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第二章
第13話 雪だるま懐柔戦線。(5)
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5.
冷気に包まれた視界の端、空へと伸びる打ち上げ花火のような火線。
「オラァ! 何やってんだ!? 雪だるまぁ!」
豪々吾が真っ赤な炎の尾を引き、雲に風穴を開けるロケットのように冷気を吹き飛ばし、下から飛び出してきた。
この対処に困窮する状況に現われた豪々吾は紛れもない救世主だった。
急激に熱を加えられた冷気が一気に蒸発、膨張して爆風を生み出す。
大砲に等しい爆音を響かせ、充満していた冷気を爆散した。
豪々吾は衝撃で更に舞い上がると、今度は頭を下に向け、足の裏を爆発させて天を蹴り、隕石の如き速さで屋上に降下してくる。
夜ノ島学園広しと言えど、空中を逆V字の軌道で動くことなど豪々吾にしかできない。
透哉と砕地の間、氷原のど真ん中を目前に体を回転させ豪快に着地――着弾する。
着弾の衝撃と爆発は、ガラス板を束で砕き割ったような音を轟かせた。
屋上を覆う氷が豪々吾を中心に王冠のように砕けて飛散し、同時に発生した水蒸気諸共吹き飛ばした。
上空から着地しただけで、屋上の気候が元の季節に戻るほどの破壊力だった。
「ダイナミック過ぎるだろ」
「そうとも! 食後の元気いっぱいの俺様だぜ!?」
その威力と迫力は助けられた透哉が苦言を呈するほどである。豪々吾の威勢の良さに辟易しつつも、本気で砕地の扱いに困っていた透哉としてはこの乱入は非常に心強かった。
いくら保身のためとは言え、『雲切』を抜いてしまった手前、収集の付け所が分からなくなっていたのだ。
「とりあえずよぉ、貫雪。周りの迷惑になるからあんまり派手に暴れんじゃねぇよ」
「いや、あんたがそれを真顔で言うのか」
「そりゃあ、俺様は生徒会長だからな」
「その肩書きネタじゃなかったのかよ……つーか、職権乱用だろ」
透哉と豪々吾が職権乱用云々の話で盛り上がる傍ら。
「せっかく面白くなってきたところなのに」
砕地は不服そうに言いながらも、魔力を帯びた腕を納刀するように組み直す。
臨戦態勢を解き、脅威は身を潜めたかに見えたが、相変わらず砕地の表情は分からない。
霜の降りた黒い義手が鈍く不気味な輝きを放つ。
「委員会の仕事で訪ねてきただけなんだろ? そんぐらい大目に見てやれや」
「まぁ、確かにそうだね。御波君には落ち度がない……悪かったね」
砕地は豪々吾の説教を素直に受け入れると、落ち度を認めて白く丸い頭を下げた。
「分かってくれたらそれでいい。それより、二年五組の催しの件頼んだぞ?」
「ああ、それくらいの分別は付けている。今日の実行委員会で取り上げよう」
謝罪につけ込むようで気が引けたが、透哉は念には念を入れて要望をプッシュしておく。
屋上は溶けた氷とその破片でぐちゃぐちゃになっているが、ひとまず折り合いが付き収束した。
「それにしても、随分仲がいいみたいだね?」
「悪いかよ」
二人を見た砕地のその言葉に透哉が答えると、砕地は何故か豪々吾の方に顔を向けて続けた。
暗に「君に言ったわけじゃない」と言われた気もしたが真意は分からない。
「ふふ、君も物好きだね」
「おうよ、俺様とブラザーは親友だからな」
ニッと歯を剥き出しにして胸を張る豪々吾。普段なら暑苦しいと一蹴するところだが、豪々吾の乱入が厄介な状況を打開するために一役買ってくれたことは事実である。
「あー、そのありが、ありがとーな」
「へへっ、気にすんなよブラザー。それより、今度は俺様と遊ぼうぜ!」
「悪いがそれは断る」
それはそれ。これはこれである。
透哉はきっぱりと恩人である豪々吾の要望を切り捨てる。
断られた豪々吾はなんでぇ、つまんねぇと言いながら頭の後ろで腕を組み、ふて腐れる。
「じゃあ、僕は先に失礼するよ」
声と同時、バサッと布が翻るような音がする。透哉が背後を振り返ると砕地の姿は跡形もなく消えていた。
代わりに残されたのは大量の氷の塊。後始末は季節柄、時間が自然と解決してくれる。
しかし。
透哉は実行犯が去った巷を一望し、惨状に思わず息を飲む。
単純な物量攻撃と言う点なら透哉が今まで目にした中では最大規模である。
上空からの豪々吾の一撃が大きな要員とは言え、今の屋上は隕石が落ちてきた氷河期のような有様である。
唖然とする透哉の横、豪々吾がため息ながらに口を開く。
「あいつ、ちょっと目を離すといきなり居なくなるんだよなぁ。雪だるまってのはそう言うもんなのか?」
