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リアという少女
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シシリィとセアト。そしてベルベットが一緒に茶を飲んでいたその日――王城では動きがあった。
この国の王子は病に臥せっており、どんな高名な医者も原因がわからないと匙を投げていたのだ。
そこで、国王は良くあたるという占い師にどうすれば助けられるのか占ってもらったのだ。それは藁にもすがる思いで。
すると占い師は癒しの手を持つ者ならばと告げた。
それからダメでもともと、国王は癒しの手の持ち主を捜していた。
癒しの手。それは御伽噺に出てくるようなものなのだ。
どんな病も、どんな怪我も――その手によって看病されれば癒える。
見つかるわけがない。誰もがそう思っていたのだがある噂が国王のもとに届いた。
辺境、国の端の中でも、そのまた端にある小さな町にいる少女の話。
半信半疑で国王はその町に使いを出し真偽のほどを確かめさせた。そして、彼女の手はそれであるのでは、と判じられたのだ。
国王はすぐさまその少女を城へと呼んだ。
その持ち主は10歳の少女。国の端にある小さな町の、孤児院の少女だった。
国王や貴族、大人に囲まれてもその少女は堂々としていた。
何故連れてこられたのかは道中で伝えられている。そしてすでに報酬としてまとまった金額が、貧しい孤児院に渡されていた。
それは少女の望みでもあったからだ。
「私の名前はリア。言葉遣いが悪いのは、教育を受けていないからだから許してください」
はきはきと、王の前に立ってそう言った少女――リアは、私がやらなきゃいけないことはわかってるわと言う。
物おじせず物事をはっきり口にするリアに国王は感心し、好感をもった。
この子は子供ではあるが、すでに大人であると。子供ゆえの甘さもあるのだろうが、それでもひとりの相手として話をするべきだと思ったのだ。
それは、彼女しか我が子である王子を助ける手立てがない、ということもあったが。
リアは周囲の大人たちをみて、王様だけとお話がしたいと言った。他の者達は何を勝手な、と思ってそれが表情に出たのだが、国王は構わないとそれを了承した。
他の者達を退出させ、二人きりになり国王は口を開く。
「リア。そなたの手が癒しの手だという話は聞いただろう。その手で、王子を助けて欲しいのだ」
「ええ、それは構わないわ。でも、一つ勘違いしないでほしいの」
私の手は、触れただけですぐ病やけがを治せるようなものじゃない、と。
半分以上、死んでいる人はもう助けられない。その人に生きる意志がないと助けられない。
私の手は、誰でも治せる便利な手ではないの、と。
「孤児院にいて、たくさんの人に同じようにお願いされたわ。でも助けられた人もいるけど、そうでない人もたくさんいるの」
「そう、か……絶対ではないのか」
「絶対なんて、ないの。だから私が信じてるのは一つなの」
信じているもの? と国王は問い返す。リアはええと頷いてそれは、と紡いだ。
「それは、お金よ! お金があればなんでもできるわ」
病気にならないように町の汚い所を綺麗にしたり、薬だって買える。どうしようもなくなる前に医者に診てもらえる。それから、勉強だってできる。服だっていつまでもぼろを着なくていい。
最低限の人並みの生活ができるように、なれる。
リアの言葉に国王は黙るしかない。ここまで来るための対価として、まず孤児院にまとまった金をとリアに言われたのだから。
なるほど、彼女が金というのも、今の考えを聞けばわかると国王は思った。
貧しい。その生活から抜け出すためにということなのだ。それは自分だけではなく、一緒に育った子達、皆もというところだろう。
「私は私のいたところしか救えないけど、王様は国全部を助けられるのよね?」
「そう、だな……手が届かないところももちろんあるが、できるだろう」
「私はこの、自分の手を安く売るつもりはないの」
「ああ」
「私が王子様を助ける事ができたら、国にいる私みたいな子を助けるために頑張ってほしいの。王様にもだけど、王子様にも」
その、リアの強い視線に国王はわかったと頷いた。
そのようにしようと。それと同時に、リアに城に滞在するようにと命じた。
もともと、看病するために来たのだからそれは構わない。しかし国王は、色々なことを学びなさいと勉強するようにも言ったのだ。
