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「全く信じられませんね」


「だからゴメンって言っただろうっ!!」

「ゴメンで住むなら、騎士団や冒険者は要らないんですよっ!!」


その台詞とほとんど同時にロッドが構えられ、その先から雷が飛び出す。


「ガアァッ!!」


「……キマイラの丸焼きか。あまり美味しそうには見えないな」


「そういう貴方こそ、切り裂きすぎじゃないですか、そのオークキング」

言い合いをしながらも互いの技はしっかりと決まっていて。


(さっき、威力出しすぎですっ!! とか怒鳴っていたやつの術じゃねぇよな、これ)


半ば呆れながら、目ぼしい魔物を討ち取っていく。

自分も魔族なのだから、何か心にくるものがあるかと思ったんだが。

スタンピードの魔物はもともと少ない理性が更に焼き切れてしまうらしく、相対しても相手の思惑どころか、まるで俺のことさえ認識してないようだった。



「こんなものかな」

そう呟いてシュウがロッドを収めた頃には、辺りの地面は魔物の死骸で埋め尽くされていた。


(なーんか、いないんだよなあ)

スタンピードの源となるというボス的な存在が。


大概のスタンピードのはボス的な魔物に脅えた魔物達が暴走することから起きる。


(そのハズなんだが)


「どうしたんですか?」

俺が胸に浮かんだ疑問をぶつけると、


「確かにそうですね。この辺りにいた魔物はまあ、それなりには強いですけど。スタンピードを引き起こす程かと言われれば……」


「だろ?」


それからもう少し先まで行ってみようか、と話が纏まりかけたとき、聞いたことのない声がした。


「あっ、痛々しいっ!! シュウさーんっ!!」


振り返ると、かなり遠くだが人だと分かる影。


「俺、ちょっと抜けるわ」


一歩下がりかけた俺の腕をがしっ、とシュウが掴む。


「何言ってるんですか。ここまで来たんですから」


もちろん最後まで付き合って貰えますよね。


(疑問符がついてない笑み、って美形がやると子供でも迫力なんだが)


「うわあ、凄いですねっ!! さすがAランクですっ!! ……こちらの方は?」


(うおっ、けも耳っ!? 頭の上に耳がっ!? 犬? ついにけも耳……美少年、が……)


ガク、と内心落ち込んでいる俺の腕を取ったまま、シュウが場を仕切る。


「こういった場合はあなたが名乗るんでしょう?」


「あ、すみません。俺、いや自分はこの冒険者ギルドに所属している、Cランクパーティ『北の白狼』のセイといいます」


「……シキです。吟遊詩人をしています」


「吟遊詩人?」


不思議そうな顔をされてしまい、取り繕おうとした矢先、


「シキってば。本当そういうとこ謙虚なんですから。シキは吟遊詩人もしていますが、冒険者としての技量もなかなかのものですよ」


「やっぱりそうなんですねっ!! ちょうど良かったですっ!! ギルド長からの伝言をお伝えします!! 『そっちが片付いたら、至急街へ戻り掃討戦へ参加してほしい』以上ですっ!!」


「街の様子は?」


「それが――」


セイによると、街の人々の避難は終わったが、魔物の数が多すぎて苦戦しているらしい。


「騎士団はどうしたのかな?」


「……ギルドから早馬を出したんですが、俺が出るときにもまだ到着した様子はありませんでした」


「まあ仕方ないね。騎士の身支度ってのは時間がかかる上に、あそこの領主は慎重、というか普段からなかなか顔を見せないらしいしね」


「詳しいな」

「貴方を待っている間、時間があったので」


「そういう言い方――」



「え?」

「あれ、言わなかったかな。シキは僕の叔父さんなんだよ」


「えっ?」

「……おい」


(まだ生きてたのか、その設定)


「何です? 僕が『叔父さん』と呼んだら怒ったくせに」


(くそっ、やり辛ぇ)


「お取込み中、申し訳ないんですが、見た限りこの辺りの魔物は片付いたようなので、街の方へ加勢していただきたいのですが」



それを聞いてシュウが目で聞いてきた。


(どうします?)

恐らく俺の葛藤を感じ取ったのだろう。

それにボスクラスの魔物の件もある。

しかし――。


先ほどから気を探っているのだが、それらしいものが引っ掛かって来ない。


(どうなってるんだ?)


「そうだな。これ以上魔物の気配は感じ取れないし、行こうか」


俺がそう応じると間髪入れず、


「凄いですねっ!! そんなことが分かるなんて、さすがシュウさんの叔父さんですっ!!」


(あ、何かマズった)

あーあ、という視線を下からめっちゃ、感じるんだが。


「セイ。悪いけど、このことはあまり口外しないでくれると助かるな」

街へ向かいながらシュウが俺の出自についてあることないこと(とある貴族の妾腹だとか)吹き込んでくれたお陰で事なきを得たが、


「妾腹ってお前な」

「しぃっ、言われたくなかったのは分かりますが」


シュウの目線の先はセイの犬耳を指していた。


(ああ、獣人の聴覚は凄いんだったか)


「勝手に話してしまってすみません」

「別に構わないさ。あいつもそうおしゃべりじゃないだろう」


お互いかなり小声で話したのだが、その時かなり離れた位置にいたセイがくるり、と振り返った。


「すみませんっ、でも『事情』は言いかせんからっ!!」


(おおい)



ぺたん、と垂れた犬耳は保護欲を誘ったが、


(この距離でもアウト、ってやり辛いな……)


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