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第二章
従者
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ヨアン・バイヨはバイヨ男爵家の子。
お兄様曰く、クソ生意気。
ガブさん曰く、クソ生意気。
クソ生意気しか語彙がないのかな、この二人は!
お兄様の命じたこと――何を命じたかはわからないけど。それはできません、とか文句を言う。
文句言うような命なら仕方ないんじゃないかな! 逆に拒否できるってすごくない! とか思ったんだけど。
でも、その傍ら。
お兄様のいないところで、自分はトリスタンの右腕、信頼されている、とか好き放題言ってたらしい。
そういう、虎の威を~みたいな感じだったらしい。
いや、呼び捨てとかお兄様がしていいって言いそうにないんだけど、してる時点でアウトかな!
「学校内にいるが、俺の視界に入れば殺すと脅してある」
「んんっ」
「父上にも話して従者からも外した」
「よっぽどお兄様的に、アウトだったんですね」
「ああ、本当に。なぁ、テオドールを俺に」
「いーやーでーすー!」
テオは私の! という主張をしていると、片付け終わったテオが苦笑している。
レティが僕を大好きなことはよくわかってますよとからかうようなことを言うもので。
いや大好きだけど!!
「もう! とにかくテオは私の従者です。テオがお兄様の従者にっていうなら」
いうなら、とチラッ!
テオはそれに気づいて、はぁとひとつ息をついた。
「言いませんよ」
「ということなので、私の従者です」
これは絶対譲らないわ、と私も自然と、ふんすと鼻息荒くなる。淑女としてはアウトだけど相手はお兄様だし。気にしない!
ガブさんは見なかったことにしてください。
「……けど、一度お前も見ておいた方がいいかもな」
「ん? 何がです?」
「ヨアンだよ。お前の事は知ってるだろうから、お前からとりなそうとしてくるかもしれない。今は、ジュリアからの攻撃が激しいから動けないだけだろうし」
「ああ……ジュリアさんは、はい。はい……」
「ジュリアはそんなに扱い難しく、ないと思うけどなァ。でもヨアンはな……あれもあれで、頑張ってるんだと思うけど」
ガブさんが笑うと、俺の手間ばかり増えることをしてくれたとお兄様はぷんすこしている。
かわいくぷんぷんしているわけではないんだけど。
「うーん、とにかくお兄様はそのヨアンなる人が気に入らないわけで。従者だったけど切った。でもまだチラッとしてくる可能性がある。私を使って、ということです?」
「ま、そうだな」
そもそも、そのヨアンという少年は。
望んでお兄様の従者になったわけではないらしい。親が仕えなさい、と話をお父様に持ってきて。
お父様は別にいらないと思ったんだけどお付き合いの関係上、受け入れたと。
で、お付きになったヨアンとしては。なんで、自分がみたいな。そういう感じだったんだろうな。
お兄様の言うことは聞きたくない。けれど、お兄様の下にいるというのはある意味甘い蜜だったのかなと思う。
名前の力はすごいから。
それで、その甘い蜜を吸っていたわけだけど。お兄様がチョンっとした、かな。
「家同士の主従関係は面倒だな。なぁ、テオドールもそう思わないか?」
「どうでしょうね」
「はっきり言って良いんだぜ。親には言わないからな」
「お兄様」
「レティはちょっと黙ってな。従者を付ける、それはいい。でも俺の従者がアレだったからな」
お前があんなのではないと思うが、しかしと。
お兄様は言う。向けられる視線はちょっと厳しい。
テオを、計っている。その視線に、テオは笑顔を向けている。何その余裕!
