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53.幕間――サウス帝国第二皇子 ④
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「ユーリ、悪役令嬢とは何だ?」
「ヒロインの敵役ですね。大概は上位貴族――公爵令嬢が多いですね。礼儀作法はもちろん、国の歴史、政務の執り方まで学ばれた才媛、といったところですね」
「それのどこが悪役令嬢なんだ?」
「主人公が他のイケメン……人物に近付くのを毎回邪魔するから、ですかね?」
まあ、皆、婚約者とかいるから仕方ないんですが。
「仕方がない、というかそれは従僕の役目ではないのか?」
「あ、それは私も思いました。でも何故か遊戯では大体、悪役令嬢がやってますね」
何というか、穴だらけの遊戯だな。
(……悪役令嬢か)
ユーリの言ったとおりの人物なら、それは貴族の妻としては最適なのではないか?
現在、第二皇子である俺の婚約者の席は空いている。
いるにはいるのだが、病弱とかでここ数年、社交界はおろか、身内の者にすら顔を見せないらしい。
(そろそろ婚約解消を、と考えていたが)
なまじ、親が有力貴族のため、迂闊に話を持ちかけて機嫌を損ねられては困る。
そんなこともあり、なかなか話は進まなかった。
(頃合いか)
唇の端を上げた俺をユーリが不思議そうに見た。
「リンツ様?」
「いや、なかなか面白い話だったよ」
この後、第二皇子とストロベキア公爵令嬢の婚約が解消に向けて動き出すことになる。
そして、次こそは、と意気込む貴族達の思惑をよそに、第二皇子の留学が告げられるのだった。
「リンツッ!! 一緒にお昼食べましょうっ!!」
学園内の廊下に能天気な声が響き渡った。
「リンツ様には先約がございますので。それと御身分上、あなた様はリンツ様を呼び捨てになど、できませんよ」
バルが忠告するが、
「ええー、昨日も一昨日もそうじゃないですかぁ? それならいつならOKなんですかぁ?」
「……その『オーケー』とやらは?」
「あ、ええっと、大丈夫、ってことですっ!!」
(聞きしに勝る、だな)
この学園では元々の身分は関係なく過ごせるよう、便宜が図られているが、あくまで建前で、それほどに身分というのは重いのだ。
「リンツ様はご多忙だ。お前のような者と関わっている暇などない」
「えー」
「さ、リンツ様」
「あー。ずるいっ!! 何であんただけいつもそうなのよっ!! あたしだって――」
以前にもこのようなことがあり、その時はバルがみっちり身分制度について説明していたはずだが。
俺の前へ回り込んでこようとするのを、バルが押さえた。
「このサウス帝国の皇族と話せるほど、お前はこの国に貢献しているのか?」
するとこの脳内お花畑と思われる女は、
「えーと、アルと仲がいいですよ。ってか、アルも王子様なのに、何でリンツは「リンツ皇子様だ」いいじゃない。もう。何で同じ王子様なのに、こんなに違うのかなあ」
最後は独り言のようにぶつぶつ言いながら廊下の向こうへ去って行ったが。
「ご苦労、バル」
「とんでもございません。不肖、このバル、リンツ様の御ためなら――」
「遅れますよ、リンツ様」
いつものバルの口上を切り上げさせたのは。従僕のお仕着せを着たユーリだった。
あの後、帝国内に置いて行くのは不安要素が多かったため、こうして連れて来たのだが、
「ユーリ、どこへ隠れていた?」
バルの暗に『これはお前の仕事だろう』という視線を浴び、
「申し訳ありません。バルさん。ですが私の姿をあの女に見られるのはマズいかと」
「どういうことだ?」
ユーリは辺りを窺った後、俺達を人気のない中庭へ誘導した。
「多分ですがあの女、『テンセイシャ』だと思われます」
「「は?」」
(何だかまた新しい言葉が出て来たな)
ユーリによると、この世界に身体ごと何らかの要因で飛ばされてくる者を『テンイシャ』、魂だけくる者を『テンセイシャ』と呼ぶらしい。
「……ということは」
「恐らく私と同じような知識を持っていると思われます」
とたんに脳裏に向こうの世界にあるという『クルマ』や『ヒコウキ』などが浮かぶ。
「こう言っては何ですが、あの様子だと自分より役立つ知識を持っているとは思えませんが」
気付かれると厄介なので会わないようにしたい。
そう言われ、俺はユーリの顔立ちを改めて吟味する。
確かにユーリは黒髪だが、その顔立ちや体つきから、異国の者と分かる可能性が高い。
「分かった。業務の分担はバルの指示に従え。ユーリ、お前はもう下がれ」
「かしこまりました」
「はっ!!」
寮の方へ戻って行くユーリを眺めながら、
「厄介なことになったな」
「さようですね」
「ヒロインの敵役ですね。大概は上位貴族――公爵令嬢が多いですね。礼儀作法はもちろん、国の歴史、政務の執り方まで学ばれた才媛、といったところですね」
「それのどこが悪役令嬢なんだ?」
「主人公が他のイケメン……人物に近付くのを毎回邪魔するから、ですかね?」
まあ、皆、婚約者とかいるから仕方ないんですが。
「仕方がない、というかそれは従僕の役目ではないのか?」
「あ、それは私も思いました。でも何故か遊戯では大体、悪役令嬢がやってますね」
何というか、穴だらけの遊戯だな。
(……悪役令嬢か)
ユーリの言ったとおりの人物なら、それは貴族の妻としては最適なのではないか?
