転生令嬢はやんちゃする

ナギ

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第三章

贈り物の準備

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 寮に帰り、私はもらった魔石とにらめっこだ。
 これを、どうしようと。
 私が唸っているのに気付いて、ジゼルちゃんはどうしましたと声をかけてくる。
 簡単に説明すると、なるほどと頷いて。
「確かにファンテールは表立っては問題はありませんが……レティはどのくらい、ご存じです?」
「ええと……あんまりよくわかってません!」
「でしょうね」
 では、とジゼルちゃんが居住まいを正す。私も正す。
 教えてジゼル先生ー!
「まず、皇位継承権のお話はいたしましたよね」
「はい。ガブさんは今、二位。こっちに来てるのは多分そういうごたごたのせい、と」
「そうです。けれど国に帰られるということは、皇王、もしくは一位の兄上様に何かあるのかもしれない、ということです」
 そんなにすぐ情報は入って来ませんが、皇王の年齢を考えると、というところはある。
 そろそろ皇王の地位を譲るのでは、と言われているらしい。
「ガブさんは、そうなると……次は一位になるってことよね」
「はい。そうなると不都合な方々というのはどこにでもいらっしゃるのです」
 ガブさんの兄上様に妻となる方はいらっしゃるのだけど、とジゼルちゃんは言う。
 けれど子ができる気配はない。しかし、次に継承権を持っているガブさんがいるので皇族の血が耐えるということはない。
 しかし、だ。
 ガブさんの兄上の奥さんに子がいない。ということは、自分の娘を側室としていれ、子をもうけと考える貴族もいないことはない。
 第一位となるガブさんがいなくなれば、さすがに兄上様も子をもうける気になるかな、とか。
 そういう色々な思惑はゼロではないらしい。
「ジゼルちゃんよく知ってるわね」
「我が家に商いに来る者達から少し」
 うん、多分、少しじゃないし、お抱えの情報屋なんだろうな!
 うちもそういう人達はいるんだろうけど、私は見たことも会ったこともない。
「つまりガブさんは命を狙われる可能性が非常に高い、ということよね」
「ええ。トリスタン様がお守りとして、とお渡しになられたのは当然の事かと」
「うーん……そう、だけど。私、テオが簡単にやられるとは思わないし……むしろ、レティに守られるのは嬉しいけどちょっとなぁとか言いそう」
「……そうですね、言いそう」
「そもそもテオって私と一緒に魔術色々してたから、空を飛ぶとかはちょちょいのちょいだし、透明化とかもできちゃうし……瞬発力は私より高いから、突然襲われても……うぅん……襲える? みたいな、ところがあって……でも用心するには越したことないし」
 お兄様からもらった魔石に仕込む魔術は、結界とかかな。
 悪意を持って攻撃された場合、全部無効。
 と、思ったけどこれ、この石に込めた魔力では一回くらいで終わりそうだ。それにこの魔石を持ってる人だけにってなると、あまり使い勝手が良いとは言えない。
 そんなのより緊急避難! とかのがいいのかな。
「あ、治癒にしよ」
「え?」
「この魔石に魔力詰めてあるし、緊急時に簡単に治癒できるとよくない? 死んでなければどうにかなりそうなレベルまで回復するような。使わないのが1番だけど」
「レティ、それは……できますの?」
「うん。魔術は、想像力だから」
 傷を負う、毒をもらう。その、前へと戻す。
 厳密に言うと治癒じゃない。治癒ならば、その人のいろんなものを活性化させて、体に起こっていることを強制的に治したり排したりしていくんだから。それもそれで、人の限界を越えてやるレベルであれば負担は大きい。
 でも私がやるのは、巻き戻し。巻き戻しは、昔手を出したんだけど、これはさすがになーって、よっぽどの時以外はとテオと約束した。
 そも、時を戻すなんてこれもまた、あんまり触れちゃだめなとこよねー。負担が、すごい。
 しかし、治癒と言い張れば!
 テオにはばれそうだけど。
 私は魔力こめた魔石を掌に転がす。
 ぎゅっと握ってそこへ魔術を施していく。
 イメージを詰め込む感じで、巻き戻し。
 時計の針の逆回転。あふれたものは戻っていく。開いたものは閉じていく。その前に、内側に入ったものは外へ、外へ。
 それが内側に入る一瞬前に戻す。
 状態を、戻していく。
「…………うぇ、思いのほかしんどい」
「それは、それだけ魔力を注ぎ込めば疲れもします。私からすればレティのやってることは、本当に恐ろしいです。それだけできることを、悪意のある方に知られたら……危険かと」
「そう、かなぁ……いや、そうね。やりすぎてる自覚はあるわ。けど、人前でやったりしないから大丈夫よ」
 そう言う問題では、とジゼルちゃんは言って。その先は紡がない。
 それはジゼルちゃんが口を出すことではないと判断したからだろう。
 私もそうそう、おまぬけではないつもりだ。危ないとこに自分からつっこんでいくようなことはさすがにしない。してないと、思いたい。
「もう一つにも同じ魔術を施すのですか?」
「ううん、こっちは……私が持っておくわ。多少の細工はするんだけど」
 こっちの魔石が使われたら、こっちの片割れから魔力供給、みたいな流れをつくる。こういうの距離があってもあんまり関係ないみたいなのよね。
 それなら長距離移動も行けるんじゃないのって思ったけど、質量のあるないによるみたいで。まぁその考察はまた別。
 とにもかくにも、一つだけに込めた魔力じゃ足りない場合、こっちからひっぱっていけるように。これはもとがひとつなのが割れたから、できることだと思う。
 今まで無駄に遊びでみつけたこととかもフル活用できそうー。
 ジゼルちゃんと話をしつつ、私は贈り物の準備を終えた。
 石は金具を付けて細身のチェーンを付けて。ブレスレットにして落としたりも嫌だったから、ネックレスにした。
 その出来上がったものを前に、私はごろごろ転がっている。
 これ、あげるの? 私が、テオに?
 いやあああ……恥ずかしい! もう絶対、投げつけるようにあげる! って言って終わりそうなんだけど!!
 うわあああああああいやああああああああああ。
 そうだ先に渡してしまおう。そうだそれがいい!!
 そう思ったのは深夜。さすがに、今からは駄目だろうと思ってやめておいた。
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