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第11話 ベリルside ③

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「よくもまあ、こんなことができますね」

 パニッシュは縄でぐるぐる巻きにされた俺の姿を呆れたように見ながら言った。

 ちなみにパニッシュは豹の獣人で明るい茶色の髪に濃い青色の目をしていて、豹耳との均衡もいいのか、女性に人気らしい。

(そんなことより早く番に会いに行きたい)

 がむしゃらに出て行こうとしたがやはり無理だったか。

 次回はもっと見付からない道筋を、と考えていると、駆け付けて来たギルがパニッシュに、

「もう仕方ないから協力するけどね、すぐに出て行こうとしないで下さい。で、その懐にある髪飾り、出して貰えませんか?」

「……は?」

「うわっ、威圧は止めて下さいよっ!! 番の居場所を探る魔術を展開するので貸してほしいだけですっ!!」

 反射的に身を引くより早く伸びたパニッシュの手が髪飾りを手にしていた。

「これか」

「ありがとうございます。では」

 髪飾りを手にしたギルが魔方陣を展開する。

 魔法陣に手を翳しながら、ギルが呟いた。

「……国内ではないうようですね。反応が薄い。――少し範囲を広げてみましょうか」

 床に描かれた魔法陣が模様を変えた。

「マトアニア王国の方に反応がありますね。地図を貰えますか」

 ギルの台詞にすぐに地図が用意される。

 魔法陣の光り方を見ながら机上の地図を見るギルの口からやがてある街の名が挙がる。

「――オークフリート、そこが一番可能性が高いですね」

 すぐに勅書が書かれ、マトアニア王国とオークフリート領を治めるファラント公爵家へ勅使を出すことになった。

「いいですか? できる限り早く話を纏めてきますからそれまでは我慢して下さいねっ!!」

「勅使は誰にする?」

「その辺りはカラカム辺りに任せよう。恐らくフィルとリヨンになると思うが」

 パニッシュ達の話を聞き流している俺にギルが念押ししてきた。

「本当に勘弁して下さいね。番関連で獣人のタガが外れるのは承知してますが、貴方は国王なんですよ」

「……善処する」

「分かりました。その縄は番が判明するまで解かないでおきます」

「待て」

 俺の言葉も虚しく束縛はそのままに俺は実質番が見付かるまで軟禁されることになった。

(待てよ)

 今回は髪飾りという媒体があったからギルの魔術でどうにか位置が把握できたのだと思う。

 だが、そこから先は俺がいないと話にならないのではないか。

 そんな疑念を抱きながら顔を上げると、扉に手を掛けたギルが振り返った。

「マトアニア王国に話が通ったら貴方が行けるよう調整しますからそれまで大人しくしていて下さい」

(その残念なものを見るような眼は何だ)

 無言の俺に対しギルが小さくため息をついて出て行くと静寂が訪れた。

 その後パニッシュや侍従も打ち合わせのために出て行き、室内には俺一人になった。

 勿論このままここで大人しくしているつもりはない。

 切望していた番がやっと見付かったのだ。

(俺が行かなくてどうする) 

 幸いなことに縄には魔力は込められていなかったらしく、俺の腕力でも千切ることが出来た。

(意外だな)

 あのギルがそんな手抜かりをするとは。

 何か引っかかる。

 だが、俺の関心はすぐに最重要事項へと切り替わった。

(番を探すのが先だ)

 扉に手を掛けるがやはり鍵が掛かっていた。

 扉の向こうには同然見張りの気配がする。

(ふむ)

 俺は腹に手を当てて蹲った。

「――イテテテッ!! 腹がッ!!」

 間が良すぎたが流石に看過出来なかったのだろう。

「どうされましたかっ!?」

 すぐに扉が開き、見張りをしていた兵士が室内へ足を踏み入れる。

「腹が、痛い」

「分かりました。おい、サントワール先生をっ!!」

 人数が少し減ったのを確認して俺は反撃に出た。

「何を、がぁっ!!」

「しまったっ、すぐに――」

 兵士達の叫びを背に俺は走り出した。
 



 街でまだ開いている店を見付け、装備を整える。

(急がなければ)

 気が逸るが心の奥からは慎重にしろ、という忠告が聞こえてくる。

 これでも一応一国を預かる身。

(迂闊な行動は避けた方がいいな)

 かなり矛盾したことを考えながら町外れまで来た。

 この先は街の門があるが当然そこを通るつもりはなかった。

(この辺りでいいか)

 目星を付けた箇所の壁を一気によじ登り、反対側に飛び降りた。



 後は簡単だった。
 
 元々俺は冒険者としての経験も積んでいる。

 王族が冒険者というのは他の国では考えられないかもしれないが、ここでは弱い者に国を任せられるか、という考えが浸透している。

 人族に比べて体の成長が早い獣人族では、十二になると腕試しのようにギルドに所属し、冒険者になることが普通になっている。
 
 当然俺もその例に漏れずギルドに冒険者登録を済ませている。

 ちなみに現在のランクはSだ。
 
 王族だからって訳ではない。

 きちんと依頼をこなしているうちにこうなっていた。

(あの頃はまだ両親が揃っていたから多少の無理をしても通ったんだな)

 現在の状況を思い返すとため息が出そうになる。

 俺が慣れない執務をこなしているのも、全てあの――。

(考えるのはよそう。それよりも)

 早く番を見付けなければ。

 
 俺は途中で調達した馬の首をオークフリートへと向けた。
 



 
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