終末学園の生存者

おゆP

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第二章

第17話 十二学区珍道中(2)

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2.
 透哉は岩灘と虎井が乗った電車を見送ると、手にした二人の名刺を裏返した。受け取ったときにちらりと見たのだが、電話番号とメールアドレスが記載してある。
 過程はさておき、結果として湊のおかげで十二学区の住人との繋がりを獲得できたことになる。
 五分ほど休憩した後、「さて」と気持ちを切り替え、改札を抜けて地上に出るための通路を探す。

「……おい、出口はどこだ?」

 しかし、透哉は強烈な田舎節を炸裂させる。
 改札を抜けた先は広大な地下街になっていて、商業施設がひしめき合っている。
 ざっと見回しただけで飲食店に携帯ショップ、安さが売りの理髪店。
 目を凝らせばそこらかしこに案内板が点在し、床にも道筋が明記されているのだが、視線をグルグルとさまよわせるばかりで情報を何一つ拾うことが出来ない。
 さすが田舎者、目の付け所が違う。
 早い話、上下以外の方向が全く分からなかった。
 有益な情報源がいくらあろうとも、透哉にとっては砂漠のど真ん中と変わらないのである。
 位置関係で言うなら先日湊に先導されて練り歩いた街から数駅の場所だが、そんなこと今の透哉が知るよしもない。
 再び疲労感が戻ってきたが、旅の友だと割り切るしかないだろう。
 透哉は「仕方がねぇか」と小声で呟き、最後の手段と言わんばかりにスマホを取り出す。
 そして、ピポパと電話をかける。

『もしもし、透哉? 今度は何?』
「る、湊か? 緊急事態だ。助けてくれ」
『――何があったの?』

 簡潔な救援要請に湊の声のトーンが下がる。透哉の口調から緊急性を察知したからだ。

「地下鉄の駅に到着したんだが、地上への出口が分からない」
『――』

 湊は絶句した。

「おい、聞いてるのか?」
『自力でなんとかしなさい』

 透哉は切断されたスマホを名残惜しそうにポケットに戻すと歩き始めた。
 闇雲に歩き回ることは得策ではないが、立ち止まっているのは性に合わなかった。
 けれど、透哉は足を止め、息を飲む。

(普通に魔人が歩いているのか……)

 地下鉄の駅とは言え、もうここは十二学区の敷地内。
 普段生活している学園周辺とは勝手も住民も大きく異なる。
 駅のホーム一つとっても魔人の姿が散見できる。
 往来の人々に反応する素振りはなく、魔人たちは街中に溶け込んでいた。
 目立つ行動は慎むべきなので、気にはなるが時折視界に入る魔人を意識の外に追い出す。
 十二学区と言う場所もそうだが、妙に居心地が悪い。
 水質の違う川に放流された魚の気分だった。
 歩きながら先日のアカリと交わした電話の内容を思い返す。
 アカリには『駅から地上に出たらすぐ分かるから』と雑な説明を受けただけなので、地下からの脱出方法(アカリはそんなことが問題になるとは思っていない)までは教わっていない。
 こんなことなら岩灘と虎井に聞いておけば良かったと後悔が過ぎるが、二人を乗せた電車は既にない。
 ぐるりと周囲を散見して、今更のように上に向いた矢印の標識を発見した。それが今の透哉には天から垂れてきた蜘蛛の糸に見えた。

「やや? そこに棒立ちしているのはいつぞや宇宮君と一緒にいた失礼な君ではないか?」
「あ?」

 やっと見つけた光明に胸をなで下ろすのも束の間、耳障りな声に振り向くと立っていたのは金髪の少年。
 しかも、腕をクロスさせ、顎を引き、流し目をバッチリ決めた謎のナルシストポーズで。
 他人の顔を覚えるのが苦手な透哉でも覚えがあった。
 先日オープンテラスで湊との会話中に乱入してきた金髪オレンジだ。

「………」

 透哉は一瞥すると関わりを断絶するため、一切言葉を発さずに去ることにした。目指すのは上に向いた矢印の先、地上だ。珍獣の生息するアビスから一秒でも早く脱出したい。
 しかし、金髪オレンジは謎のポーズのまま透哉の行く先に滑り込んでくる。
 どうも、変な人種に好かれるのは学園の外でも変わらないらしい。

「おっと、無視は良くないな! それとも僕を忘れたのかい?」
「あー、お前は俺たちを無能と嘲った後にる、湊の怒りを買って尻尾を巻いて逃げた……」
「あーあー、そうだよ! 君の物言いは相変わらず鼻につくな!」

 数秒前までの余裕はどこへ消えたのか、透哉の挨拶代わりの応酬に金髪オレンジは地団駄を踏んで苛立ちを露わにする。
 しかし、即座に髪をかき上げ立ち直る。

「息が上がっているぞ? 余裕がないならあんまり無理すんな?」
「うるさいなぁ!? それより今日はこんなところでどうしたんだい? よければこの僕が案内してあげるよ」

 一人で困っている風に見える透哉を放置しない辺り、意外と世話焼きなのかもしれない。

「俺は知り合いの頼みでコンサートホールに行くところで、今は地上への出口が分からなくて立ち往生していた」
「む、もしかして君もエレメントのライブ会場に行くのかい?」

 田舎者振りを笑われると覚悟を決めて白状した透哉だが、金髪オレンジの興味は異なる方に向いた。
 目的を言い当てられたことはやや不気味だったが、それぐらいしか共通の話題がない。

「ああ、ってお前もか……」
「露骨に嫌そうな顔をしないでくれたまえ。同じエレメントファンなら同志であろうに。まぁ、推しの違いで諍いは生まれるかもしれないが」

 同志のなんたるかも、推しのなんたるかも全く心得ていない透哉。でも、道案内としては適任のようなので利用させて貰うことにした。
 あえて触れずに話しをしていたが、今の金髪オレンジの格好は関わりたくないを超えている。敵対して撃退してしまいたいと思うレベルだ。
 以前のオレンジ色のブレザーに金髪頭もインパクトとしては十分だが、それを上回る。
『宇宮湊ラヴ』と書かれた鉢巻きを額に巻き、紫色のはっぴを着た上、手にはボストンバックを持っている。晴れて金髪オレンジから金髪パープルにカラーチェンジである。
 コンサートホールの周辺ならまだしも、ここまだ駅構内。
 街の条例に引っかかりそうな見た目をしている。目的が同じでなければ本当に関わりたくない。もっと言うなら目的が同じであることを恥じたい。
 金髪パープルの話を右から左に聞き流しながらも牽引されて念願の外に出る。

(悪いが地上に出ればこっちのものだ)

 透哉は金髪パープルが視線を外した一瞬の隙をついて逃亡を図る。
 手近な曲がり角に飛び込み、カラオケ店の看板の影に潜む。

「よし、撒いたな。ん? ここはどこだ?」
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