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「くそっ、抜けられたっ!!」
「まだだっ!!」
「第二防衛線まで下がれっ!!」
「援護はまだ来ねぇのかよっ!!」
「ああ? 騎士団の連中なんか、アテにしてんじゃねえよっ!!」
大きな破壊音にそれらの叫びが打ち消される。
「そっち言ったぞっ!!」
「ちっ、ちょこまかと!!」
現場は混沌としていた。
一応、防衛線として土嚢を積んでみたりしているものの、質より量で来られては敵わない。
「取り敢えず行きます。――ウィンド」
とたんに暴風が吹き抜け、ゴブリンの群れを吹き飛ばした。
「――サンダーボルトッ!!」
(何かどっかで聞いたような技名だなあ)
と俺が思う間にもコボルトの群れが消し炭と化した。
「凄いな」
「でしょう」
ふふん、と胸を張る様には先ほどまでの剣呑とした雰囲気は微塵もなく。
(落差が激しすぎる)
「何ですか?」
「いや、何でも。と、それより残りもこの調子なら楽勝だな」
俺としては身バレしたくないので、そう言ったのだが。
「まあそう上手く行けばいいんですけど」
そんなことを言いながらシュウが、拳大の氷を幾つもオークの群れ目掛けて放った。
(チートやん)
半ば引きながら静観していると、
「シキさんは参戦されないんですか?」
セイが非常に無邪気な瞳で聞いてきた。
「いえ、私は」
「叔父さんは目立つのは嫌いですから」
(そのフォロー要らんやつ)
「あんたら、何だか知らんが、目立つ目立たないとか言ってる場合じゃないだろう。何かあるなら、やってくれ」
近くにいた冒険者らしい男が近寄って来た。
(あ、腕が)
「ちょっ、ザックさんっ!! その腕っ!! 今救護班を呼びますねっ!!」
隻腕となった男を見て慌てたようにセイが街の方へ駆け出した。
(あれは利き腕か)
ざっと見た印象は、この稼業を何十年とやってきた中堅どころといったところか。
上着を裂いて止血に使っているようだが。あまり役に立ったとは言い辛い。
(目立ちたくないんだけどなあ)
サイクロプスを始末した熱線がやりすぎたのは分かったが、その後シュウしかいないのをいいことに手加減なしでやってしまったので、加減の具合が分からないのだ。
それまで魔物達に攻撃魔法を放っていたシュウがとことこと駆け寄って来た。
「結界、できますよね?」
こそっと、小声で聞かれ、
「街全体を覆うのか?」
「違いますよっ!! 誰がそんな大賢者クラスの技術を要求するんです!? もしそんなことをしたら貴方、大賢者候補として王都まで一直線ですよっ!!」
(それは嫌だ)
代々の魔法の記憶を紐解いてみたが、この国の王族に対してあまりいい感情は持てなかった。
(利権争いは仕方がないにしても、何でもかんでもこっちを悪役にしたいみたいだしな)
腹の一物をぐっ、と飲み込んで、
「じゃあ、どの位だ?」
「この防衛線を魔物が越えないような防壁、作れますか?」
「出来ないことはないが」
「お願いしますね」
「あ、おい」
(何かそれも凄く見えそうなんだが)
やりたくはなかったが、冒険者達の疲労と怪我が酷く見えたので、俺は出来るだけ端の方へ移動して、呪文を唱えるフリをした。
「大地の女神よ。障壁を。人の子以外は通すな」
(うわ、テキトーすぎだろ)
俺が唱え終わるのと同時に地面が盛り上がり、防壁に沿うように高さと厚みを増して行く。
高さは腰の辺りまでしかないが。こっそり俺の魔力も足してあるので、ゴブリン程度なら寄ってこないだろう。
「うおっ、何だこりゃっ!?」
「ゴブリンが散り散りになって逃げて行くぞっ!!」
先ほどまで苦戦していた冒険者達の間から戸惑いの声が上がる。
(成功かな)
コボルトもゴブリンも戻って行く。
一息ついている冒険者達の間から金髪の子供が掛けてくる。
「叔父さん?」
その子供とは思えない迫力に、
「はいっ」
気を付け、の姿勢で応じてしまった情けない大人は俺です。
「全く信じられませんよ」
携帯食を頬張りながらの台詞に、
「すみませんでした」
土下座する勢いで(いや、こっちに土下座の観衆はないいだが)俺は謝った。
あの後、王都の賢者でも応援に駆けつけてくれたのか、と興奮する冒険者達にとりなしてくれたのはシュウだった。
『叔父が本当にすみません。あの、叔父の出自は特殊でして。本来ならAランクどころかSランクの実力があるんですけど、この国ではできないんです。すみませんが叔父のことはただの吟遊詩人ということにしておいてくれませんか』
その上目遣いをしながらの嘆願に皆、落ちた。
(って、ちょっと待て)
「おい」
「何です?」
俺は簡易結界を張った。
「念入りですね。何ですか?」
「何ですかじゃねぇっ!! お前今『魅了』使ったじゃないかっ!!」
『魅了』――言葉のとおり、相手を魅了して言いなりにしてしまう魔法だ。
しかし習得が難しく、あまりモノにしている魔法使いはいないと聞いていたが。
(この子供が有能なのか、俺の知識が古いのか)
「だってしょうがないじゃないですか。あれだけの人数を普通に説得していったら時間がかかりますし、それに」
僕みたいな子供の言うことなんて真に受けてくれないでしょう?
