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第7話 決断
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基本的な領主の仕事の他にも孤児院の管理や、将来は女性が就ける仕事を増やそうとしていること。
また、それはまだ着手し始めたものもあれば、案のまま形になっていないものもあり、本当に始めたばかりのこと。
「ですので、私としてはすぐにここを離れたくはないのですが」
冷静に話しているように見せているが内心は冷や冷やしている。
相手は一国の王。
本当ならこんな我儘は許されるはずがない。
ローズとしてもそれは分かっていた。
だからせめて少しでも時間稼ぎをしてローズの指針を分かってくれる後継を見付けなければならないだろう。
(居るかしらね。そんな人材)
ローズが心の中でため息をついた時だ。
「それは素晴らしいな」
「――は?」
「我が番はそこまで民のことを考えているのか。これは我が国に来ても期待できそうだな」
感心したようにベリルが言うとリヨンも、
「領主代行とお聞きしていましたが、この発想はなかったですね」
否定どころか肯定まっしぐらの反応だった。
(いいのかしら?)
却ってこちらが不安になってしまう。
「それではどう致しましょうか。出来れば番様にはすぐでも我が国へおいでいただきたかったのですが、そのような事情がおありになるとは」
顎に手を当てて思案するようにリヨンが発言するとベリルがこちらを向いた。
(な、に?)
先ほどより幾分鋭くなった眼差しにローズが動揺しかけていると、
「何心配いらん。俺がここに残ればいいだけだ」
「「は?」」
思わぬ内容にリヨンとローズの声が重なる。
「このまま引っ張って行っても反感を買うだけのようだしな。そうなると俺がここに残るのが得策だろう」
「いやいやいや!! 待って下さい!! ご冗談ですよね!?」
「冗談に聞こえるか? 至極真っ当な意見だと思うが」
「わざとですよね!? 幾ら番様にご都合があるとはいえ、一国の王が国を長期間に渡って国を空けるだなんて何考えてるんですか!?」
「何って主に番のことだけだが」
「あーっ、そうでしたよ、こういう方でしたよ!! 公務のことより番様ですよね!! ある意味合ってるはいるんですが、貴方ご自分が王族の頂点の王様だってこと忘れてないでしょうね!!」
「一応覚えてはいるが、正直こうやって番を前にしていると他のことはどうでもいいな。お前にも分かるだろう」
「ええ、まあこれでも番持ちですからね。ですが」
とそこでベリルの方に向き直る。
「貴方様は国王陛下なんですから、少しはそれらしく判断していただきたいのですが」
「だからしているだろう」
「一体どこに単騎で他国を訪れて、番のために国を空ける王が――」
「居たな。そう言えば」
え、と思わず二人を見ると何やら頷きながらリヨンが慎重に口を開いた。
「確かにいらっしゃいましたし、その王は番の危機に反応して国境を越え、隣国の軍を追い返しましたがね。あの時は番様の危機的状況を本能的に察知したという事実と、国境沿いを視察に来ていて番様の近くに偶々いらした、ということで、こんな遠くにまで城を抜け出して来て番様を見付けるまではまだしも、番様の仕事のために長期間国を空けるということは全くの別問題ですから!!」
長い文章だったが言いたいことは大体分かった。
確かに番のためとはいえ、国王が国を空けるというのは良くない。
それに国同士の体裁を考えればごねていられる立場ではないのだ。
ローズは覚悟を決めた。
(ここで始めたことが実を結ぶまで見ていられないのは残念だけれど、こうなっては仕方がないわね)
「発言させて頂いてもよろしいでしょうか」
「ああ。構わん。だが、お前は俺の番なのだから何をしても大丈夫だ。他の奴に目を移す以外はな」
後半の言葉を口に出した際の迫力をローズは何とかやり過ごした。
「私自身はほとんどそういった感覚はありませんが、シュガルト国の国王陛下がそう仰るのでしたら私が番というのはほぼ間違いないと思います。貴方様と婚姻を結ぶのに異論はありませんが諸々の手続き等ありますので暫し猶予を頂きたいのですがよろしいでしょうか」
先ほどとは打って変わったローズの態度にベリルが眉を顰めた。
「いいのか? 折角いろいろと改革を進めていたのだろう?」
「ええ。ですが私は国王陛下の番ですから、一緒に行かなくてはならないと思います。それもできるだけ早い方がいいのでしょうけれど」
できるだけ早く支度を整えるので少し待って貰えないかとローズが告げると、二人は戸惑ったように見えた。
「いいのか? 俺としてはその方が助かるが無理やり連れて行く気はないんだが」
「今更その言葉に説得力はないと思いますが、番様のご英断には痛み入ります」
ローズは唇の端を上げて笑みを浮かべて見せた。
「一先ず国王陛下にはこちらの館に滞在して頂きたいと思いますが、何なりとお申し付けください。またこちらは田舎故もし何か不敵際があった際にはどうかご寛恕のほど、何卒よしなにお願い申し上げます」
何とか領主代行としての体裁を整えたローズは部屋の采配をアンヌに言いつけた。
その様子をベリルがやや不満げに見ていたがローズは気付かないようだった。
また、それはまだ着手し始めたものもあれば、案のまま形になっていないものもあり、本当に始めたばかりのこと。
「ですので、私としてはすぐにここを離れたくはないのですが」
冷静に話しているように見せているが内心は冷や冷やしている。
相手は一国の王。
本当ならこんな我儘は許されるはずがない。
ローズとしてもそれは分かっていた。
だからせめて少しでも時間稼ぎをしてローズの指針を分かってくれる後継を見付けなければならないだろう。
(居るかしらね。そんな人材)
ローズが心の中でため息をついた時だ。
「それは素晴らしいな」
「――は?」
「我が番はそこまで民のことを考えているのか。これは我が国に来ても期待できそうだな」
感心したようにベリルが言うとリヨンも、
「領主代行とお聞きしていましたが、この発想はなかったですね」
否定どころか肯定まっしぐらの反応だった。
(いいのかしら?)
