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逆転?
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「――ということでこの問題はこの公式だね。分かったね?」
「え、ちょっと待ってっ!! 早いってっ!!」
「……うん。そうそのまま続けて。で、答えは?」
「え、とこれでいい?」
ノートを寄せるついでにこちらへ来た光に内心どきりとしながら頷く。
「うん。いいよ」
これで大体大丈夫だろう。
後は帰るだけ、と教科書をしまおうとした僕の手が止められた。
(え?)
「聞きたかったんだけどさ。何か最近海斗変じゃない?」
「何のこと?」
平静に見えるように答えるが内心はばくばくしている。
光が顔を覗き込んで来る。
「何かさ。ここのところ一緒に帰るのって少なくない? それにもしかして俺のこと避けてる?」
「違う」
「そう? じゃあ俺のこと嫌い?」
「は?」
いきなりの問いに僕は答えられなかった。
だってやっと光への想いを捨てられるかもしれない、と思ったのに。
ここに来てそれはないだろう。
何も答えられない俺の前で光がスマホを取り出した。
「ねえ、これ書いたの海斗でしょ?」
スマホの画面には例の小説サイトがあった。
そして開かれているのはついさっき投稿したばかりの『バウムクーヘンエンド』。
(どうしてっ!?)
僕が驚いているのが分かったのだろう。
光が説明してくれた。
「何かさっきから海斗、スマホの画面見過ぎ。ちょっと気になったからさっき海斗がお手洗い入った時に見ちゃったんだ。使用履歴」
てへ、と笑う光に怒りたいが出来ない。
何故ならこれは僕も以前やらかしたことがあったから。
中学の時、僕が原因で光が苛められてないか心配で時々光のスマホをチェックしてしまったことがあった。
何回かは本人の許可を得たけれど、光が隠していないか心配になってこっそり見てしまったことがあって。
その時は理由を告げて謝罪し、光も許してくれた過去がある。
(何やってんだろ、僕)
「……ちょっとそういう気分だったから」
何とか言い訳めいたことを言うが、光の声が普段より低い。
「うん。そうだね。でもさあ。何このタグ――『心の整理に置いただけ』って」
――俺とのことはすっぱり忘れて誰かほかの奴と付き合おうってつもり?
ハイライトの消えた目をした光がぐいぐい迫って……え? 何で僕が押し倒されてるんだっ!?
「はあ。本とに。誤解されるようなことあったのは認めるけど。ねえ、本当に諦めるの? 俺のこと」
(近い近い近いっ!!)
その距離の近さもだが、どこか目が死んでる光のことが気になって押し返すことが出来ない。
「知ってた? こうして家に上げるのって海斗だけなんだよ。ひょっとして何にも伝わってなかったの?」
「え、じゃあ三石さんは、」
「彼女が好きな人が俺と同じ部活なの。で、その時の様子とか好きなタイプとか教えてただけ」
「は?」
(何だそれ。マジに何なんだよそれは)
それじゃあ光はまだ誰とも――。
「全く。母さんはともかく父さんにも認めて貰うにはまだかかりそうなんだけど」
何だか聞き捨てならない台詞が聞こえたような。
「海斗が不安になるならしょうがない――って何逃げようとしてるの?」
床に転がったままずりずりと後退ろうとした腰を捕らえられて思わず目を逸らした。
「いやあの、僕もうそろそろ帰――「帰るなんて言わないよね?」
これは誰だ?
いつもぽやぽやした雰囲気の光の姿などどこにもなくまるで肉食獣のような――。
「好きだよ。海斗。白詰草の時はちょっと失敗しちゃったから、今度はきちんと出来るまで待とうと思っていたんだけど。おかしな誤解される位なら言うよ。俺は海斗が好きだよ」
ちょっとぽんやりした幼なじみ。
誰がそんなことを言ったんだろう。
確かに光は僕より少し小柄で背が低い。
けどそれは決して光が一人の男性だということを損なっていない。
(……え、ちょっとヤバい)
ここでほんの少しだけカッコいいと思ってしまった僕はおかしいのかもしれない。
「海斗?」
少し不安そうな顔になった光が口を開く前に、僕も言葉を絞り出す。
ただどうしても顔は見れなかったけれど。
「……好きだよ。ずっと前から」
よそ見をしたままの僕の首筋に光のふわふわのくせっ毛が擦りつけられた。
「くすぐったいよ」
「ちゃんと顔見せてくれたら離すよ」
「……」
こちらの顔が真っ赤なのを知っていて言うのは少し意地が悪いと思う。
そのまま動けずにいる僕の耳朶に光の息がかかる。そして軽く添えられていただけの腕が意思を持って動き始めた。
「滅茶苦茶待ったんだけど――いいかな?」
「は、えっ、ちょっと待っ」
(いやいやいやっ、無理だっ、ハードルが高すぎるっ!! というかまさか僕が下なのかっ!!)
じたばたと暴れる僕に何を思ったのかふいに光の身体が離れた。
(……え?)
