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「……よぉ、お疲れ」
「こんばんは。お疲れさまです。…待ちましたか?」
「や、全然。さっき着いたところだ。…どうする?何食う?お前の好きなものでいいぞ。何でも奢るから」
「あははっ」
ようやく会えた水曜日。年の瀬も押し迫り夜になっても街は賑やかだ。忘年会シーズンだし、そろそろどこも仕事納め。どこか予約しておこうかと思ったが、美晴となかなか連絡がつかず何が食べたいのかも分からなかったからひとまずやめておいた。
どうにか……ようやく会ってもらえた……。4日ぶりに見る美晴は相変わらず可愛い。月曜は何か用事があったのか、それともまだ俺の顔が見たくなかったのか、気になるけど根掘り葉掘り聞けない。昨日はなんとなく、連日では誘いづらくて一日空けた。そしてようやくの今日だ。
俺の「何でも奢るから」があの時の謝罪の意味だと分かったのか、美晴はあははっと軽く笑う。……よかった。本心はどうあれ、ひとまず許そうとはしてくれているらしい。
結局「和食が食べたい」という美晴のために俺が気に入っている店に電話をかけ、突然にも関わらず無理矢理席を用意してもらった。「個室になさいますか?」と言われたが、止めておいた。なんとなく、美晴がどう思うか分からねぇし……俺と二人きりの空間を露骨に嫌がられたらこっちが死にそうだし……。
やらかしてしまった痛手が大きく、俺はビビり倒しながら美晴を店まで連れて行った。
「すごぉ~い……」
「美味いか?」
「すっ…ごく美味しいです!…こんなの初めて食べた…!……よ、よかったんですか?こんなに、なんかすごい高級そうなお店に連れて来てもらっちゃって…」
「いいんだよ。気に入ったならよかった。遠慮せず腹が破裂するまで食えよ」
「あはは嫌ですよ、お腹から飛び出たらもったいないじゃないですか」
美晴はすっかりご機嫌で幸せそうに料理を堪能している。よかった……。俺は内心胸をなで下ろす。土曜の夜のままのテンションだったらどうしようかと……ありがとう美晴。可愛い上に素直で優しくてもう本当に言うことなしだ。誰にもとられたくない。どうにかして俺のものにしたい。そして今度こそ……いつかは合意の上で…………
大きくやらかした直後だというのに、しょうもない俺はやっぱりエロいことばかり考えてしまうのだった。
「お前仕事納めいつ?」
「明日です」
「そうか。一緒だな」
「響さんって実家に帰ったりするんですか?」
「んー…そうだなぁ。まぁ滅多に帰らないから年末年始ぐらいはなぁ」
「どこですか?ご実家」
「近ぇよ。隣の県だ。お前は?」
「僕北海道です」
「へー、だからそんなに色白なのか?」
「や、どうですかね…。黒い人も普通にいますけど…。たぶんただの遺伝です」
雪国育ちかぁ。似合ってんなー。何気ない会話も普通にできていることに俺は心底ホッとしていた。年明けたら初詣に行こうぜとか、さり気なく次に会う約束まで取り付けて、俺は美晴をアパートまで送った。
「今日はご馳走さまでした!すごく美味しかったです!」
(うっ…………あ、相変わらず可愛いなこの顔)
満面の笑みを浮かべてキラキラした目で見上げられると可愛すぎて鼻血が出そうだ。いかんいかん。態度に出すなよ絶対。
「おー。また行こうな」
「はいっ」
「じゃあな。ちゃんと鍵かけろよ」
「あははっ。子どもじゃないんですから。おやすみなさい」
「おー。おやすみー」
何でもない風にアパートを離れるが、本当は帰りたくなくて仕方ない。もっと別れを惜しんで美晴の綺麗な顔をゆっくり堪能したい。頬を撫で、唇を撫で、髪を撫で、暖かくしてゆっくり寝ろよ、とか声をかけたい。そして抱きしめて優しくキスをして、好きだよとか言いたい。めちゃくちゃ好きだよ。お前は俺のこと好きか?とか聞きたい。というか、あわよくば泊まりたい。一晩中抱きしめて暖めたい。
「…………はぁーーー…。…いつになることやらだな……」
そもそもそんな日が本当にやってくるのか。美晴と出会って以来何十回目になるか分からない溜息をつきながら、俺は帰路についたのだった。
