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第二章
鍵の行方
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おいしい。しあわせ。
ガブさんに恵んでいただいたご飯とお味噌汁。
美味しい。まさかここでこの、前世の懐かしの味に出会うとは思ってなかった。
おいしい。超おいしい。
ジゼルちゃんもちょっと興味を示していたので、食べる? と少しおすそ分け。
お味噌汁を変わった味だけど美味しいと驚いていた。
おいしいーとかみしめて食べ終わると、お兄様達三人の視線が私に向いていた。
お兄様は呆れていて、殿下は楽しいものを見ているようで、ガブさんはまじまじと観察しているような。
ちっとも思惑を隠さない視線だった。
「……ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「そォか。トリスタン、お前の妹は変わりものだなァ」
「そうだな」
「あっ、お兄様ひどい!」
本当のことだろうと言われて。絶対に違うと言い返せない。
ちくしょうー!
「はは、改めて自己紹介しとくか。俺はガブリエル。ガブリエル・ファンテール。さっきも言ったけどガブでいい。名前の通り、俺はこの国の人間じゃなくて、隣国ファンテールの皇子だ」
一応、留学ということでここにいるとガブさんは言う。
皇子かよー! じゃあガブさんとかアウトじゃないの? ガブさま? でもなんかそれもどうなのって感じはする。
ガブさんでいいや。
「ちなみに留学って言ってるけど、避難だな。命を狙われてたんで」
おう、いきなりヘビーな。
「授業でたら居場所がばれるし、俺はここに隠れ住んでるってわけだ」
本国ではどこぞの国に留学している、ということで行先は告げられていないらしい。
それってどんだけしつこく狙われてるのって地味に思うんですけども。
その辺の難しそーな話は、私は右から左へー。
ジゼルちゃんとテオはそれを聞いてどういう事か理解したみたい。きっとあとで優しく教えてくれる。
とりあえず隣国ファンテールの何か特殊な事情のせいというのはわかった。
「俺は兄上がやればいいと思うんだけどなァ」
「ガブ、そんなことになったら戦争だ」
「お前はわかっていない。お前の兄上はな」
「あー、もういいって。兄上はやばい、だろォ? 俺からみれば分別あるけどなァ、一族の中で一番マシって思う程度には」
うん。お家事情が何かあるということね!
「まァ、暇なときは遊びに来いよ。俺も退屈してるからな」
「退屈?」
「お前が?」
「ああ、俺が退屈」
じゃあ今日も町に出て遊んでいたあれは誰だ、とお兄様が舌打ち。
ああ、苦労してるんですね。やーいもっと苦労してしまえ!
「よし、一応顔合わせもした。こいつを見かけたらすぐ報告」
ガブさんはけらけら笑いながら、お前に捕まるより先にここに戻ってくるってと言っている。
どうやらガブさんのほうがお兄様より上手らしい。
殿下は、好きにしたらいいんじゃないかなぁってのんびり眺めてる感じだ。
「ところでお前」
と、ガブさんは突然私を見て。
「お前、腐ったものは食えるか」
「……腐ったという、ものによります」
「豆だ」
「!!!!!」
その顔は、とガブさんはにやりと笑った。
おう、さっきはわんこみたい! って思ったけどお兄様と同等かそれ以上の悪い笑み!
というか豆で腐ってるとかそんなの一つしかない。
まさかの納豆ですか!?
「ガブ、まさかあれか」
「おう。こいつ、食えそうじゃねェ?」
「あれを? レティに? 俺はそうなる前に帰るぞ」
「俺も」
お兄様と殿下は明らかに嫌そうな顔だ。
えー! でも納豆なら食べたい。でもその前にガブさんはなんで和食食べてるんですか!
ファンテールは別に和食の国じゃなかったですよね!
という疑問を私はぶつけてみることにする。
「はい! はい! その前に! なんでこんな、美味しいもの食べてるんですか!」
「ん? 俺が好きだから」
「ファンテールの食事じゃないですよね!」
「ああ、ファンテールから離れた国のものだな。そこでは主食っぽい感じだけど、輸入すると金がかかるから高級な嗜好品、ってとこだな」
ごふっ。
高級だ、と……それめちゃくちゃ高いものを食べたのかもしれない。
やだ私もお米とかお味噌とか欲しい。むしろその国に移住したい。
「お兄様、これは探せば私でも手に入りますか」
「金を出せばな」
ですよねー!
「欲しいならわけてやるけど」
「えっ!?」
「調理できるのはここだけだろ。寮の食堂でやったら大騒ぎだろうな」
あああああ、確かに。寮の食堂でやったら目立つ。
高級な嗜好品。というのだから、調理はできるけど、それがまたおいしくできるかは別問題。
それなら慣れてるガブさんの方が上手。
「トリスタン、お前の鍵、こいつにやって」
「は?」
「お前は他のところから来れるし、それにこいつもいつでも来れるだろ?」
「いや、でも」
「トリスタン」
しばらくの間をおいて、お兄様はそれはできないときっぱりと言い放った。
「でも、貸してくれくらいなら聞いてやらないこともない。レティ、それでいいか」
「ご飯食べたいときはお兄様に鍵借りてここに来たら良いってことですね!!」
「ただし一人は駄目だ。テオドールを必ず一緒に連れて行くこと」
えー! なんでー!
という私の気持ちは顔にまるっと出ていたらしい。
お兄様曰く。
お前とガブ、二人だけにしたら事件を絶対起こす、とのこと。
あっ、それはちょっと。はい。
そうですね、そうかもしれませんねと頷かざるを得なかった。
テオ、巻き込んでごめーんね!
