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最終章
接触
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楽しいドレス準備が終わり、王城へ戻り。
帰りましたーと王妃レース色々の担当さんに声をかけて、魔導師さんたちの所に向かう。
けど、私はその途中で声をかけられてしまった。
お久しぶりです、こんなところでお会いするなんて、と柔らかな笑みと共に紡ぐのはカロン様だ。
わー! 色々やましい事あるんじゃないかなと思ってる家の人が目の前にー!
「良ければ少し、お話しませんか?」
「ええと……」
お断り! と思ったのだけど、情報収集的にはお話してもいいかも。
それに、だ。
あの香りが、カロン様からする。
そう思って少しだけならと頷いた。そして向かったのは、城の中にある庭園だ。
そこはお城で働いている人たちの憩いの場でもあるから、他に人がいる。
うん、ここなら変なことにはならないはず。
「それで、お話とは?」
「……ヴィヴィエ公の所に手紙が……予告は来てらっしゃいませんか?」
いきなり、それか!
にこにことその心の内が読めない表情。
私は手紙? 予告? とはぐらかす。
何も知りません、何それって顔。
「公は教えていないのですね。殺害予告が、最近配られているのですよ」
「まぁ、なんて怖い……どちらにですか?」
「お妃候補になっているいくつかの家にです」
私が探ろうとしてるのに、なんかあっちから探られているような、そんな感覚。
私はお話はそれだけですか、と微笑む。
「もし我が家に来ていても、きっとお父様とお兄様は自身でどうにかしてしまいますから」
「……そうですか。でも、重々にお気を付けください。あなたも」
「私も? 王宮でそんな命を狙われるなんてこと……」
「いえ、本当に。気を付けてください」
カロン様は本当に心配してる?
なんだか、何か言おうとして飲み込むようなそぶりさえ見える。私はうーんと唸って、ちょっとばかり魔術を紡いだ。
隔絶、周囲に音が漏れないようにして。
「カロン様、本当にお話したいことがあるなら、ちゃんと言ってください。今、私とあなたの会話は周囲には聞こえないようにしてますから、大丈夫です」
「さっきのは、それ?」
「はい。魔術は得意分野なので。他言は、時と場合によってはさせていただきますけど」
「そう。本当に大丈夫……そうだね。それならトリスタンに伝えて欲しい。もちろん君の父上にも」
「はい」
カロン様は少し、ためらいを見せつつも言葉を発した。
私の兄が、トリスタンとヴィヴィエ公の命を狙っていると。
私からしてみれば、その言葉は本気です? と思うレベルだ。
「ええと……身内の、そういうのを……私に言ってよろしいのです?」
「構わない。我が家は……もう駄目なのだから」
それはどういう、と思ったのだけれども。
「あの予告は、私が出したのです。少しでも警戒していただければと思って」
「……香水」
「え?」
「カロン様から香るそれが予告にも残っていました」
それは気付かなかったと、カロン様は言う。確かに日々当たり前につけてるものの香りなんて、無頓着になるものよね。
「ヴィヴィエ公は兄がしている事に気付かれて、調べておられるそうです。それに感づいて、亡き者にしようとしているようなのです」
それはまた、大胆な。
そう思っていると、貴女にも申し訳ない事をとカロン様は言う。うん、何がかな!
「ずっとあなたに婚約と言っていたのは、それとなく公爵に近づく為だったのです。貴女を好きというわけではなく……大変、失礼なことをいたしました」
「そうですか。いえ、別にそれは……え、ということはもしかして……」
「ええ、あなたに申し込んだ時からずっと危惧していたことですよ、これは」
その可能性が見えて、そうするだろうと思ったからこそ距離を詰めようとしたのだとカロン様は言う。カロン様のお父様は、表にはもう出てこられない。
生きてはいますが人前にでれるような、と言葉濁した。
ぞわりとする。ジャジャルの家では何が起こっているのだろう。私はそれを知る事ももちろんできるけど、覗いてはいけないような。
そんな忌避感があった。
「何にせよ、身辺にはご注意ください」
「あ、はい」
「あなたには大変失礼なことを、重ねてお願いすることになりますが。事情を知った上でも、私からの婚約の申し出は受けていただけませんか? 事が終われば破棄していただいて構わないのですが」
「そう、したいのは何故です?」
「兄に、敵の懐に入ったのだという油断を。それからもっと深い事情をお話できるかと」
「それは……お話してくださったことが嘘だとは思いませんが、カロン様の本心は私にはわかりかねます。それに、私はお約束した方がいますから形だけでもお受けできません」
「そうですか……残念だな」
あ、空気が変わったと思ったのは一瞬。
カロン様は一歩詰めて、私の腹部に拳を打ち込んだ。反応が遅れて防御ができなくて、くらっときて抱えられる。
そのまま、紡がれたのは眠りの魔術。
私の意識は、一気に持っていかれてしまった。
そのさなかで思ったのは、やばい、怒られる。それに尽きる。
帰りましたーと王妃レース色々の担当さんに声をかけて、魔導師さんたちの所に向かう。
けど、私はその途中で声をかけられてしまった。
お久しぶりです、こんなところでお会いするなんて、と柔らかな笑みと共に紡ぐのはカロン様だ。
わー! 色々やましい事あるんじゃないかなと思ってる家の人が目の前にー!
