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譲れない想い
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ミスティアは焦っていた。
攻撃魔法と同時に転移を使った際に自分以外の者が紛れ込んでいても全く気付かない位には。
(急いであの枝を隠さないとっ!!)
破壊してしまえばよいのだが、それをすると宝珠の内に籠めた想いが辺り一帯にばらまかれることになる。
(ううっ、どうしてあんなの作ってしまったのよっ、私のばかっ!!)
今更後悔しても遅いのだが、そう思わずにはいられないミスティアだった。
だが、心の内に留めておくにはあまりにも辛かったのだ。
魔族に親がいるのはよほど力のある上級魔族だけであり、ミスティアのような下級魔族は瘴気の中から年月を経て自然に生まれるのが普通である。
ミスティアも気が付いたらここにいたのだ。
ミスティアのような下級魔族は大して珍しくもなく、他に能力の高い魔族がいたことから、まだ若いミスティアは戦力外として勇者との決戦には招集されなかった。
友人と呼べる者もなく、ましてや心情を吐露できる相手など居るはずもなく、勇者への想いだけが募っていく日々。
(内に籠めるからだめなのよ)
せめて人に擬態して告白でもしてさっさと振られてしまえば――。
そう決意し、村娘の扮装をして勇者の元へ向かったミスティアが見たのは。
『好きだ。結婚してくれ』
『……はい』
間が悪いとしかいいようがなかった。
いざミスティアが告白しようとしたその日に勇者が別の女性に求婚しているんど、一体何の冗談だろうか。
ミスティアは神を呪った。
あまりにも間が悪すぎる、と。
(有り得ないでしょうっ!! 何よこの展開はっ!? はあ? 勇者とは幼なじみでずっと想い合っていたですってっ!!)
流石にここで出て行く訳にも行かず、この時からミスティアの想いは宙に浮いたままだった。
はあ、とため息をついた先にあるのは棚に置かれた宝珠の付いた枝。
三又に分かれたそれは最早地肌の部分は見えず、光を反射してきらきらと輝く宝珠のみが目につく。
(さっさと隠さないと)
ミスティアがそれに手を伸ばした時だった。
「それが宝の枝ですね」
「――ッ!!」
宝の枝を手にしたミスティアが振り返るとそこには先ほど交戦した勇者の孫カイルがいた。
「勝手について来てすみませんでした。ですが、どうしてもそれがないとシャマル王子の命が――」
「――クェイクッ!!」
ミスティアの術が展開され、床が裂け、地面が揺れる。
「――フライ」
宙に浮いた者に地属性の術は効きにくい。
頭では理解できるが、咄嗟に判断して行動に移せる者は少ない。
「凄いですね。やはり女性といっても魔族」
「馬鹿にするなっ!!」
話など聞いてられない。
先ほどからかつての勇者を彷彿とさせる口調や仕草にミスティアの忍耐が切れかかっていた。
(姿形は違うはずなのにどうしてこんなに似ているのよっ!!)
内心の動揺を押し隠し、カイルを睨む。
「人に貸す義理はない」
この時点で棲家としていた一軒家は壊滅していた。
「派手にやりますね。そしてそこまで言うのは何故です。よりにもよって貴女が」
「――? どういう意味だ?」
ミスティアはこの勇者の孫とは面識がないはずだった。
「お前と会うのは初めてのはずだが?」
少し気になったので攻撃の手を休めて問うとカイルはとんでもないことを言い始めた。
「お爺様から話を聞いてましたから。この国境にはとてもかわいい魔族の少女がいる、と」
――まあ可愛いよりはとても綺麗な方だと思いますが。
「はあああああっ!?」
カイルの話によるとどうやらミスティアの小さな想いは勇者側にはバレバレだったらしい。
「元々ここは国境に近いですからね。それに幾ら遠目でも魔族は分かりますから」
ちなみにその辺りから女性の魔族は大人しやかだという認識が生まれたらしい。
(何でそんなことになってるのぉ~~っ!!)
ミスティアとしては泣きたい位だが、心情が吐露されていないだけまだマシかもしれない。
(このままこの枝を死守すればきっと何とかなるっ!!)
「シャマル王子の件もあるので、早急にその枝をお借りしたいのですが」
「断るっ!! ――アクアウェーブッ!!」
森の中に突如大きな波が出現した。
「――っ!!」
流石にそれは想定外だったらしい。
カイルが波に飲まれて流されて行く。
(いっそのことこのまま流されて国に帰って)
切に願うミスティアの耳に何かが風を切る音が聞こえてきた。
「――ウィンドエッジッ!!」
風の刃が大波を切り開き、人がひとり通れる位の道を作る。
(なん、)
呆気に取られたミスティアの視界に明るい色の髪をした人物が現れた。
「これで皆の病が治るんですっ!! 少しの間でいいから貸してくれませんかっ!?」
「断るっ!!」
お互いの譲れない戦いはまだ始まったばかりだった。
攻撃魔法と同時に転移を使った際に自分以外の者が紛れ込んでいても全く気付かない位には。
(急いであの枝を隠さないとっ!!)
