転生令嬢はやんちゃする

ナギ

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最終章

無駄話

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 それから殿下とガブさんは我が家で晩御飯までいただいて帰って行った。
 自由だな……と、思う。
 で、入れ違いでお兄様が帰宅して。私とテオはそろって呼び出された。
 もう寝る準備してたんですけどー!
「それでお話ってなんですか、お兄様。手短にー」
「別に用はない」
「……おやすみなさい!」
「寝るな。たまには無駄話の相手をしてやろうと思ってな」
 なんという上から目線。
 まぁ、それがお兄様らしいといえばそうなのだけど。
 私はもう寝ると立ち上がろうとしたけど、お兄様はまぁ聞いていけと仰る。
 テオは諦めたら、というように私を見るし。仕方ないかと座り直した。
「俺がこれからするのは、無駄話だからな。知っても、どうあっても無駄な話だ」
 そう、前置いて。
 話半分に聞いておこうかなーと私は思う。
 お兄様はこれはある兄と弟の話なのだがと続けた。
「兄と弟?」
 世間話かしら、と思う。
 お兄様がしてくれた話は、一族がしてきた悪事を許せなかった兄と弟の話だった。
 弟は、内側から自分達でどうにかして、それを正していきたいと思っていて。
 けれど兄は、もうそんなことができる段階ではないと判断して、弟に黙ってすべてを始めた。
 もう、それだけ聞いて私も、テオも一体その兄と弟が誰かというのを察してしまった。
 ジャジャル家のバルトロメ様とカロン様だ。
 バルトロメ様は、悪事の証拠を集める傍ら、それを加速させる父を悪いとわかっていても毒薬で追い込んで弱らせ実権を握った。
 カロン様は、内側からは無理かと外側からの力を得ようとした。つまり、我が家の。
 そしてバルトロメ様を止めようとしたけれど、破たんが出るとしてバルトロメ様はカロン様も弱らせた。弱らせて、動けなくした。
 事件が起こって、その罪をほぼ被ったのはバルトロメ様だ。父と自分のたくらみであり、弟は関係ない。逆に邪魔をしようとしたから、毒薬をとバルトロメ様は仰ったそうだ。
 でもそれって、なんなのと思う、わけで。
 そういえば殿下が膿だしだとか、責めきれないとか仰ってた。
 なんだかちょっと、ん? と思ってたところがお兄様の話でうまった感じがする。
「ま、こういう事を知っても、あれらがやった事実は消えないし軽くもならない。だから無駄話なんだがな」
「……トリスタン様はそれをいつから知っていたんですか?」
「いつからだろうな」
 お兄様は、テオの問いをかわす。
 はぐらかした。
 何となくだけど最近知ったわけじゃないと思う。もっと前から、知ってたんじゃないかなと思わずにいられない。
「どうにもできなかったんです?」
「どうにかするには、余力が足りなかったんだろ。それにすでにやってしまった事をどうこうできる、償うと行ってそのままに据え置くことができる、という話でもない」
「……色んなやり方を間違ってる、と私は思います」
「そうだな」
「それしかなかったんでしょうね。おそらく、外に漏らさないようにしたかったから」
 テオは私の名前を呼ぶ。
 うん、そう。
 私は今、本当に何もできなかったのかなって考えてる。カロン様が、打ち明けてくれてたら力になる事ができたかも、しれないんじゃないかなとか。
 そういう、もしあの時にああしていたら、っていう事を考えてしまっていた。
「レティには何の責任もないよ」
「でも」
「でも、じゃなくて。他人の領分にどこでも首突っ込んでいくのはよくない」
「でも、もしこれがテオの家だったら私は」
「その時には、また関係も違うから。もしかしたらレティが俺の事知らないままかもしれないし、俺だってレティの事知らないままかもしれないし」
 いろんな重なりがあってこうなったんだから、何もできないよとテオは言う。
 そう、ご都合主義みたいにどうにかできたんじゃないかなぁって思ってる私を諌めてる。
「うん、そうよね。うん……」
「……やっぱり、お前はテオドールにしか任せられんな」
「え?」
 にやにやと笑うお兄様に、テオは安心して任せてくださいと言う。
「けど、本当に……いい具合に色々収まる形があったからこうなったか」
 よかったなとお兄様はテオに笑いかける。
 テオは色々と助言をありがとうございましたと、お兄様に頭を下げた。
 ほほう。私の知らないところで何かしら、二人がやりとりをしていたのは知っていたけど。
 それがどんなことか、気になるじゃない!
「そういえば、お兄様は今日、デジレ様と喧嘩してませんでした?」
「は?」
「いや、遊びに言ったら二人の声が聞こえたのでそのまま帰ったんですけど」
 お兄様は来たなら顔を見せればよかったのにと言う。
 いやいやいや、あの感じでは顔見せなんてとんでも!
「デジレ様の所にはまたちゃんと、連絡してからお伺いしますから」
「うんうん、そうします!」
 そう、私たちはなんで喧嘩してたの、なんて聞かない。
 だってそれ、聞いちゃいけないって感じがしたから。
 お兄様は、じゃあその時は俺も一緒だなとか言うのだけど、別にいなくてもいいのよ。
 むしろ忙しいんじゃないの? って思うわけで。
「さて、レティはもう寝るんだろ? テオドールは置いていけ、話がある。それとも一緒に寝る約束でもしてるのか?」
「そ、そんな約束は、してないですっ!」
 な、何を言うのかー! と私はそそくさと部屋を出ようとした立ち上がろうとした。
 けど、その瞬間テオが手をとって引き寄せる。
「レティ、おやすみ」
「!?」
 そしてちゅっと。こめかみに口付けて。私を放した。
 ぎゃあああああと思ってテオみれば、楽しそうに笑ってて私はもう、変な声しか出ない。
「んぁ、あっ、ちょっ、いきなり」
「俺の前だからと言って遠慮することはないぜ、頬でも口でも、どこにでも好きなところにすればいい」
「し、しませんー! おやすみなさい!」
 もう、逃げるようにばたばたと。
 音立てて私は部屋を出た。本当に、不意打ちというか。
 ドキドキさせられてばっかりでとっても悔しいけど、幸せな気持ちでもあった。
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