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第49話 呪術 (後)
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「まずはその首飾りを外して下さい」
相変わらず姫抱きのままの筆頭魔術師がローズに告げた。
最初の内は降ろすように言っていた筆頭魔術師だったが、何度言っても覆らなかったので半分目が死んでいるようになり、諦めたのかそのままローズに指示を出した。
「番――特に『運命の番』は相手の番の危機に一番能力が強くなる場合があります。……ですが手遅れの場合もあるので、絶対にアテにしないで下さい」
身に覚えがありすぎるのでこくり、と頷くと、
「まあ過剰共鳴もあるようですから恐らく出来ると思いますが――もし、失敗した場合は貴女の命も失われます。よろしいですか?」
「はい」
構わない、と思った。
ここでベリルが死んだら自分もその場で命を絶っても構わないと思っていた。
これが『運命の番』の影響かもしれなかったが、それでもローズは今ここでベリルを失いたくなかった。
(あの『記憶』の影響もあるのかもしれない。でも――)
彼を失いたくなかった。
平行世界の自分等の影響ではなく、自分自身で彼との絆を深めたいと思った。
これが独占欲というものなのだろうか。
「それでは過剰共鳴で陛下と共鳴したら、俺が見本の魔方陣を描くのでそれに倣って下さい」
「分かりました」
筆頭魔術師の策はこうだった。
呪術を過剰共鳴で仮に広げ、ローズが反転と解呪の魔術を発動させ、ベリルの分も含めて呪術を押し返す、というものだった。
理論的にも少々難があるが、もし上手く行けば『二人分』の呪術が発動者に返って行く。
もしかしたらその辺りも向こうは計算に入れているかもしれないが、倍の術が返れば相手もただでは済まないだろう。
「少し辛いと思いますが、行きますよ」
目の前に広げられて行く魔法陣はやはりというか、かなり緻密な構成だった。
しかもそれには奥行きまであった。
ローズは意識を集中させた。
過剰共鳴させている呪術が絡みつき、体力を奪って行こうとしているがそれに構わず同じ魔方陣を構築する。
(く、追い付かない)
ローズの焦りを感じたのか魔法陣の速度が緩やかになった。
「焦らなくていいです。ゆっくりでいいので付いて来て下さい」
筆頭魔術師の言葉に小さく頷き、魔方陣に集中する。
緻密なだけでは満足できないのか、もう一枚魔法陣が出現し、先にあった魔法陣に垂直に刺さった。
(え、)
「ガエシの法則です。それと風属性のフィールを使って」
上級魔法学の専門用語が来たが何とか理解できたローズが実践すると殆ど同じ構図の魔方陣が出現した。
「もう一枚行きます。今度はもっとゆっくりなので見ていて下さい」
今度は見たことのない楕円形の魔方陣が2枚現れ、ゆっくりと左右対称に斜めに最初にある魔法陣に突き刺さって行く。
(なに、これ)
「一度真円の魔方陣を出した方が早いですね。次に土属性の――」
筆頭魔術師の指示に従い完成した魔法陣はそれまで見たことのないものだった。
大小十三の魔方陣が複雑に絡み合ったそれはそれぞれ違う色に染まり、相反する属性が複雑に絡み合っているが、反発はしないように構築されていた。
(凄い……)
ローズも何とか同じ魔方陣を構築できたが、維持するのがやっとの状態だ。
「この術の発動者に確実に返るように方向付けします」
一瞬で筆頭魔術師が出した魔方陣が消失し、ローズの魔方陣に負荷が掛かる。
(くっ、)
「後少しです」
それでなくとも過剰共鳴によって呪術の影響を受けているのだ。
堪えているローズの脳裏にベリルの思いが響いた。
――無理をするな。
――ローズ、お前にばかり負担を掛けるつもりはない。
――ローズ。愛している。
ローズが集中を乱しそうになったのを認めて筆頭魔術師が声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「ええ」
言えない。どうして集中を乱しそうになったかなんて。
反射的に原因の方を見ると苦しそうだったが、その眼は微かに笑みを含んでいた。
(――もう!!)
するとベリルの笑みが更に深くなったような気がした。
(今は通じてるんだったーっ!!)