「もういいよ。無理矢理にする気はないし。でも」
――これ位いいよね。
囁くように言われて近付いてきた光に逆らう意思は流石になかった。
後日、孤高の委員長の首筋に薄紅の印があったとかなかったとかで学校内に旋風が巻き起こったとか。
( 完 )
「え、ちょっと待ってっ!! 早いってっ!!」
「……うん。そうそのまま続けて。で、答えは?」
「え、とこれでいい?」
ノートを寄せるついでにこちらへ来た光に内心どきりとしながら頷く。
「うん。いいよ」
これで大体大丈夫だろう。
後は帰るだけ、と教科書をしまおうとした僕の手が止められた。
(え?)
「聞きたかったんだけどさ。何か最近海斗変じゃない?」
「何のこと?」
平静に見えるように答えるが内心はばくばくしている。
光が顔を覗き込んで来る。
「何かさ。ここのところ一緒に帰るのって少なくない? それにもしかして俺のこと避けてる?」
「違う」
「そう? じゃあ俺のこと嫌い?」
「は?」
いきなりの問いに僕は答えられなかった。
だってやっと光への想いを捨てられるかもしれない、と思ったのに。
ここに来てそれはないだろう。
何も答えられない俺の前で光がスマホを取り出した。
「ねえ、これ書いたの海斗でしょ?」
スマホの画面には例の小説サイトがあった。
そして開かれているのはついさっき投稿したばかりの『バウムクーヘンエンド』。
(どうしてっ!?)
僕が驚いているのが分かったのだろう。
光が説明してくれた。
「何かさっきから海斗、スマホの画面見過ぎ。ちょっと気になったからさっき海斗がお手洗い入った時に見ちゃったんだ。使用履歴」
てへ、と笑う光に怒りたいが出来ない。
何故ならこれは僕も以前やらかしたことがあったから。
中学の時、僕が原因で光が苛められてないか心配で時々光のスマホをチェックしてしまったことがあった。
何回かは本人の許可を得たけれど、光が隠していないか心配になってこっそり見てしまったことがあって。
その時は理由を告げて謝罪し、光も許してくれた過去がある。
(何やってんだろ、僕)
「……ちょっとそういう気分だったから」
何とか言い訳めいたことを言うが、光の声が普段より低い。
「うん。そうだね。でもさあ。何このタグ――『心の整理に置いただけ』って」
――俺とのことはすっぱり忘れて誰かほかの奴と付き合おうってつもり?
ハイライトの消えた目をした光がぐいぐい迫って……え? 何で僕が押し倒されてるんだっ!?
「はあ。本とに。誤解されるようなことあったのは認めるけど。ねえ、本当に諦めるの? 俺のこと」
(近い近い近いっ!!)
その距離の近さもだが、どこか目が死んでる光のことが気になって押し返すことが出来ない。
「知ってた? こうして家に上げるのって海斗だけなんだよ。ひょっとして何にも伝わってなかったの?」
「え、じゃあ三石さんは、」
「彼女が好きな人が俺と同じ部活なの。で、その時の様子とか好きなタイプとか教えてただけ」
「は?」
(何だそれ。マジに何なんだよそれは)
それじゃあ光はまだ誰とも――。
「全く。母さんはともかく父さんにも認めて貰うにはまだかかりそうなんだけど」
何だか聞き捨てならない台詞が聞こえたような。
「海斗が不安になるならしょうがない――って何逃げようとしてるの?」
床に転がったままずりずりと後退ろうとした腰を捕らえられて思わず目を逸らした。
「いやあの、僕もうそろそろ帰――「帰るなんて言わないよね?」
これは誰だ?
いつもぽやぽやした雰囲気の光の姿などどこにもなくまるで肉食獣のような――。
「好きだよ。海斗。白詰草の時はちょっと失敗しちゃったから、今度はきちんと出来るまで待とうと思っていたんだけど。おかしな誤解される位なら言うよ。俺は海斗が好きだよ」
ちょっとぽんやりした幼なじみ。
誰がそんなことを言ったんだろう。
確かに光は僕より少し小柄で背が低い。
けどそれは決して光が一人の男性だということを損なっていない。
(……え、ちょっとヤバい)
ここでほんの少しだけカッコいいと思ってしまった僕はおかしいのかもしれない。
「海斗?」
少し不安そうな顔になった光が口を開く前に、僕も言葉を絞り出す。
ただどうしても顔は見れなかったけれど。
「……好きだよ。ずっと前から」
よそ見をしたままの僕の首筋に光のふわふわのくせっ毛が擦りつけられた。
「くすぐったいよ」
「ちゃんと顔見せてくれたら離すよ」
「……」
こちらの顔が真っ赤なのを知っていて言うのは少し意地が悪いと思う。
そのまま動けずにいる僕の耳朶に光の息がかかる。そして軽く添えられていただけの腕が意思を持って動き始めた。
「滅茶苦茶待ったんだけど――いいかな?」
「は、えっ、ちょっと待っ」
(いやいやいやっ、無理だっ、ハードルが高すぎるっ!! というかまさか僕が下なのかっ!!)
じたばたと暴れる僕に何を思ったのかふいに光の身体が離れた。
(……え?)
「もういいよ。無理矢理にする気はないし。でも」
――これ位いいよね。
囁くように言われて近付いてきた光に逆らう意思は流石になかった。
後日、孤高の委員長の首筋に薄紅の印があったとかなかったとかで学校内に旋風が巻き起こったとか。
( 完 )
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