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22.魔の森①

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翌朝、台所に顔を出すと、


「おはよう。ああ、やっぱりひどい顔だね。魔法の実践は控えてもらおうか」


「大丈夫ですっ!! できます!!」


「こういったものは万全の体調でやらないと意味ないよ。はい」


固く絞った布巾にラインが『ウォーム』と唱えると、温かいおしぼりが完成。


「ありがとうございます」

有り難く受け取って閉じたまぶたにそっと乗せる。


「そのままでいいから聞いていてね。この間も言ったけれど、あれはかなり効率の悪い方法だからね」

そうなのだ。

オークとの闘いであたしが取ったのは、風魔法で火を熾すこと。

(山火事の原因の一つに、擦れた落ち葉が原因、ってあったからやってみたんだけど)


結果は惨敗。

МPが減るだけでした。


その後、火打ち石を上空から落とすという荒業でことなきを得たのだけども、その火打ち石は砕けて使い物にならなくなってしまった。

「オークは幻覚を使う。だから対峙する際は自分がどこにいるのか、得物は、荷物はどうしているのか、きちんと把握しておくこと」


「はい、先生」

「君は俺の生徒じゃないだろう」

「こんな大ざっぱな弟子は嫌だなあ」


「ひどい」

そっとおしぼりを外してラインを見る。

「だからっ、目を潤ませるなって!! こっちが悪いみたいじゃないかっ!!」


いつも通りの()やり取りを終えて、

「ひとまず、火魔法が使えないなら早めに魔物避けの札を出しておいた方がよかったね」

「早めに、ってどのくらいですか?」

「フリント王国の国境を越えたらすぐ、くらいかな」

「え、」


オレンジがかった陽の瞳が真面目な色を帯びてあたしを見た。

「街道の魔物避けが途切れた、って言ってたよね? あれは周辺の国が善意で施しているものだから、あまりアテにできないんだよ」

街道の管理は主にそこの領主がおこなうが、主要な街道の管理は国が呪術師を派遣して、魔物避けの呪いを施すらしい。


(その辺、魔法使いとは一線を画してるみたいだけど、内実はあんまり変わらないんだよねぇ)


見た目派手な魔法を使うのが魔法使いで、結界術を主に扱うのが呪術師?


そうラインに聞くと、

「ああ、フリント王国ではそういうふうにされてるんだね。トレニア国ではどちらも魔法使いとされているよ。どちらも元は同じものだし」

(あれ、そうなんだ)


「話を戻すけれど、サウス帝国との街道だったら定期的に兵士も巡回しているし、それほど脅威はないんだけどね。トレニア国へ向かうならサウス帝国から向かうのが普通だよね」

(う、だってサウス帝国行きたくなかったんだもの)


おしぼりを返しながら思わずじと目になっていると、

「まあ今回はそれが吉と出たね」

「どうしてですか?」

「このまま何も知らずにサウス帝国へ行っていたら、どうなっていたかな?」


(向こうへ着いたら冒険者ギルドへ行ってとか考えていたけど)

ギルドで作成されるギルドカードに偽名は通じない。


(どうしよう)

「考えてなかったみたいだね。ギルドで働いている知り合いがいるから、口利きくらいしてあげるけど」


「ありがとうございますっ!! 師匠っ!!」


「こんながさつで大食らいな弟子なんて本当は嫌なんだけどね」


(ゴメンナサイ。シチューをお代わりして鍋を空っぽにしたのも、パンに焼いたお肉を挟んだバーガーもどきを三回お代わりしたのもあたしです)


「……美味しいご飯が悪い」

「何か言ったかな? 今日からご飯は全部、君が作る?」

「ゴメンナサイッ!! 何でもしますからっ!! 夜伽以外はっ!!」


「――言い方」




(残念な子を見るような眼で見られたんだけど、何で?)



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