上 下
25 / 46

25.

しおりを挟む
「…………3月……3日、だとぉ……?」
「………………す、すみません……」
「……てめぇ……ふざけんな!!何で、黙ってたんだよ……!ランドに行った前の日じゃねぇか……!!」

 翌日、仕事終わりに早速呼び出し俺は美晴を問い詰めていた。

「えぇ…?そんなに怒りますぅ…?だって別にもう、大人だし、僕の誕生日なんて、……そんな特別なイベントでもあるまいし。ふふ。…いただきまぁす」

(特別の極みだろうが馬鹿野郎!!)

「……40や50のオッサンじゃねーんだからお前…………なんでそんな枯れてんだよ……言ってくれよ…………祝ってやりたかったわちゃんと…………」

 運ばれてきた天ぷらを美味そうにハフハフ食っている美晴を前に俺はガックリと項垂れた。

「…おいひい。…ふふ、ありがとうございます響さん。でももう祝ってもらったようなものじゃないですか。ランドでも結局全部お金出してもらっちゃってるし、お土産まであんなに…」
「それとこれとは話が別だろーが!!」
「そうですかぁ?」
「おまっ………………もう…………」

 何なんだよもう……。泣けてくるわ。いや、こいつばかりを責められねぇ。何で聞いておかなかったんだ俺は。もっと早い段階で上手いこと聞き出しておくべきだったんだ。またしても大失態だ。一年で一番大事なイベントをスルーしてしまった。あいつは…………あのデカ男なんか、ヨ、ヨーロッパにまで連れて行ってんのに……!いや、そりゃ向こうは当時彼氏で、俺はただの友達ポジションだけどさ。それでもなんかやり過ぎない程度には特別なことしてやりたかったわ。クソ。何なんだよマジで。クリスマスイブにはトラウマを植えつけ、誕生日はスルーし、俺いいとこねーじゃねぇか。こりゃ好かれるはずねーわ。

「どうしたんですか?響さん。天ぷら冷めちゃいますよ」
「………………来年は、当日俺に祝わせろ」
「えっ?あっ、はいっ。ありがとうございます。ふふ」

 まだその話?みたいな顔すんな。

「……………………欲しいものを言え」
「え?」
「お前が今欲しいものの中で、一番高いものを言え」
「えぇ?だって別にないですもん」
「なんかあるだろーが!なくてもひねり出せ!!」
「だってぇ……」

 クソ。可愛い顔して困ってんじゃねーよ。絶対に祝ってやる。たとえ遅れたにしても豪勢に祝ってやる!

「何もねーんなら車買って持ってくぞ」
「っ?!バカなこと言わないでくださいよ!僕運転すっごく下手なんだから車もらっても乗れませんよ!……そもそもそんなに高いものいりませんっ!」
「はーーー……もう……」
「そ、そんなに気にします……?あ、ねぇ、響さんのお誕生日はいつですか?」
「言わねぇ」
「えぇ?」
「お前が隠してたから俺ももう絶対に言わねぇぞ」

 俺は大人気なくいじけてみせた。

「別に隠してたんじゃないですってば。…………ふふ。……ありがとうございます、響さん」
「……あ?」
「そんなにまで僕の誕生日なんかを特別に思っててくれるなんて、…もうそれだけで充分すぎるくらいに……嬉しいです。……特別なプレゼントなんてもらわなくても、僕はいつも幸せですよ。…響さんに、……いつも、その、……すっごく、……優しくしてもらってるから…………」
「……っ、」

 途中から顔を真っ赤にしてそんなことを素直に言う美晴。

(…………か、…………可愛すぎる……っ!クソ……ッ)

「……響さんのお誕生日、…教えてください」
「…………10月22日」





(はー、どこで祝おうかなー。家に呼びたいけど特別な日にまたマンション来いよって言うのはなんかちょっとなー。また何かされるんじゃねーかってビビるだろうしなー)

 美晴をアパートに送ってから帰る道中、ずっとあいつの誕生日をどう祝うかについて思いを巡らせていた。マンションの駐車場に車を停めたタイミングでスマホが鳴る。……また大輝じゃねぇだろうな。まさか。


『響クン元気?イブも誕生日もスルーされちゃって寂しい。今度遊んで』


(なんだ、女か)

 ラインの送り主は以前何かの食事会かコンパで出会った受付嬢の穂香ほのかという女だった。わりと清楚な見た目とは裏腹に奔放な性格で、何度か寝たことがあるだけの仲だった。

(そういえばこの女もクリスマスの前ぐらいからやたら連絡してきてたな。全部スルーしてたけど)

 それどころじゃない俺は深く考えずにまたスルーしてスマホをカバンにしまい、部屋に上がった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

人気俳優は表情筋が死んでいる人気声優の彼が好き

竜鳴躍
BL
人気俳優の夏目太陽は、有名監督の新作アニメ映画の主役の一人に抜擢される。もう一人の主役は、甘い声に変幻自在の演技で人気の若手実力派声優 ·冬木香月。 顔出ししていない彼は、とんでもなくイケメンだった。 「俺よりイケメンってどういうこと?それに、あれだけ美形でなんで俳優はやらねえの?」 冬木は実は表情筋が死んでいて、どんなに熱い演技をしても顔は無表情という致命的な欠陥を抱えていた。 男同士の友情と愛情を描いた映画に吹き替えていくうちに、いつしか二人の距離感は縮まって……。 ※太陽を手に入れたいベテラン声優、香月に横恋慕し太陽を目の敵にするアイドル、そして香月を捨てた親も絡んできます。 俳優☓声優。サブカプはマネ×マネ。

先生、運命です

BL
シングルファザーα×保育士Ω 5年前、できちゃった婚をした竜也。 相手とは離婚、捨てられた竜也は息子の凪を1人で育てることに専念した。 5歳の凪を新しい保育園に送っていくと出迎えてくれた先生が… 番外編をぼちぼち追加

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)

ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。 僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。 隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。 僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。 でも、実はこれには訳がある。 知らないのは、アイルだけ………。 さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

処理中です...