却ってこちらが不安になってしまう。
「それではどう致しましょうか。出来れば番様にはすぐでも我が国へおいでいただきたかったのですが、そのような事情がおありになるとは」
顎に手を当てて思案するようにリヨンが発言するとベリルがこちらを向いた。
(な、に?)
先ほどより幾分鋭くなった眼差しにローズが動揺しかけていると、
「何心配いらん。俺がここに残ればいいだけだ」
「「は?」」
思わぬ内容にリヨンとローズの声が重なる。
「このまま引っ張って行っても反感を買うだけのようだしな。そうなると俺がここに残るのが得策だろう」
「いやいやいや!! 待って下さい!! ご冗談ですよね!?」
「冗談に聞こえるか? 至極真っ当な意見だと思うが」
「わざとですよね!? 幾ら番様にご都合があるとはいえ、一国の王が国を長期間に渡って国を空けるだなんて何考えてるんですか!?」
「何って主に番のことだけだが」
「あーっ、そうでしたよ、こういう方でしたよ!! 公務のことより番様ですよね!! ある意味合ってるはいるんですが、貴方ご自分が王族の頂点の王様だってこと忘れてないでしょうね!!」
「一応覚えてはいるが、正直こうやって番を前にしていると他のことはどうでもいいな。お前にも分かるだろう」
「ええ、まあこれでも番持ちですからね。ですが」
とそこでベリルの方に向き直る。
「貴方様は国王陛下なんですから、少しはそれらしく判断していただきたいのですが」
「だからしているだろう」
「一体どこに単騎で他国を訪れて、番のために国を空ける王が――」
「居たな。そう言えば」
え、と思わず二人を見ると何やら頷きながらリヨンが慎重に口を開いた。
「確かにいらっしゃいましたし、その王は番の危機に反応して国境を越え、隣国の軍を追い返しましたがね。あの時は番様の危機的状況を本能的に察知したという事実と、国境沿いを視察に来ていて番様の近くに偶々いらした、ということで、こんな遠くにまで城を抜け出して来て番様を見付けるまではまだしも、番様の仕事のために長期間国を空けるということは全くの別問題ですから!!」
長い文章だったが言いたいことは大体分かった。
確かに番のためとはいえ、国王が国を空けるというのは良くない。
それに国同士の体裁を考えればごねていられる立場ではないのだ。
ローズは覚悟を決めた。
(ここで始めたことが実を結ぶまで見ていられないのは残念だけれど、こうなっては仕方がないわね)
「発言させて頂いてもよろしいでしょうか」
「ああ。構わん。だが、お前は俺の番なのだから何をしても大丈夫だ。他の奴に目を移す以外はな」
後半の言葉を口に出した際の迫力をローズは何とかやり過ごした。
「私自身はほとんどそういった感覚はありませんが、シュガルト国の国王陛下がそう仰るのでしたら私が番というのはほぼ間違いないと思います。貴方様と婚姻を結ぶのに異論はありませんが諸々の手続き等ありますので暫し猶予を頂きたいのですがよろしいでしょうか」
先ほどとは打って変わったローズの態度にベリルが眉を顰めた。
「いいのか? 折角いろいろと改革を進めていたのだろう?」
「ええ。ですが私は国王陛下の番ですから、一緒に行かなくてはならないと思います。それもできるだけ早い方がいいのでしょうけれど」
できるだけ早く支度を整えるので少し待って貰えないかとローズが告げると、二人は戸惑ったように見えた。
「いいのか? 俺としてはその方が助かるが無理やり連れて行く気はないんだが」
「今更その言葉に説得力はないと思いますが、番様のご英断には痛み入ります」
ローズは唇の端を上げて笑みを浮かべて見せた。
「一先ず国王陛下にはこちらの館に滞在して頂きたいと思いますが、何なりとお申し付けください。またこちらは田舎故もし何か不敵際があった際にはどうかご寛恕のほど、何卒よしなにお願い申し上げます」
何とか領主代行としての体裁を整えたローズは部屋の采配をアンヌに言いつけた。
その様子をベリルがやや不満げに見ていたがローズは気付かないようだった。
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