ああああ、なにこれ心配とお兄様とテオをちらっちらっとかわるがわる見るしかできない。
「僕は従者というものが、どうあるべきかまだ、定まっていませんがレティの不利益になることは、しません」
「だろうな」
「けど、自分から離れるつもりも今のところないので、トリスタン様の不興を買わないよう、レティに嫌われないようにするだけかと」
「私がテオを嫌うとか、そんなのあるわけないじゃない! お兄様! 試してるのはなんとなくわかるんですけど、テオいじめるのやめてください!」
「いじめてねーし」
「それに素がでていますが!」
「今更……なぁ?」
テオは曖昧に笑う。お兄様にはぴしゃっと言わないと後で付け込まれるのよ!
私、全部ぴしゃっと言えてないけど。
「お兄様、テオのこと気に入ってますね。だめです、絶対だめですよ」
「なんでだよ」
「貸しても、あげません!」
絶対ダメー! と私は言う。
お兄様にテオを貸したら使い潰されてぼろぼろになるんじゃ! とか思ってしまって!
実際そんなことは無いと思うけどしかし!!
「ま、いいか。レティの従者なら俺の従者も同然……」
同然じゃないわー!!
と、言いたいのを飲み込んで。
とにかくテオはあげませんと私は何回か繰り返した。
「そうそう、ガブ。こいつらが実働部隊だから」
「あ、そうなのか」
と、いきなりだ。
実働部隊、とか言われて。私とテオは顔を見合わせた。嫌な予感しかしません。
「この前もお前たちが見に行ったから、取り押さえることにしたんだしな」
「ああ、やっぱりそうなんですね」
「え? なに? え?」
テオは苦笑している。え、何。私の知らない事知ってる? でも私も心当たりがある。
ジゼルちゃんが教えてくれたあれ。
そしてなんとなくそうだろうなと思ったんだけど、テオはもう知っていたというか察していたそぶり。
「……あの、見に行って来いのあれですか」
「そうだ。レティ、お前さ、色々できるだろ?」
「なんのことか」
「お前の魔術がおかしいつってんだよ。けど、使えるからな。俺が使うんだよ」
あ、なんかこれ。
馬車馬決定じゃない?
大事な妹をこき使うのですか、お兄様。そう尋ねると、そこの従者込みでなと鮮やかに笑って返されました。
お兄様曰く、クソ生意気。
ガブさん曰く、クソ生意気。
クソ生意気しか語彙がないのかな、この二人は!
お兄様の命じたこと――何を命じたかはわからないけど。それはできません、とか文句を言う。
文句言うような命なら仕方ないんじゃないかな! 逆に拒否できるってすごくない! とか思ったんだけど。
でも、その傍ら。
お兄様のいないところで、自分はトリスタンの右腕、信頼されている、とか好き放題言ってたらしい。
そういう、虎の威を~みたいな感じだったらしい。
いや、呼び捨てとかお兄様がしていいって言いそうにないんだけど、してる時点でアウトかな!
「学校内にいるが、俺の視界に入れば殺すと脅してある」
「んんっ」
「父上にも話して従者からも外した」
「よっぽどお兄様的に、アウトだったんですね」
「ああ、本当に。なぁ、テオドールを俺に」
「いーやーでーすー!」
テオは私の! という主張をしていると、片付け終わったテオが苦笑している。
レティが僕を大好きなことはよくわかってますよとからかうようなことを言うもので。
いや大好きだけど!!
「もう! とにかくテオは私の従者です。テオがお兄様の従者にっていうなら」
いうなら、とチラッ!
テオはそれに気づいて、はぁとひとつ息をついた。
「言いませんよ」
「ということなので、私の従者です」
これは絶対譲らないわ、と私も自然と、ふんすと鼻息荒くなる。淑女としてはアウトだけど相手はお兄様だし。気にしない!