豪々吾のどこかずれた見解はさておき、一抹の後味の悪さを残しつつも、実行委員長である砕地に協力を仰ぐ当初の目的は達成した。
冷気に包まれた視界の端、空へと伸びる打ち上げ花火のような火線。
「オラァ! 何やってんだ!? 雪だるまぁ!」
豪々吾が真っ赤な炎の尾を引き、雲に風穴を開けるロケットのように冷気を吹き飛ばし、下から飛び出してきた。
この対処に困窮する状況に現われた豪々吾は紛れもない救世主だった。
急激に熱を加えられた冷気が一気に蒸発、膨張して爆風を生み出す。
大砲に等しい爆音を響かせ、充満していた冷気を爆散した。
豪々吾は衝撃で更に舞い上がると、今度は頭を下に向け、足の裏を爆発させて天を蹴り、隕石の如き速さで屋上に降下してくる。
夜ノ島学園広しと言えど、空中を逆V字の軌道で動くことなど豪々吾にしかできない。
透哉と砕地の間、氷原のど真ん中を目前に体を回転させ豪快に着地――着弾する。
着弾の衝撃と爆発は、ガラス板を束で砕き割ったような音を轟かせた。
屋上を覆う氷が豪々吾を中心に王冠のように砕けて飛散し、同時に発生した水蒸気諸共吹き飛ばした。
上空から着地しただけで、屋上の気候が元の季節に戻るほどの破壊力だった。
「ダイナミック過ぎるだろ」
「そうとも! 食後の元気いっぱいの俺様だぜ!?」
その威力と迫力は助けられた透哉が苦言を呈するほどである。豪々吾の威勢の良さに辟易しつつも、本気で砕地の扱いに困っていた透哉としてはこの乱入は非常に心強かった。
いくら保身のためとは言え、『雲切』を抜いてしまった手前、収集の付け所が分からなくなっていたのだ。
「とりあえずよぉ、貫雪。周りの迷惑になるからあんまり派手に暴れんじゃねぇよ」
「いや、あんたがそれを真顔で言うのか」
「そりゃあ、俺様は生徒会長だからな」
「その肩書きネタじゃなかったのかよ……つーか、職権乱用だろ」
透哉と豪々吾が職権乱用云々の話で盛り上がる傍ら。
「せっかく面白くなってきたところなのに」
砕地は不服そうに言いながらも、魔力を帯びた腕を納刀するように組み直す。
臨戦態勢を解き、脅威は身を潜めたかに見えたが、相変わらず砕地の表情は分からない。
霜の降りた黒い義手が鈍く不気味な輝きを放つ。
「委員会の仕事で訪ねてきただけなんだろ? そんぐらい大目に見てやれや」
「まぁ、確かにそうだね。御波君には落ち度がない……悪かったね」
砕地は豪々吾の説教を素直に受け入れると、落ち度を認めて白く丸い頭を下げた。
「分かってくれたらそれでいい。それより、二年五組の催しの件頼んだぞ?」
「ああ、それくらいの分別は付けている。今日の実行委員会で取り上げよう」
謝罪につけ込むようで気が引けたが、透哉は念には念を入れて要望をプッシュしておく。
屋上は溶けた氷とその破片でぐちゃぐちゃになっているが、ひとまず折り合いが付き収束した。
「それにしても、随分仲がいいみたいだね?」
「悪いかよ」
二人を見た砕地のその言葉に透哉が答えると、砕地は何故か豪々吾の方に顔を向けて続けた。
暗に「君に言ったわけじゃない」と言われた気もしたが真意は分からない。
「ふふ、君も物好きだね」
「おうよ、俺様とブラザーは親友だからな」
ニッと歯を剥き出しにして胸を張る豪々吾。普段なら暑苦しいと一蹴するところだが、豪々吾の乱入が厄介な状況を打開するために一役買ってくれたことは事実である。
「あー、そのありが、ありがとーな」
「へへっ、気にすんなよブラザー。それより、今度は俺様と遊ぼうぜ!」
「悪いがそれは断る」
それはそれ。これはこれである。
透哉はきっぱりと恩人である豪々吾の要望を切り捨てる。
断られた豪々吾はなんでぇ、つまんねぇと言いながら頭の後ろで腕を組み、ふて腐れる。
「じゃあ、僕は先に失礼するよ」
声と同時、バサッと布が翻るような音がする。透哉が背後を振り返ると砕地の姿は跡形もなく消えていた。
代わりに残されたのは大量の氷の塊。後始末は季節柄、時間が自然と解決してくれる。
しかし。
透哉は実行犯が去った巷を一望し、惨状に思わず息を飲む。
単純な物量攻撃と言う点なら透哉が今まで目にした中では最大規模である。
上空からの豪々吾の一撃が大きな要員とは言え、今の屋上は隕石が落ちてきた氷河期のような有様である。
唖然とする透哉の横、豪々吾がため息ながらに口を開く。
「あいつ、ちょっと目を離すといきなり居なくなるんだよなぁ。雪だるまってのはそう言うもんなのか?」
豪々吾のどこかずれた見解はさておき、一抹の後味の悪さを残しつつも、実行委員長である砕地に協力を仰ぐ当初の目的は達成した。
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