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第6話

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「あり難きお言葉」

 戸惑っている様子のオフィーリアの前に青年が来た。

「レッドバロン・シャガール辺境伯令息です。久しぶりですね」

「オフィーリア・マベウス公爵令嬢にございます。……左様にございますね」

 記憶が結びつかないのか、オフィーリアの口調は自然固いものになってしまう。 

「やはり覚えていらっしゃないんですね」

「そんなことは――」

 ない、と続けようとしたオフィーリアの言葉に被せるようにマベウス公爵が割って入る。

「覚えてなくて当然だ。会ったのは子供の頃の話だ」

「大体お前は俺の遊び相手として呼ばれたんじゃないのか」

 兄のハロルドの背に庇われた格好になったオフィーリアが狭くなった視界からシャガール辺境伯令息の方を見ると、彼は二人の反応をそれほど意に介していないように見えた。

「あの時貴方が俺の名を散々からかってくれたお陰で危うく人間不信に陥るところでしたよ」

「おや、シャガール辺境伯令息とあろうものがそれしきのことで根を上げるとは。国境の守り刀もそれほどではなかったということか」

「ですからそういうところです」

 シャガール辺境伯令息が丁寧に返しているが場の雰囲気が少しずつ殺伐としたものに変わって行く。

「二人共そこまでにしなさい。オフィーリアを怖がらせるな。陛下の御前でもある」

「「申し訳ありません」」

 その様子を見た国王が苦笑したようだった。

「儂はついでか」

「いえ、決してそのような」

「よい。してシャガール辺境伯令息」

「はっ」

「この道具についての説明はお主がしてくれる、ということでよいかな」

「ははっ」

 シャガール辺境伯令息が畏まったように返答をし、今更ながら立ち話も何だからと腰を下ろして本格的に話し合うことになった。

 持ち主のいなくなった執務室にはロメオの物と来客用の椅子が4脚あり、一番上等なその椅子には当然国王が座り、残りの4脚はマベウス公爵、兄ハロルド、オフィーリア、そしてシャガール辺境伯令息が落ち着くことになったがここでもひと悶着が起きた。

「おい、バロン。妹の隣は俺だからな」

「分かってますよ」

「ちなみにオフィーリアの前の席は私だ」

「……畏まりました」

 そのような訳で各人が席に落ち着くまでいろいろあったが何とか落ち着いたところでマベウス公爵が口を開いた。

「ではシャガール辺境伯令息。この道具に関する説明をお願いしようか」

 漸く謎が解けると思ったのも束の間、シャガール辺境伯令息は全く脈絡のないことを話し出した。

「はい。私がこの道具について知ったのはとある男爵令嬢に迫られたことがキッカケでした」



(……は?)



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