現在、第二皇子である俺の婚約者の席は空いている。
いるにはいるのだが、病弱とかでここ数年、社交界はおろか、身内の者にすら顔を見せないらしい。
(そろそろ婚約解消を、と考えていたが)
なまじ、親が有力貴族のため、迂闊に話を持ちかけて機嫌を損ねられては困る。
そんなこともあり、なかなか話は進まなかった。
(頃合いか)
唇の端を上げた俺をユーリが不思議そうに見た。
「リンツ様?」
「いや、なかなか面白い話だったよ」
この後、第二皇子とストロベキア公爵令嬢の婚約が解消に向けて動き出すことになる。
そして、次こそは、と意気込む貴族達の思惑をよそに、第二皇子の留学が告げられるのだった。
「リンツッ!! 一緒にお昼食べましょうっ!!」
学園内の廊下に能天気な声が響き渡った。
「リンツ様には先約がございますので。それと御身分上、あなた様はリンツ様を呼び捨てになど、できませんよ」
バルが忠告するが、
「ええー、昨日も一昨日もそうじゃないですかぁ? それならいつならOKなんですかぁ?」
「……その『オーケー』とやらは?」
「あ、ええっと、大丈夫、ってことですっ!!」
(聞きしに勝る、だな)
この学園では元々の身分は関係なく過ごせるよう、便宜が図られているが、あくまで建前で、それほどに身分というのは重いのだ。
「リンツ様はご多忙だ。お前のような者と関わっている暇などない」
「えー」
「さ、リンツ様」
「あー。ずるいっ!! 何であんただけいつもそうなのよっ!! あたしだって――」
以前にもこのようなことがあり、その時はバルがみっちり身分制度について説明していたはずだが。
俺の前へ回り込んでこようとするのを、バルが押さえた。
「このサウス帝国の皇族と話せるほど、お前はこの国に貢献しているのか?」
するとこの脳内お花畑と思われる女は、
「えーと、アルと仲がいいですよ。ってか、アルも王子様なのに、何でリンツは「リンツ皇子様だ」いいじゃない。もう。何で同じ王子様なのに、こんなに違うのかなあ」
最後は独り言のようにぶつぶつ言いながら廊下の向こうへ去って行ったが。
「ご苦労、バル」
「とんでもございません。不肖、このバル、リンツ様の御ためなら――」
「遅れますよ、リンツ様」
いつものバルの口上を切り上げさせたのは。従僕のお仕着せを着たユーリだった。
あの後、帝国内に置いて行くのは不安要素が多かったため、こうして連れて来たのだが、
「ユーリ、どこへ隠れていた?」
バルの暗に『これはお前の仕事だろう』という視線を浴び、
「申し訳ありません。バルさん。ですが私の姿をあの女に見られるのはマズいかと」
「どういうことだ?」
ユーリは辺りを窺った後、俺達を人気のない中庭へ誘導した。
「多分ですがあの女、『テンセイシャ』だと思われます」
「「は?」」
(何だかまた新しい言葉が出て来たな)
ユーリによると、この世界に身体ごと何らかの要因で飛ばされてくる者を『テンイシャ』、魂だけくる者を『テンセイシャ』と呼ぶらしい。
「……ということは」
「恐らく私と同じような知識を持っていると思われます」
とたんに脳裏に向こうの世界にあるという『クルマ』や『ヒコウキ』などが浮かぶ。
「こう言っては何ですが、あの様子だと自分より役立つ知識を持っているとは思えませんが」
気付かれると厄介なので会わないようにしたい。
そう言われ、俺はユーリの顔立ちを改めて吟味する。
確かにユーリは黒髪だが、その顔立ちや体つきから、異国の者と分かる可能性が高い。
「分かった。業務の分担はバルの指示に従え。ユーリ、お前はもう下がれ」
「かしこまりました」
「はっ!!」
寮の方へ戻って行くユーリを眺めながら、
「厄介なことになったな」
「さようですね」
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