リアにとってそれは、願っても無い事だった。
孤児院で自分の名前や簡単な文字くらいはかけるが、それ以上の事はというところ。
国王はリアに知識を付けるのは悪いことではないと思ったのだ。
王子が快癒しようがしまいが、色々なことを考えているであろう少女に差し伸べる手が自分にはあった。ただそれだけのことだ。
「……よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼む」
それから、リアは王子に引き合わされた。
王子の名前はキールという。
薄暗い部屋、豪奢な寝台に臥せっている少年は息も荒く苦しそうだ。
しかし、生きようとする気配はある。
どうだろうかと問う国王の視線にリアは頷いた。
大丈夫そうだと。
それからしばらくして――キール王子の容体は変化し始めた。
寝台から起き上がれるようになり、そして寝台から降りることもできるようになりと、その病状は目に見えて良くなっていったのだ。
一日中寝台の中にいる生活を送っていたキールはその時間を減らし、やがて普通に生活できるようになった。
ずっと自分を一生懸命看病してくれたリアにキールは感謝するとともに淡い恋心を抱き始めた。
どんな医者も無理だといって救ってくれた彼女に好意を寄せないわけがなかったのだ。
キールを救ったリアには、さらに褒美が与えられることになった。
癒しの手を持つ彼女を貴族たちはこぞって養女に迎えたがった。礼儀の作法などはこれからまだ身に着けることができる。それくらいの年齢だったからだ。
そしてキールが好意を抱いているなら、やがて召されるだろう。そうすると家にとっても幸いな話。
しかし、リアはそれらの申し出を断って平民に近い子爵家の養女となった。その家は子爵家であると同時に王家ご用達の商家でもあったのだ。
その家にと事を進めたのはほかならぬ国王。
国王はキールを看病するリアとさまざまな話をして、彼女の欲を知ったからだ。
そう、金さえあればなんでもできる。それは良い意味でも悪い意味でも。だがリアは今の所、それを良い意味で考えている様子。
だから同じような考えを持つ、金儲けのできる家にリアを任せることにしたのだ。
幸いにも、その子爵家には子がおらずリアを歓迎している様子。
キールが快癒したのちにリアは子爵家の元に引き取られ、リア・アステリオという名を持つことになった。
この国の王子は病に臥せっており、どんな高名な医者も原因がわからないと匙を投げていたのだ。
そこで、国王は良くあたるという占い師にどうすれば助けられるのか占ってもらったのだ。それは藁にもすがる思いで。
すると占い師は癒しの手を持つ者ならばと告げた。
それからダメでもともと、国王は癒しの手の持ち主を捜していた。
癒しの手。それは御伽噺に出てくるようなものなのだ。
どんな病も、どんな怪我も――その手によって看病されれば癒える。
見つかるわけがない。誰もがそう思っていたのだがある噂が国王のもとに届いた。
辺境、国の端の中でも、そのまた端にある小さな町にいる少女の話。
半信半疑で国王はその町に使いを出し真偽のほどを確かめさせた。そして、彼女の手はそれであるのでは、と判じられたのだ。
国王はすぐさまその少女を城へと呼んだ。
その持ち主は10歳の少女。国の端にある小さな町の、孤児院の少女だった。
国王や貴族、大人に囲まれてもその少女は堂々としていた。
何故連れてこられたのかは道中で伝えられている。そしてすでに報酬としてまとまった金額が、貧しい孤児院に渡されていた。
それは少女の望みでもあったからだ。
「私の名前はリア。言葉遣いが悪いのは、教育を受けていないからだから許してください」
はきはきと、王の前に立ってそう言った少女――リアは、私がやらなきゃいけないことはわかってるわと言う。
物おじせず物事をはっきり口にするリアに国王は感心し、好感をもった。
この子は子供ではあるが、すでに大人であると。子供ゆえの甘さもあるのだろうが、それでもひとりの相手として話をするべきだと思ったのだ。
それは、彼女しか我が子である王子を助ける手立てがない、ということもあったが。
リアは周囲の大人たちをみて、王様だけとお話がしたいと言った。他の者達は何を勝手な、と思ってそれが表情に出たのだが、国王は構わないとそれを了承した。
他の者達を退出させ、二人きりになり国王は口を開く。
「リア。そなたの手が癒しの手だという話は聞いただろう。その手で、王子を助けて欲しいのだ」