「良ければ少し、お話しませんか?」
「ええと……」
お断り! と思ったのだけど、情報収集的にはお話してもいいかも。
それに、だ。
あの香りが、カロン様からする。
そう思って少しだけならと頷いた。そして向かったのは、城の中にある庭園だ。
そこはお城で働いている人たちの憩いの場でもあるから、他に人がいる。
うん、ここなら変なことにはならないはず。
「それで、お話とは?」
「……ヴィヴィエ公の所に手紙が……予告は来てらっしゃいませんか?」
いきなり、それか!
にこにことその心の内が読めない表情。
私は手紙? 予告? とはぐらかす。
何も知りません、何それって顔。
「公は教えていないのですね。殺害予告が、最近配られているのですよ」
「まぁ、なんて怖い……どちらにですか?」
「お妃候補になっているいくつかの家にです」
私が探ろうとしてるのに、なんかあっちから探られているような、そんな感覚。
私はお話はそれだけですか、と微笑む。
「もし我が家に来ていても、きっとお父様とお兄様は自身でどうにかしてしまいますから」
「……そうですか。でも、重々にお気を付けください。あなたも」
「私も? 王宮でそんな命を狙われるなんてこと……」
「いえ、本当に。気を付けてください」
カロン様は本当に心配してる?
なんだか、何か言おうとして飲み込むようなそぶりさえ見える。私はうーんと唸って、ちょっとばかり魔術を紡いだ。
隔絶、周囲に音が漏れないようにして。
「カロン様、本当にお話したいことがあるなら、ちゃんと言ってください。今、私とあなたの会話は周囲には聞こえないようにしてますから、大丈夫です」
「さっきのは、それ?」
「はい。魔術は得意分野なので。他言は、時と場合によってはさせていただきますけど」
「そう。本当に大丈夫……そうだね。それならトリスタンに伝えて欲しい。もちろん君の父上にも」
「はい」
カロン様は少し、ためらいを見せつつも言葉を発した。
私の兄が、トリスタンとヴィヴィエ公の命を狙っていると。
私からしてみれば、その言葉は本気です? と思うレベルだ。
「ええと……身内の、そういうのを……私に言ってよろしいのです?」
「構わない。我が家は……もう駄目なのだから」
それはどういう、と思ったのだけれども。
「あの予告は、私が出したのです。少しでも警戒していただければと思って」
「……香水」
「え?」
「カロン様から香るそれが予告にも残っていました」
それは気付かなかったと、カロン様は言う。確かに日々当たり前につけてるものの香りなんて、無頓着になるものよね。
「ヴィヴィエ公は兄がしている事に気付かれて、調べておられるそうです。それに感づいて、亡き者にしようとしているようなのです」
それはまた、大胆な。
そう思っていると、貴女にも申し訳ない事をとカロン様は言う。うん、何がかな!
「ずっとあなたに婚約と言っていたのは、それとなく公爵に近づく為だったのです。貴女を好きというわけではなく……大変、失礼なことをいたしました」
「そうですか。いえ、別にそれは……え、ということはもしかして……」
「ええ、あなたに申し込んだ時からずっと危惧していたことですよ、これは」
その可能性が見えて、そうするだろうと思ったからこそ距離を詰めようとしたのだとカロン様は言う。カロン様のお父様は、表にはもう出てこられない。
生きてはいますが人前にでれるような、と言葉濁した。
ぞわりとする。ジャジャルの家では何が起こっているのだろう。私はそれを知る事ももちろんできるけど、覗いてはいけないような。
そんな忌避感があった。
「何にせよ、身辺にはご注意ください」
「あ、はい」
「あなたには大変失礼なことを、重ねてお願いすることになりますが。事情を知った上でも、私からの婚約の申し出は受けていただけませんか? 事が終われば破棄していただいて構わないのですが」
「そう、したいのは何故です?」
「兄に、敵の懐に入ったのだという油断を。それからもっと深い事情をお話できるかと」
「それは……お話してくださったことが嘘だとは思いませんが、カロン様の本心は私にはわかりかねます。それに、私はお約束した方がいますから形だけでもお受けできません」
「そうですか……残念だな」
あ、空気が変わったと思ったのは一瞬。
カロン様は一歩詰めて、私の腹部に拳を打ち込んだ。反応が遅れて防御ができなくて、くらっときて抱えられる。
そのまま、紡がれたのは眠りの魔術。
私の意識は、一気に持っていかれてしまった。
そのさなかで思ったのは、やばい、怒られる。それに尽きる。
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