ガブさんは見なかったことにしてください。
「……けど、一度お前も見ておいた方がいいかもな」
「ん? 何がです?」
「ヨアンだよ。お前の事は知ってるだろうから、お前からとりなそうとしてくるかもしれない。今は、ジュリアからの攻撃が激しいから動けないだけだろうし」
「ああ……ジュリアさんは、はい。はい……」
「ジュリアはそんなに扱い難しく、ないと思うけどなァ。でもヨアンはな……あれもあれで、頑張ってるんだと思うけど」
ガブさんが笑うと、俺の手間ばかり増えることをしてくれたとお兄様はぷんすこしている。
かわいくぷんぷんしているわけではないんだけど。
「うーん、とにかくお兄様はそのヨアンなる人が気に入らないわけで。従者だったけど切った。でもまだチラッとしてくる可能性がある。私を使って、ということです?」
「ま、そうだな」
そもそも、そのヨアンという少年は。
望んでお兄様の従者になったわけではないらしい。親が仕えなさい、と話をお父様に持ってきて。
お父様は別にいらないと思ったんだけどお付き合いの関係上、受け入れたと。
で、お付きになったヨアンとしては。なんで、自分がみたいな。そういう感じだったんだろうな。
お兄様の言うことは聞きたくない。けれど、お兄様の下にいるというのはある意味甘い蜜だったのかなと思う。
名前の力はすごいから。
それで、その甘い蜜を吸っていたわけだけど。お兄様がチョンっとした、かな。
「家同士の主従関係は面倒だな。なぁ、テオドールもそう思わないか?」
「どうでしょうね」
「はっきり言って良いんだぜ。親には言わないからな」
「お兄様」
「レティはちょっと黙ってな。従者を付ける、それはいい。でも俺の従者がアレだったからな」
お前があんなのではないと思うが、しかしと。
お兄様は言う。向けられる視線はちょっと厳しい。
テオを、計っている。その視線に、テオは笑顔を向けている。何その余裕!
ああああ、なにこれ心配とお兄様とテオをちらっちらっとかわるがわる見るしかできない。
「僕は従者というものが、どうあるべきかまだ、定まっていませんがレティの不利益になることは、しません」
「だろうな」
「けど、自分から離れるつもりも今のところないので、トリスタン様の不興を買わないよう、レティに嫌われないようにするだけかと」
「私がテオを嫌うとか、そんなのあるわけないじゃない! お兄様! 試してるのはなんとなくわかるんですけど、テオいじめるのやめてください!」
「いじめてねーし」
「それに素がでていますが!」
「今更……なぁ?」
テオは曖昧に笑う。お兄様にはぴしゃっと言わないと後で付け込まれるのよ!
私、全部ぴしゃっと言えてないけど。
「お兄様、テオのこと気に入ってますね。だめです、絶対だめですよ」
「なんでだよ」
「貸しても、あげません!」
絶対ダメー! と私は言う。
お兄様にテオを貸したら使い潰されてぼろぼろになるんじゃ! とか思ってしまって!
実際そんなことは無いと思うけどしかし!!
「ま、いいか。レティの従者なら俺の従者も同然……」
同然じゃないわー!!
と、言いたいのを飲み込んで。
とにかくテオはあげませんと私は何回か繰り返した。
「そうそう、ガブ。こいつらが実働部隊だから」
「あ、そうなのか」
と、いきなりだ。
実働部隊、とか言われて。私とテオは顔を見合わせた。嫌な予感しかしません。
「この前もお前たちが見に行ったから、取り押さえることにしたんだしな」
「ああ、やっぱりそうなんですね」
「え? なに? え?」
テオは苦笑している。え、何。私の知らない事知ってる? でも私も心当たりがある。
ジゼルちゃんが教えてくれたあれ。
そしてなんとなくそうだろうなと思ったんだけど、テオはもう知っていたというか察していたそぶり。
「……あの、見に行って来いのあれですか」
「そうだ。レティ、お前さ、色々できるだろ?」
「なんのことか」
「お前の魔術がおかしいつってんだよ。けど、使えるからな。俺が使うんだよ」
あ、なんかこれ。
馬車馬決定じゃない?
大事な妹をこき使うのですか、お兄様。そう尋ねると、そこの従者込みでなと鮮やかに笑って返されました。
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