愛しさしかない。
俺の全部、お前に捧げようとずっと思っている。
テオレティよりもこのふたりのほうが普通の恋愛して普通に幸せだと思ってます。
お兄ちゃん結構普通だと思う。
あとこういうのかくの結構恥ずかしい。
いちゃいちゃしてるひとたち
金髪の美しい女が微笑んで。
ただそれだけで、俺の心は捕らわれたのだと思う。
それを恋とするには俺の心は未熟で、高慢で、そして諦めを含んでいて。
けれどそれを認めたなら、得るために努力したと思う。
妹は俺の事を偉そうだとか、なんでもできると思っているのだろうがそうではない。
それは培ったものの上に成り立っているものだ。まぁ、性格は別として。
そして努力の末に、今隣にいてくれている。
午後のティータイムはデジレの気に入りの時間だ。
俺は時間があればその隣に座って書類を眺めたり、何もしなかったり。
今日は何もしない方の日だった。
ああ、幸せと言うのはこういう時間を、言うのだろう。
「何を、笑っている?」
「別に」
「お前が穏やかに笑う顔は可愛いと思っているのだけどな、私は」
「……」
「今は照れているな! 可愛いと言われて」
お前は妹の前では偉そうにするのに私の前では素直だなとデジレは笑う。
そうだ、悪いかと思う。何も言えないのだから。
きっとこれが惚れたほうが負け、というやつだろう。
「甘えてもいいんだぞ?」
「それはお前だろう。お前は甘えるのが下手だからな」
「何を言う。私を甘やかしてくれるのはお前だけだから、お前にしか甘えないよ。それを下手だというのなら……そうだな、アレクやレティにも甘えてみせようか」
アレクには気持ち悪いと言われるだろうし、レティにはなんでという顔をされるだろうがと笑って。
甘えるなら俺だけでいいだろうと紡げば、そんな不機嫌そうな顔をするなとデジレは頬を撫でてくる。
くそ、そういう事をしてくるから、俺は。
「……もう明日は、仕事に行かない」
「ん? いいのか?」
「いい。急ぎもないしどうせアレクがやってくれる」
次期王に押し付けるなんて豪胆だなと言うが、あいつはお前の弟で俺の親友だ。
俺が来なければああと諦めるだろうさ。
別に大事な要件もないと言うと、そうかと花綻ぶように笑う。
「俺だけか?」
「ん?」
「俺だけに笑っていてほしい」
「うぅん、それは無理な話だが、まぁ二人だけの時はそうなっているさ」
お前がいてよかったとデジレは言う。
それが何を思って紡がれた言葉なのか、俺はよくわからない。
けれど否定ではないのだから、好意的なものなのだろう。
俺はいつも、不安だ。
この女がするっと、いつのまにか傍から離れていなくなってしまうのではと思っている。
そうならないように気を付けてはいるのだけれども。
俺の妹もなかなか自由なやつだが、知らぬところではデジレのほうがもっと気ままだ。
気ままだからこそ、駆け引きができたのもある。
俺と一緒にいれば楽しいと幾度もなく囁いて、少し強引な手も使って。
それでどうにか、隣に来てくれたのだから。
そしてこれからもそうあってもらうために、俺は心を傾けるのだと思う。
「ところでな、トリスタン。その、だな……言わなければいけない事が、ある」
「……それは良い事か?」
「そうだな、良い事だと、思う。私は嬉しい」
浮ついた声色だ。
そこから先、言うであろう言葉はもう察しがついた。
そうか、そうかと思う。けれど何も言わず言葉を待った。
「……お前との子だ。授かったことを嬉しく、思う」
「俺も。ありがとう、デジレ」
「ありがとうなのか? じゃあ……どういたしまして」
ありがとうに含めるのは様々な気持ちだ。
俺の前に現れてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。
捕まってくれてありがとう、と。
選んでくれてありがとう、と。
言葉にすれば何を言っていると笑われそうなことばかり思ってしまう。
愛しているよと囁くとくすぐったそうに笑う姿に愛しさしかない。
俺の全部、お前に捧げようとずっと思っている。
テオレティよりもこのふたりのほうが普通の恋愛して普通に幸せだと思ってます。
お兄ちゃん結構普通だと思う。
あとこういうのかくの結構恥ずかしい。
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