終末学園の生存者

おゆP

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第二章

第14話 アイドルの誘い(2)

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2.
 学生アイドルである春日アカリは忙しい。
 学生として学校に通う傍ら、アイドルとしての歌唱力やダンスのレッスンも欠かさない。
 下手な社会人より遙かに時間管理はシビアで、日によっては数分単位しか時間的余白がない日もある。
 つまり、休みという休みがないのである。
 仕事と称されるアイドル活動はもちろんだが、学業もおろそかには出来ない。
 ただ幸いしているのはエレメントの入団条件はエンチャンターとして優れているか否かなので、学力は一般水準を満たしていればそれほど重視されない。
 重ねて言うが、学生アイドルには時間がない。
 エレメントに所属するアカリも例外ではない。
 しかし、今日は午後から予定がない。
 学園で出された宿題はミーティングの待ち時間に片付けたし、学業への不安も今のところないので予習復習は必要ない。
 新曲の収録も先日終わったので本当に珍しく出来た、心から肩の力を抜ける休息である。
 そんな忙しい合間に出来た貴重な休息時間に、春日アカリがしていることは、

「だー! また出ないじゃないのあいつ!」

 手にしたスマホに向かって発狂である。
 とある男子へ電話の発信を繰り返しているが、一向に出る気配はない。コール音を乗り越え通話が成り立ったのは過去に一度きり。
 会話もしてないのに既に心を乱されつつある事実にアカリは呼吸を整え、作戦を立てる。
 まず相手が応答したとする、そしたら相手に話をさせる暇を与えずこちらから話を始める。
 つまり先手必勝である。
 会話って何だろう。そんな疑問が上がる。

(もし出たら、用件だけをスマートに伝える! これでうまくいくわ!)

 一方、スマホに視線を落とした透哉は顔を顰める。
 春日アカリからの着信である。
 実行委員会中に何度も着信していたが、忙しさの余り切断する暇もなかったのだ。
 折り返し電話をするという思考はなく、画面上部に表示された着信履歴を削除する作業を先程行ったばかりだ。
 しかし、七夕祭の良好な進捗状況に気をよくした透哉は「たまには出てやるか」と言う気持ちになって通話ボタンをタップした。

『喜びなさい! あんたを私たちのライブに招待するわ』
「めんどいから行かない。バイビー」

 透哉は流れるような手捌きで通話を切断すると、あれ? と妙な引っかかりを覚えた。とてつもなく有益な単語を耳にした気がしたからだ。
 中身が気になる袋とじを眺めるような顔でスマホに視線を落とす透哉。
 すると案の定すぐに再着信したスマホが震えだした。

 一方、切断されたアカリは通話時間に一秒と表示された画面を即座に閉じてリダイアル。
 二連続の通話は絶望的かと思われたが、予想外なことに透哉はこれに応じた。

「だーかーらっー! 碌に話も聞かずに秒で通話切るの止めなさいよぉ!」
『ライブとやらに招待されてやる』

 繋がったことを安堵する間もなく、とりあえず文句をバズーカ砲のごとくぶっ放す。喉を生業とする者とは思えないほどの酷使である。
 一方でこちらの怒りなど意に介さない透哉。本当ならこの時点で怒りは最高潮に達するのだが、予想外の返事が高速で飛んできたためアカリは怒りを忘れる。

「え? 本当に、嘘じゃないよね?」
『ああ、マジマジのマジだ。それで、いつだ?』
「えっと、ちょっと待ちなさいよ? あ、切ったらダメだからね!?」

 さっきの一秒切断がウソのように今度の透哉はノリがいい。
 玉砕を覚悟どころか、応答もままならないと思っていたアカリからすれば透哉のこの反応は青天の霹靂である。
 ライブの日程など当然頭に入っている。
 しかし、紙面上で再確認を試みなければならないほどアカリは動揺していた。ワタワタしながら傍らのパンフレットを取り、既知情報を求め、告げる。

「こ、今週の土曜日よ!」
『場所は?』
「夜ノ島コンサートホールよ。って言ってもあんた分からないわよねっ! えーあー、後で会場の場所と開演時間の連絡もした方がいいわよね!?」
『会場とグループ名で調べたら分かるんじゃねーのか?』
「あ、そうね、その手があったわねっ!」
『何でそんなに慌ただしいんだよ?』
「別にそんなことないわよ! それより招待したんだからちゃんと来なさいよ!?」
『分かった。じゃあな』

 通話を終えたスマホを机に上に置くと春日アカリはふぅー、と細くすぼめた口から長めの息を吐いた。
 どうしよう。
 来るはずがないと思ってヤケクソで誘ったので焦っていた。
 でも、これでアイドルとしての実力を見せつけることが出来る。勢いに起因した行動だったとは言え、ひとまず成功したと言える。
 しかし、僅かに考え、

「ちょっと待って、これじゃ今度のライブをあいつに見せるために聞かせるために踊って歌うみたいじゃない!?」

 小声で漏らして無意識にスマホの方に目を向けるとなんだか顔が熱くなってきた。手鏡で顔を見てみると、信じたくないが頬が赤い。

「ああ、なんか急に恥ずかしくなってきた! あぁ、そ、そうよ! いつもと同じように観客を大根やジャガイモだと思えばいいのよ!」

 自然と出た失礼な吐露に自覚はない。
 しばらくの間アカリの頬から赤みが失せることはなかった。
 透哉の関心が会場の設備等々に向いていることなど知るよしもない。
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