破壊してしまえばよいのだが、それをすると宝珠の内に籠めた想いが辺り一帯にばらまかれることになる。
(ううっ、どうしてあんなの作ってしまったのよっ、私のばかっ!!)
今更後悔しても遅いのだが、そう思わずにはいられないミスティアだった。
だが、心の内に留めておくにはあまりにも辛かったのだ。
魔族に親がいるのはよほど力のある上級魔族だけであり、ミスティアのような下級魔族は瘴気の中から年月を経て自然に生まれるのが普通である。
ミスティアも気が付いたらここにいたのだ。
ミスティアのような下級魔族は大して珍しくもなく、他に能力の高い魔族がいたことから、まだ若いミスティアは戦力外として勇者との決戦には招集されなかった。
友人と呼べる者もなく、ましてや心情を吐露できる相手など居るはずもなく、勇者への想いだけが募っていく日々。
(内に籠めるからだめなのよ)
せめて人に擬態して告白でもしてさっさと振られてしまえば――。
そう決意し、村娘の扮装をして勇者の元へ向かったミスティアが見たのは。
『好きだ。結婚してくれ』
『……はい』
間が悪いとしかいいようがなかった。
いざミスティアが告白しようとしたその日に勇者が別の女性に求婚しているんど、一体何の冗談だろうか。
ミスティアは神を呪った。
あまりにも間が悪すぎる、と。
(有り得ないでしょうっ!! 何よこの展開はっ!? はあ? 勇者とは幼なじみでずっと想い合っていたですってっ!!)
流石にここで出て行く訳にも行かず、この時からミスティアの想いは宙に浮いたままだった。
はあ、とため息をついた先にあるのは棚に置かれた宝珠の付いた枝。
三又に分かれたそれは最早地肌の部分は見えず、光を反射してきらきらと輝く宝珠のみが目につく。
(さっさと隠さないと)
ミスティアがそれに手を伸ばした時だった。
「それが宝の枝ですね」
「――ッ!!」
宝の枝を手にしたミスティアが振り返るとそこには先ほど交戦した勇者の孫カイルがいた。
「勝手について来てすみませんでした。ですが、どうしてもそれがないとシャマル王子の命が――」
「――クェイクッ!!」
ミスティアの術が展開され、床が裂け、地面が揺れる。
「――フライ」
宙に浮いた者に地属性の術は効きにくい。
頭では理解できるが、咄嗟に判断して行動に移せる者は少ない。
「凄いですね。やはり女性といっても魔族」
「馬鹿にするなっ!!」
話など聞いてられない。
先ほどからかつての勇者を彷彿とさせる口調や仕草にミスティアの忍耐が切れかかっていた。
(姿形は違うはずなのにどうしてこんなに似ているのよっ!!)
内心の動揺を押し隠し、カイルを睨む。
「人に貸す義理はない」
この時点で棲家としていた一軒家は壊滅していた。
「派手にやりますね。そしてそこまで言うのは何故です。よりにもよって貴女が」
「――? どういう意味だ?」
ミスティアはこの勇者の孫とは面識がないはずだった。
「お前と会うのは初めてのはずだが?」
少し気になったので攻撃の手を休めて問うとカイルはとんでもないことを言い始めた。
「お爺様から話を聞いてましたから。この国境にはとてもかわいい魔族の少女がいる、と」
――まあ可愛いよりはとても綺麗な方だと思いますが。
「はあああああっ!?」
カイルの話によるとどうやらミスティアの小さな想いは勇者側にはバレバレだったらしい。
「元々ここは国境に近いですからね。それに幾ら遠目でも魔族は分かりますから」
ちなみにその辺りから女性の魔族は大人しやかだという認識が生まれたらしい。
(何でそんなことになってるのぉ~~っ!!)
ミスティアとしては泣きたい位だが、心情が吐露されていないだけまだマシかもしれない。
(このままこの枝を死守すればきっと何とかなるっ!!)
「シャマル王子の件もあるので、早急にその枝をお借りしたいのですが」
「断るっ!! ――アクアウェーブッ!!」
森の中に突如大きな波が出現した。
「――っ!!」
流石にそれは想定外だったらしい。
カイルが波に飲まれて流されて行く。
(いっそのことこのまま流されて国に帰って)
切に願うミスティアの耳に何かが風を切る音が聞こえてきた。
「――ウィンドエッジッ!!」
風の刃が大波を切り開き、人がひとり通れる位の道を作る。
(なん、)
呆気に取られたミスティアの視界に明るい色の髪をした人物が現れた。
「これで皆の病が治るんですっ!! 少しの間でいいから貸してくれませんかっ!?」
「断るっ!!」
お互いの譲れない戦いはまだ始まったばかりだった。
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