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58.義はどちらに
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「いい加減、そこを通しなさいっ!!」
レイピアを構えたカサンドラ嬢の怒鳴り声が響き渡る。
答えは嘲笑だった。
「……フローズン公爵殿はずいぶんと貴女を甘やかしたと見えますね」
シオンさんは片手で剣を構えると、左手を後ろへ下げた。
(……?)
「はあああっ!!」
恐らくそれが全力なのだろう、上段から突きを狙ってくるレイピアをシオンさんは少し肩を動かしただけで避け、剣の柄をカサンドラ嬢の喉へ当てた。
ちなみにその空いていただけ、と思われた左手はレイピアの細い刃を完全に捕らえていた。
(えっ!? 何、今のっ!?)
「もういいでしょう。そろそろ宿へ戻られては? ……待ち人も来たようですし」
「まだまだですわっ!! ……待ち人?」
と、そこでラインが詰め所の陰から出てカサンドラ嬢達の視界へ入った。
「やれやれ。お見通しですか。流石『黒鷺』ですね」
「賢者様っ!!置いて行くなんて――あっ!! やっぱり貴女もいたんですのねっ!!」
(面倒なのに見付かった)
あたしがどう逃れようか思案していると、シオンさんが、
「賢者殿、その女性は?」
とラインが横抱きにしていた女性を目で追った。
「ああ。彼女は……ダンジョン内で遭難していたようです。そこの君、至急ギルドに連絡を取って貰えないかな」
そこで様子を見ていた門番にラインが頼んだ。
「畏まりました」
「医務室を開けておくように、とも」
「はっ!」
慌てたように門番さんが駆けて行くのを確認してからラインはシオンさんに向き直った。
「シオン、彼らは?」
「賢者殿、カイン様はあの弓の使い手と宿でお待ちです」
(あれ、追ってこなかったんだ)
意外、と思っていると、
「ああ。まだ薬が効いている時間だからね」
ちら、とこちらを見られて、
(あれはカイン様の自業自得じゃないっ!!)
目線で抗議をすると、やりゃれとでも言いたげな表情が返ってきた。
(まったく、もう)
あたしが密かにむくれているとカサンドラ嬢が、
「見せつけるのはその位になさって」
(いや、違うし)
あたしが反駁しようとした時、ラインが厳しい声を出した。
「フローズン公爵令嬢。ダンジョン内の捜索も完了しました。貴女には速やかに領地へ戻っていただきます」
「ですが賢者様――」
「反論は許しません。ここにカイン様の護衛であるはずのシオンがいるというのが何よりの証拠ですよ。……セクトルを振り切って来ましたね」
何だかんだいって、セクトルさんはフローズン公爵家の従僕。
(って、セクトルさん甘すぎ……やっぱりこちらの世界じゃ仕方ないのかな)
今回はシオンさんが足止め(じゃなかったらもっと早く勝負はついていたよね)してくれたからよかったものの。
(……あれ? カサンドラ嬢ってあのレキシコン王の婚約者なんだよね?)
風来坊の王と、ある意味猪突猛進な王妃様。
(大丈夫かな、この国)
思わず遠い目になっていると、
「何だか不穏な視線を感じますわ」
「キノセイデスヨー」
「こいつは面倒なことになったな」
オリジンさんの呟きが執務室内に思ったよりも大きく響いた。
件のの女性は医務室でラインが治癒魔法を掛け、それにジェシカさんが付き添っている形になっていた。
そしてあたしは一度、詳しい話を聞きたいということでこの執務室に招かれ、話をしていたのだけど。
ダンジョン最下層で囚われていた女性の話になった際、オリジンさんが難しい表情になって述べたのが前述の台詞だった。
「サウス帝国のストロベキア公爵家といやあ、あそこの二大勢力のひとつだぜ? そこのご令嬢らしき女性がウチのダンジョン内で倒れてました、なんざ正直に告げた日にゃ――」
その後はあたしでも想像がついた。
恐らく帝国は、トレニア国へ宣戦布告するだろう。
戦力の差は歴然。
(確か、サウス帝国ってこの辺りの国の中じゃ、人口も領地も一番で、戦車(人力の、ね)や投石器の数もずば抜けてる、ってラインが言ってたような)
あたしがそう言うと、
「そうだな。だがそれだけじゃないだろ」
「え?」
オリジンさんは考え込むように腕を組むと、
「何ていってもこの状況じゃあ、ウチが不利だ。どう見てもトレニア国の奴がストロベキア公爵家のご令嬢――だと仮定してな――を拉致して、あそこに閉じ込めたようにしか見えねえ。……つまり、向こうに『義』が立っちまうんだ」
レイピアを構えたカサンドラ嬢の怒鳴り声が響き渡る。
答えは嘲笑だった。
「……フローズン公爵殿はずいぶんと貴女を甘やかしたと見えますね」
シオンさんは片手で剣を構えると、左手を後ろへ下げた。
(……?)