「大丈夫ですか? 行きますよ」
「はい」
何とか返答をして未だ姫抱きのままの筆頭魔術師に目をやる。
「それでは魔方陣をそのまま放出して下さい。方向は分かりますね?」
頷いてかなり大きくなった魔方陣を発動させると魔法陣から大小さまざまな光が放物線となって放出される。
その幾つもの光は同じ方向へと消えて行った。
相変わらず姫抱きのままの筆頭魔術師がローズに告げた。
最初の内は降ろすように言っていた筆頭魔術師だったが、何度言っても覆らなかったので半分目が死んでいるようになり、諦めたのかそのままローズに指示を出した。
「番――特に『運命の番』は相手の番の危機に一番能力が強くなる場合があります。……ですが手遅れの場合もあるので、絶対にアテにしないで下さい」
身に覚えがありすぎるのでこくり、と頷くと、
「まあ過剰共鳴もあるようですから恐らく出来ると思いますが――もし、失敗した場合は貴女の命も失われます。よろしいですか?」
「はい」
構わない、と思った。
ここでベリルが死んだら自分もその場で命を絶っても構わないと思っていた。
これが『運命の番』の影響かもしれなかったが、それでもローズは今ここでベリルを失いたくなかった。
(あの『記憶』の影響もあるのかもしれない。でも――)
彼を失いたくなかった。
平行世界の自分等の影響ではなく、自分自身で彼との絆を深めたいと思った。
これが独占欲というものなのだろうか。
「それでは過剰共鳴で陛下と共鳴したら、俺が見本の魔方陣を描くのでそれに倣って下さい」
「分かりました」
筆頭魔術師の策はこうだった。
呪術を過剰共鳴で仮に広げ、ローズが反転と解呪の魔術を発動させ、ベリルの分も含めて呪術を押し返す、というものだった。
理論的にも少々難があるが、もし上手く行けば『二人分』の呪術が発動者に返って行く。
もしかしたらその辺りも向こうは計算に入れているかもしれないが、倍の術が返れば相手もただでは済まないだろう。
「少し辛いと思いますが、行きますよ」
目の前に広げられて行く魔法陣はやはりというか、かなり緻密な構成だった。
しかもそれには奥行きまであった。
ローズは意識を集中させた。
過剰共鳴させている呪術が絡みつき、体力を奪って行こうとしているがそれに構わず同じ魔方陣を構築する。
(く、追い付かない)
ローズの焦りを感じたのか魔法陣の速度が緩やかになった。
「焦らなくていいです。ゆっくりでいいので付いて来て下さい」
筆頭魔術師の言葉に小さく頷き、魔方陣に集中する。
緻密なだけでは満足できないのか、もう一枚魔法陣が出現し、先にあった魔法陣に垂直に刺さった。
(え、)
「ガエシの法則です。それと風属性のフィールを使って」
上級魔法学の専門用語が来たが何とか理解できたローズが実践すると殆ど同じ構図の魔方陣が出現した。
「もう一枚行きます。今度はもっとゆっくりなので見ていて下さい」
今度は見たことのない楕円形の魔方陣が2枚現れ、ゆっくりと左右対称に斜めに最初にある魔法陣に突き刺さって行く。
(なに、これ)
「一度真円の魔方陣を出した方が早いですね。次に土属性の――」
筆頭魔術師の指示に従い完成した魔法陣はそれまで見たことのないものだった。
大小十三の魔方陣が複雑に絡み合ったそれはそれぞれ違う色に染まり、相反する属性が複雑に絡み合っているが、反発はしないように構築されていた。
(凄い……)
ローズも何とか同じ魔方陣を構築できたが、維持するのがやっとの状態だ。
「この術の発動者に確実に返るように方向付けします」
一瞬で筆頭魔術師が出した魔方陣が消失し、ローズの魔方陣に負荷が掛かる。
(くっ、)
「後少しです」
それでなくとも過剰共鳴によって呪術の影響を受けているのだ。
堪えているローズの脳裏にベリルの思いが響いた。
――無理をするな。
――ローズ、お前にばかり負担を掛けるつもりはない。
――ローズ。愛している。
ローズが集中を乱しそうになったのを認めて筆頭魔術師が声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「ええ」
言えない。どうして集中を乱しそうになったかなんて。
反射的に原因の方を見ると苦しそうだったが、その眼は微かに笑みを含んでいた。
(――もう!!)
するとベリルの笑みが更に深くなったような気がした。
(今は通じてるんだったーっ!!)
「大丈夫ですか? 行きますよ」
「はい」
何とか返答をして未だ姫抱きのままの筆頭魔術師に目をやる。
「それでは魔方陣をそのまま放出して下さい。方向は分かりますね?」
頷いてかなり大きくなった魔方陣を発動させると魔法陣から大小さまざまな光が放物線となって放出される。
その幾つもの光は同じ方向へと消えて行った。
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