「こんばんは。お疲れさまです。…待ちましたか?」
「や、全然。さっき着いたところだ。…どうする?何食う?お前の好きなものでいいぞ。何でも奢るから」
「あははっ」
ようやく会えた水曜日。年の瀬も押し迫り夜になっても街は賑やかだ。忘年会シーズンだし、そろそろどこも仕事納め。どこか予約しておこうかと思ったが、美晴となかなか連絡がつかず何が食べたいのかも分からなかったからひとまずやめておいた。
どうにか……ようやく会ってもらえた……。4日ぶりに見る美晴は相変わらず可愛い。月曜は何か用事があったのか、それともまだ俺の顔が見たくなかったのか、気になるけど根掘り葉掘り聞けない。昨日はなんとなく、連日では誘いづらくて一日空けた。そしてようやくの今日だ。
俺の「何でも奢るから」があの時の謝罪の意味だと分かったのか、美晴はあははっと軽く笑う。……よかった。本心はどうあれ、ひとまず許そうとはしてくれているらしい。
結局「和食が食べたい」という美晴のために俺が気に入っている店に電話をかけ、突然にも関わらず無理矢理席を用意してもらった。「個室になさいますか?」と言われたが、止めておいた。なんとなく、美晴がどう思うか分からねぇし……俺と二人きりの空間を露骨に嫌がられたらこっちが死にそうだし……。
やらかしてしまった痛手が大きく、俺はビビり倒しながら美晴を店まで連れて行った。
「すごぉ~い……」
「美味いか?」
「すっ…ごく美味しいです!…こんなの初めて食べた…!……よ、よかったんですか?こんなに、なんかすごい高級そうなお店に連れて来てもらっちゃって…」
「いいんだよ。気に入ったならよかった。遠慮せず腹が破裂するまで食えよ」
「あはは嫌ですよ、お腹から飛び出たらもったいないじゃないですか」
美晴はすっかりご機嫌で幸せそうに料理を堪能している。よかった……。俺は内心胸をなで下ろす。土曜の夜のままのテンションだったらどうしようかと……ありがとう美晴。可愛い上に素直で優しくてもう本当に言うことなしだ。誰にもとられたくない。どうにかして俺のものにしたい。そして今度こそ……いつかは合意の上で…………
大きくやらかした直後だというのに、しょうもない俺はやっぱりエロいことばかり考えてしまうのだった。
「お前仕事納めいつ?」
「明日です」
「そうか。一緒だな」
「響さんって実家に帰ったりするんですか?」
「んー…そうだなぁ。まぁ滅多に帰らないから年末年始ぐらいはなぁ」
「どこですか?ご実家」
「近ぇよ。隣の県だ。お前は?」
「僕北海道です」
「へー、だからそんなに色白なのか?」
「や、どうですかね…。黒い人も普通にいますけど…。たぶんただの遺伝です」
雪国育ちかぁ。似合ってんなー。何気ない会話も普通にできていることに俺は心底ホッとしていた。年明けたら初詣に行こうぜとか、さり気なく次に会う約束まで取り付けて、俺は美晴をアパートまで送った。
「今日はご馳走さまでした!すごく美味しかったです!」
(うっ…………あ、相変わらず可愛いなこの顔)
満面の笑みを浮かべてキラキラした目で見上げられると可愛すぎて鼻血が出そうだ。いかんいかん。態度に出すなよ絶対。
「おー。また行こうな」
「はいっ」
「じゃあな。ちゃんと鍵かけろよ」
「あははっ。子どもじゃないんですから。おやすみなさい」
「おー。おやすみー」
何でもない風にアパートを離れるが、本当は帰りたくなくて仕方ない。もっと別れを惜しんで美晴の綺麗な顔をゆっくり堪能したい。頬を撫で、唇を撫で、髪を撫で、暖かくしてゆっくり寝ろよ、とか声をかけたい。そして抱きしめて優しくキスをして、好きだよとか言いたい。めちゃくちゃ好きだよ。お前は俺のこと好きか?とか聞きたい。というか、あわよくば泊まりたい。一晩中抱きしめて暖めたい。
「…………はぁーーー…。…いつになることやらだな……」
そもそもそんな日が本当にやってくるのか。美晴と出会って以来何十回目になるか分からない溜息をつきながら、俺は帰路についたのだった。
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