聞いてふと気付く。
「ちょっと待て。それじゃあの宿屋のおかみさんは……」
普通ならこんな子供ひとりで泊まれるはずがない。
「あ、分かっちゃいました?」
てへ、と笑ったその顔にゲンコツを落としたくなったのは俺だけだろうか。
「まだだっ!!」
「第二防衛線まで下がれっ!!」
「援護はまだ来ねぇのかよっ!!」
「ああ? 騎士団の連中なんか、アテにしてんじゃねえよっ!!」
大きな破壊音にそれらの叫びが打ち消される。
「そっち言ったぞっ!!」
「ちっ、ちょこまかと!!」
現場は混沌としていた。
一応、防衛線として土嚢を積んでみたりしているものの、質より量で来られては敵わない。
「取り敢えず行きます。――ウィンド」
とたんに暴風が吹き抜け、ゴブリンの群れを吹き飛ばした。
「――サンダーボルトッ!!」
(何かどっかで聞いたような技名だなあ)
と俺が思う間にもコボルトの群れが消し炭と化した。
「凄いな」
「でしょう」
ふふん、と胸を張る様には先ほどまでの剣呑とした雰囲気は微塵もなく。
(落差が激しすぎる)
「何ですか?」
「いや、何でも。と、それより残りもこの調子なら楽勝だな」
俺としては身バレしたくないので、そう言ったのだが。
「まあそう上手く行けばいいんですけど」
そんなことを言いながらシュウが、拳大の氷を幾つもオークの群れ目掛けて放った。
(チートやん)
半ば引きながら静観していると、
「シキさんは参戦されないんですか?」
セイが非常に無邪気な瞳で聞いてきた。
「いえ、私は」
「叔父さんは目立つのは嫌いですから」
(そのフォロー要らんやつ)
「あんたら、何だか知らんが、目立つ目立たないとか言ってる場合じゃないだろう。何かあるなら、やってくれ」
近くにいた冒険者らしい男が近寄って来た。
(あ、腕が)
「ちょっ、ザックさんっ!! その腕っ!! 今救護班を呼びますねっ!!」
隻腕となった男を見て慌てたようにセイが街の方へ駆け出した。
(あれは利き腕か)
ざっと見た印象は、この稼業を何十年とやってきた中堅どころといったところか。
上着を裂いて止血に使っているようだが。あまり役に立ったとは言い辛い。
(目立ちたくないんだけどなあ)
サイクロプスを始末した熱線がやりすぎたのは分かったが、その後シュウしかいないのをいいことに手加減なしでやってしまったので、加減の具合が分からないのだ。
それまで魔物達に攻撃魔法を放っていたシュウがとことこと駆け寄って来た。
「結界、できますよね?」
こそっと、小声で聞かれ、
「街全体を覆うのか?」
「違いますよっ!! 誰がそんな大賢者クラスの技術を要求するんです!? もしそんなことをしたら貴方、大賢者候補として王都まで一直線ですよっ!!」
(それは嫌だ)
代々の魔法の記憶を紐解いてみたが、この国の王族に対してあまりいい感情は持てなかった。
(利権争いは仕方がないにしても、何でもかんでもこっちを悪役にしたいみたいだしな)
腹の一物をぐっ、と飲み込んで、
「じゃあ、どの位だ?」
「この防衛線を魔物が越えないような防壁、作れますか?」
「出来ないことはないが」
「お願いしますね」
「あ、おい」
(何かそれも凄く見えそうなんだが)
やりたくはなかったが、冒険者達の疲労と怪我が酷く見えたので、俺は出来るだけ端の方へ移動して、呪文を唱えるフリをした。
「大地の女神よ。障壁を。人の子以外は通すな」
(うわ、テキトーすぎだろ)
俺が唱え終わるのと同時に地面が盛り上がり、防壁に沿うように高さと厚みを増して行く。
高さは腰の辺りまでしかないが。こっそり俺の魔力も足してあるので、ゴブリン程度なら寄ってこないだろう。
「うおっ、何だこりゃっ!?」
「ゴブリンが散り散りになって逃げて行くぞっ!!」
先ほどまで苦戦していた冒険者達の間から戸惑いの声が上がる。
(成功かな)
コボルトもゴブリンも戻って行く。
一息ついている冒険者達の間から金髪の子供が掛けてくる。
「叔父さん?」
その子供とは思えない迫力に、
「はいっ」
気を付け、の姿勢で応じてしまった情けない大人は俺です。
「全く信じられませんよ」
携帯食を頬張りながらの台詞に、
「すみませんでした」
土下座する勢いで(いや、こっちに土下座の観衆はないいだが)俺は謝った。
あの後、王都の賢者でも応援に駆けつけてくれたのか、と興奮する冒険者達にとりなしてくれたのはシュウだった。
『叔父が本当にすみません。あの、叔父の出自は特殊でして。本来ならAランクどころかSランクの実力があるんですけど、この国ではできないんです。すみませんが叔父のことはただの吟遊詩人ということにしておいてくれませんか』
その上目遣いをしながらの嘆願に皆、落ちた。
(って、ちょっと待て)
「おい」
「何です?」
俺は簡易結界を張った。
「念入りですね。何ですか?」
「何ですかじゃねぇっ!! お前今『魅了』使ったじゃないかっ!!」
『魅了』――言葉のとおり、相手を魅了して言いなりにしてしまう魔法だ。
しかし習得が難しく、あまりモノにしている魔法使いはいないと聞いていたが。
(この子供が有能なのか、俺の知識が古いのか)
「だってしょうがないじゃないですか。あれだけの人数を普通に説得していったら時間がかかりますし、それに」
僕みたいな子供の言うことなんて真に受けてくれないでしょう?
聞いてふと気付く。
「ちょっと待て。それじゃあの宿屋のおかみさんは……」
普通ならこんな子供ひとりで泊まれるはずがない。
「あ、分かっちゃいました?」
てへ、と笑ったその顔にゲンコツを落としたくなったのは俺だけだろうか。
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