短編詰め合わせ

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唇の前に人差し指

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ひみつのはなし



 唇の前に。
 指一本、人差し指を立てて内緒と意味ありげに笑う。
 姉様のその姿に私は頷く。
 五つほど離れた姉様は幸せもの。
 私とはちがって多くの人に愛されて。姉様に会いたいから毎日違う方が姉様に会いにやってくる。
 そして姉様はその方と閉じられた部屋で過ごす。時折楽しそうな声が聞こえてきて。
 けれど、私はそこには招かれない。
 それがおかしなことと気づいたのは、私が夜会にでるようになってからだ。
 姉様には夫がいるというのに、夜会に出ては見目の良い方達と一緒に過ごす。
 周囲が、姉様のことをひそひそと噂しているのも目にした。
 これは、駄目なのだと私は知って。
 そして、私は――姉様のようにはならないと決めた。
 結婚する相手を大事にすると決めたし、誠意をもって対しようと。
 私にも婚約者ができ、仲良く過ごしていこうと思ったところ――手酷い裏切りにあった。
 姉様と、彼が体の関係を持ったのだ。
 私はその現場を見てしまって、姉様と目があってしまった。
 姉様は勝ち誇ったような笑みうかべ、私はそこから逃げた。
 逃げてはいけなかったのだろうけれど。
 結局、私はその時のことを問い詰めずに、婚約者と結婚をした。
 彼は私に優しく、誠実であろうとしてくれている。けれど、あんなのを見てしまったのだから信じきれない。
 愛情が持てないのだ。
 そんなある日、姉様の夫と会って。姉様の浮気について自分がいたらないせいだと零された。
 わたくしはそれを見て、自分の心の中で何かが疼くのを感じてしまった。
 そして。
「内緒に、いたしましょう?」
 姉様のように唇の前に人差し指たてて私は姉様の夫と口付を交わした。
 最初は戸惑っていたけれど。口付を深いものに変えていけば彼のほうから私を欲してくれた。
 姉様、姉様。
 貴女の旦那様はとても情熱的で素敵なのにどうして浮気をするの?
 私の旦那様。姉様の夫が私にこんなにもふるいつくというのにどうして姉様と一夜を共にしましたの?
 抱かれながら笑いが零れてしまう。
 秘密という響きのなんて甘美なことか。
 色々とないまぜになる感情と共に快楽が押し寄せて、気持ちよくてたまらない。
 やみつきになってしまいそう、と。
 私は涙零しながら思う。
 ああ、馬鹿なことをしてしまったと。



というような話はさすがに長々とかくきにはなれなかった…というところ。
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