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第四話 屍時計。(1)
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1.
人間として死んだ長針はいつも通り学校に登校していた。
今は放課後。担任である矢場ケムリの呼び出し――というよりホームルームの後そのまま教室から引きずり出され職員室まで連れてこられた。
「いい度胸だな~指針川?」
一年一組担任矢場ケムリは不敵な笑みを浮かべながら紫煙を吐いた。
現在矢場の机周辺は光化学スモッグも目じゃないくらい煙が滞っている。これは普段なら回されているはずの換気扇と空気清浄機が意図的に切られているからである。ただでさえ職員室内で隔離されている場所が入ったら二度と出られない霧の樹海のようになっている。
「あ、ハハハ……」
霞がかかった矢場の顔を見ながら長針は引きつった笑みを浮かべる。
「サボりの次は宿題をやってこなかっただ?」
今日は月曜日だ。
アテナに死ぬと宣告された日の翌日。
どうせ死ぬと高を括っていた長針は矢場の出した宿題を放置したのだ。
だが、何の因果か長針はここでこうして活動している。
「んー? 発癌するまで副流煙で受動喫煙させてやろうか?」
あんた本当に教師か。
思わず口から出そうになった言葉を飲み込み、長針は愛想笑い。
矢場は足元のファンのスイッチを入れると長針の方に毒素満点の煙をものすごい勢いで流す。長針はもくもくと押し寄せる副流煙の洗礼に耐えながら矢場の言葉を待つ。
「オラオラ、煙たいか? あぁん?」
苛烈さが増す一方で矢場はどこか楽しそうだった。
「しっかし、いい度胸だなてめぇ、燻して燻製にしてスモークにして食堂の新しいメニューにすんぞ? ああ?」
どれだけ煙まみれにするつもりだ。なんだか電気スタンドで顔を照らされて取り調べを受けている容疑者の気分だった。
その後、十分ほど説教の名を借りた憂さ晴らしが続いた。
「この次も忘れたら本気で燻製に……ん? 指針川、お前顔色悪くないか?」
矢場の鬼のような形相が気遣わしげなものに一変。
「血の気がないっつか……嫌なことでもあったか?」
「強いて言うなら今がそうです」
「ははは、そんな軽口聞けるなら大丈夫だろ」
矢場に綺麗に燻された長針は疲労の濃い顔で職員室から這い出るとため息を吐いてみた。
(あぶねぇ……でも案外ばれないもんだな)
僅か一晩で順応した自分に嫌気がさした。
昨日意識が回復してからのことを思い出していた。
人間として死んだ長針はいつも通り学校に登校していた。
今は放課後。担任である矢場ケムリの呼び出し――というよりホームルームの後そのまま教室から引きずり出され職員室まで連れてこられた。
「いい度胸だな~指針川?」
一年一組担任矢場ケムリは不敵な笑みを浮かべながら紫煙を吐いた。
現在矢場の机周辺は光化学スモッグも目じゃないくらい煙が滞っている。これは普段なら回されているはずの換気扇と空気清浄機が意図的に切られているからである。ただでさえ職員室内で隔離されている場所が入ったら二度と出られない霧の樹海のようになっている。
「あ、ハハハ……」
霞がかかった矢場の顔を見ながら長針は引きつった笑みを浮かべる。
「サボりの次は宿題をやってこなかっただ?」
今日は月曜日だ。
アテナに死ぬと宣告された日の翌日。
どうせ死ぬと高を括っていた長針は矢場の出した宿題を放置したのだ。
だが、何の因果か長針はここでこうして活動している。
「んー? 発癌するまで副流煙で受動喫煙させてやろうか?」
あんた本当に教師か。
思わず口から出そうになった言葉を飲み込み、長針は愛想笑い。
矢場は足元のファンのスイッチを入れると長針の方に毒素満点の煙をものすごい勢いで流す。長針はもくもくと押し寄せる副流煙の洗礼に耐えながら矢場の言葉を待つ。
「オラオラ、煙たいか? あぁん?」
苛烈さが増す一方で矢場はどこか楽しそうだった。
「しっかし、いい度胸だなてめぇ、燻して燻製にしてスモークにして食堂の新しいメニューにすんぞ? ああ?」
どれだけ煙まみれにするつもりだ。なんだか電気スタンドで顔を照らされて取り調べを受けている容疑者の気分だった。
その後、十分ほど説教の名を借りた憂さ晴らしが続いた。
「この次も忘れたら本気で燻製に……ん? 指針川、お前顔色悪くないか?」
矢場の鬼のような形相が気遣わしげなものに一変。
「血の気がないっつか……嫌なことでもあったか?」
「強いて言うなら今がそうです」
「ははは、そんな軽口聞けるなら大丈夫だろ」
矢場に綺麗に燻された長針は疲労の濃い顔で職員室から這い出るとため息を吐いてみた。
(あぶねぇ……でも案外ばれないもんだな)
僅か一晩で順応した自分に嫌気がさした。
昨日意識が回復してからのことを思い出していた。
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