「ええ、それは構わないわ。でも、一つ勘違いしないでほしいの」
私の手は、触れただけですぐ病やけがを治せるようなものじゃない、と。
半分以上、死んでいる人はもう助けられない。その人に生きる意志がないと助けられない。
私の手は、誰でも治せる便利な手ではないの、と。
「孤児院にいて、たくさんの人に同じようにお願いされたわ。でも助けられた人もいるけど、そうでない人もたくさんいるの」
「そう、か……絶対ではないのか」
「絶対なんて、ないの。だから私が信じてるのは一つなの」
信じているもの? と国王は問い返す。リアはええと頷いてそれは、と紡いだ。
「それは、お金よ! お金があればなんでもできるわ」
病気にならないように町の汚い所を綺麗にしたり、薬だって買える。どうしようもなくなる前に医者に診てもらえる。それから、勉強だってできる。服だっていつまでもぼろを着なくていい。
最低限の人並みの生活ができるように、なれる。
リアの言葉に国王は黙るしかない。ここまで来るための対価として、まず孤児院にまとまった金をとリアに言われたのだから。
なるほど、彼女が金というのも、今の考えを聞けばわかると国王は思った。
貧しい。その生活から抜け出すためにということなのだ。それは自分だけではなく、一緒に育った子達、皆もというところだろう。
「私は私のいたところしか救えないけど、王様は国全部を助けられるのよね?」
「そう、だな……手が届かないところももちろんあるが、できるだろう」
「私はこの、自分の手を安く売るつもりはないの」
「ああ」
「私が王子様を助ける事ができたら、国にいる私みたいな子を助けるために頑張ってほしいの。王様にもだけど、王子様にも」
その、リアの強い視線に国王はわかったと頷いた。
そのようにしようと。それと同時に、リアに城に滞在するようにと命じた。
もともと、看病するために来たのだからそれは構わない。しかし国王は、色々なことを学びなさいと勉強するようにも言ったのだ。
リアにとってそれは、願っても無い事だった。
孤児院で自分の名前や簡単な文字くらいはかけるが、それ以上の事はというところ。
国王はリアに知識を付けるのは悪いことではないと思ったのだ。
王子が快癒しようがしまいが、色々なことを考えているであろう少女に差し伸べる手が自分にはあった。ただそれだけのことだ。
「……よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼む」
それから、リアは王子に引き合わされた。
王子の名前はキールという。
薄暗い部屋、豪奢な寝台に臥せっている少年は息も荒く苦しそうだ。
しかし、生きようとする気配はある。
どうだろうかと問う国王の視線にリアは頷いた。
大丈夫そうだと。
それからしばらくして――キール王子の容体は変化し始めた。
寝台から起き上がれるようになり、そして寝台から降りることもできるようになりと、その病状は目に見えて良くなっていったのだ。
一日中寝台の中にいる生活を送っていたキールはその時間を減らし、やがて普通に生活できるようになった。
ずっと自分を一生懸命看病してくれたリアにキールは感謝するとともに淡い恋心を抱き始めた。
どんな医者も無理だといって救ってくれた彼女に好意を寄せないわけがなかったのだ。
キールを救ったリアには、さらに褒美が与えられることになった。
癒しの手を持つ彼女を貴族たちはこぞって養女に迎えたがった。礼儀の作法などはこれからまだ身に着けることができる。それくらいの年齢だったからだ。
そしてキールが好意を抱いているなら、やがて召されるだろう。そうすると家にとっても幸いな話。
しかし、リアはそれらの申し出を断って平民に近い子爵家の養女となった。その家は子爵家であると同時に王家ご用達の商家でもあったのだ。
その家にと事を進めたのはほかならぬ国王。
国王はキールを看病するリアとさまざまな話をして、彼女の欲を知ったからだ。
そう、金さえあればなんでもできる。それは良い意味でも悪い意味でも。だがリアは今の所、それを良い意味で考えている様子。
だから同じような考えを持つ、金儲けのできる家にリアを任せることにしたのだ。
幸いにも、その子爵家には子がおらずリアを歓迎している様子。
キールが快癒したのちにリアは子爵家の元に引き取られ、リア・アステリオという名を持つことになった。
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