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相変わらず転がったままのあたしに近付く足音がした。


「無茶をしますね」

猿ぐつわを外され、拘束も解かれて、身体を解していると、いきなり抱き締められた。


「ちょっ、」

「いいじゃないですか」


無事を確かめさせて下さい。


その声音には、どこか弱弱しいものが含まれているように思えた。


(仕方ないなあ)

しばらくそうしていると、


「……小野寺警視」


(は!? 今なんて言ったっ!?)


「ああ、何だ」


「この件の容疑者は確保しました。ですがその」


(あああっ!! そう言えば公務員がどうかとかっ!! 何で聞き流してたの自分っ!!)


脳内会議が大荒れに荒れる中、傍らでは会話が続いていた。


「しかし、よくこの場所が分かりましたね。先ほど会議を抜けた時、ここまで分かっていらしたのですか?」


(何か、含みのある言い方だなあ)

部下らしいけれど、表面上だけ従ってるっぽい。


(こういうタイプだと、ある程度の仕事は任せられるけど、他は要注意、ってパターンだよね)


そう思って見ていると、小野寺警視()は軽く肩を竦めて、


「愛の力、かな」


「「さぶっ!!」」


「ふたり同時には止めてくれないかな」



「いやほんとに何で?」


思わず聞くと、


「知りたいですか?」


(何、その笑みっ!! めちゃくちゃ庇護欲と独占欲、刺激するんですけどっ!!)


荒れ狂う脳内を何とか抑えつけて頷くと、仕方ないなあ、と長い指があたしが履いていたローヒールの踵を押さえた。


「まさか」


その答えはくすり、と口角を上げた笑みに人差し指を立てる、というものだった。


(だーかーらー、どれだけこっちの理性を試せば気が済むのっ、この子犬はっ!!)


「……発信器」


誰かがぼそり、と呟いた。


(はーい、お兄さん大正解っ!! 商品はハワイ旅行だっ!!)



現実逃避してる場合じゃない。



「発信器、って」

「ストーカー規制、いやプライバシー法」

「いや待て、合意だろ」


(え、ちょっ、どういうことっ!?)


分かりたくもないのに大体の状況が読めてしまう。


恐らく、彼はオメガ初のキャリアで、彼らからしたら相当煙たい存在。


何でもいいからミスらしいことをしたら、追い落とそうとするはず。


さっきの部下が確認するように、


「その、まさかそれは」

「ああ。発信機だよ」


(さらりと答えるなぁっ!!)


このことを汚点と捉えられたら――。


(だから、嫌だったのに)


伴侶を守るには力が必要。


だから自分では役不足だと思っていた。


(それなのに)


思わず睨むと、飄々とした笑みが返ってきた。


(くうっ、いつか絶対、仕返ししてやる)



「分かりました。ではこの件は……」


「……です」

「は?」


「だから全て同意の上ですよ。何かあったら困りますしね」


「……棒読みですが」



(そこは突っ込んじゃいけません)

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