この想いは届かない

神崎 ルナ

文字の大きさ
上 下
7 / 8

7.

しおりを挟む
「我のものに手を出そうとしたのはお前か」


気が付いたときには体へ掛かっていた重みがなくなっていた。


「……やはり生きていましたか。しぶといですね」


何故かかなり離れたところから退魔師の声が聞こえた。

(何が……)


衝撃音がしたのは覚えている。


だが状況を把握する間もなく俺は抱き上げられた。


「やっと言ったな」


ご機嫌な我が主の顔が迫ってきて、俺は仰け反りかけたが出来なかった。


「不満か?」


明らかに不興を買ってしまったようだが、今の体の状態にこれはよくない。


「降ろし……」

「よくここが分かったものだな」


「退魔師を甘くみないでほしいですね。伝手はあるんですよ。あんたこそ、よくあの毒から生き延びたものですね」


ほっとしたとたん、再び体がおかしくなってきた俺としては降ろしてほしかったのだが、何やら始まってしまった。


(え、毒って)


「あの程度是非もない、と言えればいいのだがな。復活するのに手間が掛かったぞ」


「よかった。じゃないとミレイ達の犠牲が無駄になる」

(え?)


その瞬間退魔師が何か仕掛けようとしたらしい。


だがそれが何なのか俺は見ることができなかった。


「捕まっていろ」

そう告げると我が主が一気に跳躍したのだ。


「卑怯なっ!!」


「決闘と称して毒を用いる輩に言われたくはないなっ!!」


木々の梢を蹴りながらそう返し、俺を抱いたまま跳躍を繰り返す我が主はやはり人ではない。


だけど。


「どこか痛むか」

追手を巻いての休息中、心配そうに聞かれ俺は首を振った。



(俺は貴方を……)






「待っ……」


どうやら我が主はあちこちに隠れ家を用意しているらしい。


そのうちの一つに落ち着いたところで俺は寝室へ運ばれ、そのまま……。


(それはヤバいっ!!)


今俺の体は『飢え』でとんでもないことになっていた。


(とにかく止めて貰わないと)


我が主の顔を見た俺は動きを止めた。


(え……)


そこにあるのは激しい渇望。

「なん、」


「ようやく封印が解けたか」

(どういうことだ!?)


「お前は幼少のころから心の奥の感情が分かるのだったな」

俺の体を宥めるように抱きながら、


「だがそれでは人の世では生きていけぬ。故に我の名を鍵に封じておいたのだが」


まさかここまで待たされるとは思わなかったぞ。


(それってもしかして記憶が)


「いつから」


我が主はどこか楽し気に、


「始めは分からなかったな。何せあの復活は不完全だったしな。だがそれでも自分の手掛けた封印位は見分けがつくぞ」

なかなか我が名を呼ばぬのには参ったがな。


肌蹴られた上着の間から手が入り、次々と熱を広げていく。


「待っ、……ダメ、」


それだけで息が上がるが何とか言葉を捻りだすと不服げな青い瞳があった。


「なぜだ?」


俺は腰を浮かせて寝台の奥へ体を運ぼうとしながら、


「無理で」


言い掛けたところで捕まってしまった。

「何が無理なんだ?」

その間にも体を探る手は止むことなく、俺はあっという間に達してしまった。


(嫌だ……)


何とか息を整えようとしていると、

「これで何が無理なのだ」


不思議そうに言われ、既に露にされていた脚の付け根の方へ手が伸びる。

一度達してしまったため、余計力が入らない。


「あ……」

身体が反応し、声が漏れる。


(こんな、みっともないとこ)

見られたくないのに、と敷布を掴んでいるとその拳を解かれ、上から指の間に一本ずつ指を嵌められた。


「嫌がっているようには見えないが」

耳元で言われ、それだけでまた達してしまいそうになる。


「だめ……今みっとも、な……」


見ないで、と囁くように続けた時だ。

「何を言うかと思えば」

呆れたような言葉と共に一気に貫かれ、俺はそれだけで達してしまった。


(嘘……)

信じられない、というように青い瞳が見開かれる。


(嫌われた)


「や、だ」

伝い落ちる涙をそのままにしていると、

「痛かったか?」


「違っ、嫌われたくなくてっ」


「……どういう意味だ?」


「だっ、こんなっ、俺の体おかしっ」



いつもはここまでにはならない。




「……見ないで」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

【完結】聖女が世界を呪う時

リオール
恋愛
【聖女が世界を呪う時】 国にいいように使われている聖女が、突如いわれなき罪で処刑を言い渡される その時聖女は終わりを与える神に感謝し、自分に冷たい世界を呪う ※約一万文字のショートショートです ※他サイトでも掲載中

運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~

日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。 女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。 婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。 あらゆる不幸が彼女を襲う。 果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか? 選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!

【完結(続編)ほかに相手がいるのに】

もえこ
恋愛
恋愛小説大賞に参加中、投票いただけると嬉しいです。 遂に、杉崎への気持ちを完全に自覚した葉月。 理性に抗えずに杉崎と再び身体を重ねた葉月は、出張先から帰るまさにその日に、遠距離恋愛中である恋人の拓海が自身の自宅まで来ている事を知り、動揺する…。 拓海は空港まで迎えにくるというが… 男女間の性描写があるため、苦手な方は読むのをお控えください。 こちらは、既に公開・完結済みの「ほかに相手がいるのに」の続編となります。 よろしければそちらを先にご覧ください。

記憶の代償

槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」 ーダウト。 彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。 そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。 だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。 昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。 いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。 こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です

【完結済】聖女として異世界に召喚されてセックスしろとのことなので前の世界でフラれた男と激似の男を指名しました

箱根ハコ
BL
三崎省吾は高校の卒業式の当日に幼馴染の蓮に告白しフラれた。死にたい、と思っていたら白い光に包まれ異世界に召喚されていた。 「これからこの国のために適当に誰か選んでセックスをしてほしいんだ」と、省吾を呼び出した召喚士は言う。誰でもいい、という言葉に省吾はその場にいた騎士の一人で蓮にとても似ている男、ミロを指名した。 最初は蓮に似ている男と一晩を過ごせればいいという程度の気持ちだった。けれど、ミロと過ごすうちに彼のことを好きになってしまい……。 異世界✕召喚✕すれちがいラブなハッピーエンドです。 受け、攻めともに他の人とする描写があります。

本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~

日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。 そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。 ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。 身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。 様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。 何があっても関係ありません! 私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます! 『本物の恋、見つけました』の続編です。 二章から読んでも楽しめるようになっています。

処理中です...