上 下
15 / 50

第15話 ベリルside ⑦

しおりを挟む
 その後は散々だった。

 やはり為政者、そして貴族としての立場をよく分かっているのだろう。

 俺を気遣って出来る限り早く引継ぎを済ませると言われたが、そこまで物分かりがよくなくてもいいのでは、と思ってしまう。

 俺にとっては願ったりの展開なのだが、隣の視線が痛いんだが。

(俺は国王なんだが。そのジト目は止めて欲しい)

「こちらにございます」

 あの後、客室に案内されたが侍女の声音に冷たさが宿っているような感じがするのは気のせいではないだろう。

(この侍女は――)
 
 先ほど俺を不審者扱いしてくれたな。

 だが、ローズを見つめる視線には優しさが込められているように見えた。

(聞いて見るか)

 俺は下がろうとした侍女を引き留めた。

「聞きたいことがあるんだが」

「何でございましょう?」

「我が番はどうしてここの領主代行をしている?」

 しかも一人でだ。

 代行とはいえ、その手腕は他の上流貴族にも劣らないのではないか。

 まだ一部を見ただけだがそう思えた俺が疑問をぶつけるとその侍女は躊躇した後に、

「申し訳ございません。お嬢様――領主代行様の私事を勝手に話す権限は私にはございません」
 
 必要な際にはお呼びくださいませ、と告げ礼をすると侍女は下がって行った。

 一応リヨンは隣の客室をあてがわれているが、呼ぼうと思えばすぐに呼べる。

 しかし、俺はそうしなかった。

 考えることが多すぎたからだ。
 
(想定外のことがありすぎるな)

 番が俺を認識していないこともそうだが、それでも通常貴族の令嬢といったものは婚姻の申し込みには敏感に反応するはずだが。
 
 まるで関心がない――いや、忌避するような反応だった。

(以前何かあったのか?)

 そう言えば、と思い返していた時だった。

(――ッ!!)

 俺はそれに気づくと同時に窓へら飛び出していた。

(こっちかっ!!)

 もどかしさを感じながら俺は駆けた。

 ――番が哀しんでいる。

 番の危機を察知したとかいう話は眉唾物だと思っていたがどうやら本当らしい。

 俺はローズが居るだろう部屋へ向けて駆けようとした。

「そこまでです」

「……リヨン。何故お前が」

「あー、もうっ、そこで親の仇みたいに睨まないで下さいよっ!! 番様は恐らく動揺されていらっしゃるでしょうし、貴方のことを自分の番だと認識していらっしゃらないですよ。そんなところに踏み込んだらどうなると思います?」

 その先は言われなくても分かった。

「……今の俺ではダメか」

「お分かりになられたようで何よりです。ではお戻りを――ってどちらに行くんですっ!!」

「少し、顔を見るだけだ」

「顔を見るだけで終われるんですかっ!? というか、こちらの顔を見られないようにこっそり出来るんですかっ!?」

「……ああ」

「今の間は何ですかっ!? 戻りましょう。これ以上番様を刺激されてはいけないと思いますし」

 リヨンが更に声を潜めた。

「どうも何やら事情がありそうですね」

「お前もそう思うか?」

「勿論ですよ。あの侍女もそうですが、番様に付いて来たという護衛達も何か獣人に対して思うところがあるような態度なんですよね」

「……少し、調べてみるか」

「既に他の者にさせているので、陛下はお気遣いなくお願い致します」

「早いな」

「長年待った陛下の番様ですからね。――ってそちらは違いますよっ!!」

「調べ物はそっちでしてくれるんだろう? なら俺はちょっと番の様子を見に――」

「何言ってるんですかっ!」

 小刀ナイフが俺の頬を掠める。
 
 本気でないのは分かっているので避ける手間を掛けるまでもなかったが、リヨンは不満だったらしい。

「次は本気で行きますよ」

 正直そこまで邪魔される意味が分からず俺は首を傾げた。

 相手は人族だ。

 気配を殺して様子を見てくること位、俺にとっては何でもないことである。

「何故だ?」

「本気で聞いてるんですかっ!? ……今番様が動揺されているのは恐らく貴方が原因ですよ」

「――っ!!」

「領主代行としてきっと充実した日々を送っていらしたんでしょう。人族の、それも貴族のご令嬢が仕事に邁進されているというのも珍しいことですが、今日までは満足した日々だったと思いますよ」

 それは街の人々を見れば分かった。
 
 彼らの明るい雰囲気を見ればそこを治める者の器量が知れるというものだ。

 俺が悟ったのが分かったのだろう。

「ですから戻りましょう」

「分かった」

 だが、心は納得しても体の方はそうではなかったらしい。

「言う端から貴方って方はっ!!」

「おい、今のは危なかったぞ」

 小刀をすれすれのところで避けた俺に、

「自業自得です」

 その言葉と共に容赦ない小刀の投擲が降ってきた。

「大体貴方という方は――」

(不味いな。説教体系モードに入ってる)

 こうなると長いのだ。

 経験からそれが分かっているので俺はさっさと退散することにした。

「分かった。ではな」

「って、まだ話は終わってませんよっ!!」

 一度、番の本能に従いかけたせいか、リヨンの説教は長引いた。

「ですからそもそも王族と言うのはですね――」


(帰って寝ていいか)




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方にとって、私は2番目だった。ただ、それだけの話。

天災
恋愛
 ただ、それだけの話。

聖女にはなれませんよ? だってその女は性女ですから

真理亜
恋愛
聖女アリアは婚約者である第2王子のラルフから偽聖女と罵倒され、婚約破棄を宣告される。代わりに聖女見習いであるイザベラと婚約し、彼女を聖女にすると宣言するが、イザベラには秘密があった。それは...

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~

日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。 女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。 婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。 あらゆる不幸が彼女を襲う。 果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか? 選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

【完結】すべてを妹に奪われたら、第2皇子から手順を踏んで溺愛されてました。【番外編完結】

三矢さくら
恋愛
「侯爵家を継承できるという前提が変わった以上、結婚を考え直させてほしい」 マダレナは王立学院を無事に卒業したばかりの、カルドーゾ侯爵家長女。 幼馴染で伯爵家3男のジョアンを婿に迎える結婚式を、1か月後に控えて慌ただしい日々を送っていた。 そんなある日、凛々しい美人のマダレナとは真逆の、可愛らしい顔立ちが男性貴族から人気の妹パトリシアが、王国の第2王子リカルド殿下と結婚することが決まる。 しかも、リカルド殿下は兄王太子が国王に即位した後、名目ばかりの〈大公〉となるのではなく、カルドーゾ侯爵家の継承を望まれていた。 侯爵家の継承権を喪失したマダレナは、話しが違うとばかりに幼馴染のジョアンから婚約破棄を突きつけられる。 失意の日々をおくるマダレナであったが、王国の最高権力者とも言える王太后から呼び出される。 王国の宗主国である〈太陽帝国〉から輿入れした王太后は、孫である第2王子リカルドのワガママでマダレナの運命を変えてしまったことを詫びる。 そして、お詫びの印としてマダレナに爵位を贈りたいと申し出る。それも宗主国である帝国に由来する爵位で、王国の爵位より地位も待遇も上の扱いになる爵位だ。 急激な身分の変化に戸惑うマダレナであったが、その陰に王太后の又甥である帝国の第2皇子アルフォンソから注がれる、ふかい愛情があることに、やがて気が付いていき……。 *女性向けHOTランキング1位に掲載していただきました!(2024.7.14-17)たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございます! *完結しました! *番外編も完結しました!

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

処理中です...