そんな視線を向けると今更ですね、とため息で返された。はい、いつも通り。
ガブさんに恵んでいただいたご飯とお味噌汁。
美味しい。まさかここでこの、前世の懐かしの味に出会うとは思ってなかった。
おいしい。超おいしい。
ジゼルちゃんもちょっと興味を示していたので、食べる? と少しおすそ分け。
お味噌汁を変わった味だけど美味しいと驚いていた。
おいしいーとかみしめて食べ終わると、お兄様達三人の視線が私に向いていた。
お兄様は呆れていて、殿下は楽しいものを見ているようで、ガブさんはまじまじと観察しているような。
ちっとも思惑を隠さない視線だった。
「……ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「そォか。トリスタン、お前の妹は変わりものだなァ」
「そうだな」
「あっ、お兄様ひどい!」
本当のことだろうと言われて。絶対に違うと言い返せない。
ちくしょうー!
「はは、改めて自己紹介しとくか。俺はガブリエル。ガブリエル・ファンテール。さっきも言ったけどガブでいい。名前の通り、俺はこの国の人間じゃなくて、隣国ファンテールの皇子だ」
一応、留学ということでここにいるとガブさんは言う。
皇子かよー! じゃあガブさんとかアウトじゃないの? ガブさま? でもなんかそれもどうなのって感じはする。
ガブさんでいいや。
「ちなみに留学って言ってるけど、避難だな。命を狙われてたんで」
おう、いきなりヘビーな。
「授業でたら居場所がばれるし、俺はここに隠れ住んでるってわけだ」
本国ではどこぞの国に留学している、ということで行先は告げられていないらしい。
それってどんだけしつこく狙われてるのって地味に思うんですけども。
その辺の難しそーな話は、私は右から左へー。
ジゼルちゃんとテオはそれを聞いてどういう事か理解したみたい。きっとあとで優しく教えてくれる。
とりあえず隣国ファンテールの何か特殊な事情のせいというのはわかった。
「俺は兄上がやればいいと思うんだけどなァ」
「ガブ、そんなことになったら戦争だ」
「お前はわかっていない。お前の兄上はな」
「あー、もういいって。兄上はやばい、だろォ? 俺からみれば分別あるけどなァ、一族の中で一番マシって思う程度には」
うん。お家事情が何かあるということね!
「まァ、暇なときは遊びに来いよ。俺も退屈してるからな」
「退屈?」
「お前が?」
「ああ、俺が退屈」
じゃあ今日も町に出て遊んでいたあれは誰だ、とお兄様が舌打ち。
ああ、苦労してるんですね。やーいもっと苦労してしまえ!
「よし、一応顔合わせもした。こいつを見かけたらすぐ報告」
ガブさんはけらけら笑いながら、お前に捕まるより先にここに戻ってくるってと言っている。
どうやらガブさんのほうがお兄様より上手らしい。
殿下は、好きにしたらいいんじゃないかなぁってのんびり眺めてる感じだ。
「ところでお前」
と、ガブさんは突然私を見て。
「お前、腐ったものは食えるか」
「……腐ったという、ものによります」
「豆だ」
「!!!!!」
その顔は、とガブさんはにやりと笑った。
おう、さっきはわんこみたい! って思ったけどお兄様と同等かそれ以上の悪い笑み!
というか豆で腐ってるとかそんなの一つしかない。
まさかの納豆ですか!?
「ガブ、まさかあれか」
「おう。こいつ、食えそうじゃねェ?」
「あれを? レティに? 俺はそうなる前に帰るぞ」
「俺も」
お兄様と殿下は明らかに嫌そうな顔だ。
えー! でも納豆なら食べたい。でもその前にガブさんはなんで和食食べてるんですか!
ファンテールは別に和食の国じゃなかったですよね!
という疑問を私はぶつけてみることにする。
「はい! はい! その前に! なんでこんな、美味しいもの食べてるんですか!」
「ん? 俺が好きだから」
「ファンテールの食事じゃないですよね!」
「ああ、ファンテールから離れた国のものだな。そこでは主食っぽい感じだけど、輸入すると金がかかるから高級な嗜好品、ってとこだな」
ごふっ。
高級だ、と……それめちゃくちゃ高いものを食べたのかもしれない。
やだ私もお米とかお味噌とか欲しい。むしろその国に移住したい。
「お兄様、これは探せば私でも手に入りますか」
「金を出せばな」
ですよねー!
「欲しいならわけてやるけど」
「えっ!?」
「調理できるのはここだけだろ。寮の食堂でやったら大騒ぎだろうな」
あああああ、確かに。寮の食堂でやったら目立つ。
高級な嗜好品。というのだから、調理はできるけど、それがまたおいしくできるかは別問題。
それなら慣れてるガブさんの方が上手。
「トリスタン、お前の鍵、こいつにやって」
「は?」
「お前は他のところから来れるし、それにこいつもいつでも来れるだろ?」
「いや、でも」
「トリスタン」
しばらくの間をおいて、お兄様はそれはできないときっぱりと言い放った。
「でも、貸してくれくらいなら聞いてやらないこともない。レティ、それでいいか」
「ご飯食べたいときはお兄様に鍵借りてここに来たら良いってことですね!!」
「ただし一人は駄目だ。テオドールを必ず一緒に連れて行くこと」
えー! なんでー!
という私の気持ちは顔にまるっと出ていたらしい。
お兄様曰く。
お前とガブ、二人だけにしたら事件を絶対起こす、とのこと。
あっ、それはちょっと。はい。
そうですね、そうかもしれませんねと頷かざるを得なかった。
テオ、巻き込んでごめーんね!
そんな視線を向けると今更ですね、とため息で返された。はい、いつも通り。
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