「はあああっ!!」
恐らくそれが全力なのだろう、上段から突きを狙ってくるレイピアをシオンさんは少し肩を動かしただけで避け、剣の柄をカサンドラ嬢の喉へ当てた。
ちなみにその空いていただけ、と思われた左手はレイピアの細い刃を完全に捕らえていた。
(えっ!? 何、今のっ!?)
「もういいでしょう。そろそろ宿へ戻られては? ……待ち人も来たようですし」
「まだまだですわっ!! ……待ち人?」
と、そこでラインが詰め所の陰から出てカサンドラ嬢達の視界へ入った。
「やれやれ。お見通しですか。流石『黒鷺』ですね」
「賢者様っ!!置いて行くなんて――あっ!! やっぱり貴女もいたんですのねっ!!」
(面倒なのに見付かった)
あたしがどう逃れようか思案していると、シオンさんが、
「賢者殿、その女性は?」
とラインが横抱きにしていた女性を目で追った。
「ああ。彼女は……ダンジョン内で遭難していたようです。そこの君、至急ギルドに連絡を取って貰えないかな」
そこで様子を見ていた門番にラインが頼んだ。
「畏まりました」
「医務室を開けておくように、とも」
「はっ!」
慌てたように門番さんが駆けて行くのを確認してからラインはシオンさんに向き直った。
「シオン、彼らは?」
「賢者殿、カイン様はあの弓の使い手と宿でお待ちです」
(あれ、追ってこなかったんだ)
意外、と思っていると、
「ああ。まだ薬が効いている時間だからね」
ちら、とこちらを見られて、
(あれはカイン様の自業自得じゃないっ!!)
目線で抗議をすると、やりゃれとでも言いたげな表情が返ってきた。
(まったく、もう)
あたしが密かにむくれているとカサンドラ嬢が、
「見せつけるのはその位になさって」
(いや、違うし)
あたしが反駁しようとした時、ラインが厳しい声を出した。
「フローズン公爵令嬢。ダンジョン内の捜索も完了しました。貴女には速やかに領地へ戻っていただきます」
「ですが賢者様――」
「反論は許しません。ここにカイン様の護衛であるはずのシオンがいるというのが何よりの証拠ですよ。……セクトルを振り切って来ましたね」
何だかんだいって、セクトルさんはフローズン公爵家の従僕。
(って、セクトルさん甘すぎ……やっぱりこちらの世界じゃ仕方ないのかな)
今回はシオンさんが足止め(じゃなかったらもっと早く勝負はついていたよね)してくれたからよかったものの。
(……あれ? カサンドラ嬢ってあのレキシコン王の婚約者なんだよね?)
風来坊の王と、ある意味猪突猛進な王妃様。
(大丈夫かな、この国)
思わず遠い目になっていると、
「何だか不穏な視線を感じますわ」
「キノセイデスヨー」
「こいつは面倒なことになったな」
オリジンさんの呟きが執務室内に思ったよりも大きく響いた。
件のの女性は医務室でラインが治癒魔法を掛け、それにジェシカさんが付き添っている形になっていた。
そしてあたしは一度、詳しい話を聞きたいということでこの執務室に招かれ、話をしていたのだけど。
ダンジョン最下層で囚われていた女性の話になった際、オリジンさんが難しい表情になって述べたのが前述の台詞だった。
「サウス帝国のストロベキア公爵家といやあ、あそこの二大勢力のひとつだぜ? そこのご令嬢らしき女性がウチのダンジョン内で倒れてました、なんざ正直に告げた日にゃ――」
その後はあたしでも想像がついた。
恐らく帝国は、トレニア国へ宣戦布告するだろう。
戦力の差は歴然。
(確か、サウス帝国ってこの辺りの国の中じゃ、人口も領地も一番で、戦車(人力の、ね)や投石器の数もずば抜けてる、ってラインが言ってたような)
あたしがそう言うと、
「そうだな。だがそれだけじゃないだろ」
「え?」
オリジンさんは考え込むように腕を組むと、
「何ていってもこの状況じゃあ、ウチが不利だ。どう見てもトレニア国の奴がストロベキア公爵家のご令嬢――だと仮定してな――を拉致して、あそこに閉じ込めたようにしか見えねえ。……つまり、向こうに『義』が立っちまうんだ」
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