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口を開いたのに、出てくるはずの言葉は音になることなく空気となって病室に溶け込む。
病室には私とステファンの一人だけ。
窓から漏れる陽に照らされるステファンの顔は、緊張しているのか、それともまだ体調が本調子ではないのか青褪めて見える。
沈黙が続く病室に唾を飲み込む音でさえ、ステファンに聞こえる気がした
ステファンと会うのはいつぶりだろうか?
最後に会った時のステファンの姿を思い出して、私はステファンに気付かれないようにドレスの裾を握る。
「私は…あなたのお母様に頼まれて来たの」
「母上に……?」
「そうよ。夫人は随分とあなたのことを心配されていたわ」
私がそう言えば、ステファンはグッと顔を顰めて、悲しげな顔をした。
夫人は一人息子のステファンをとても可愛がっていた。そんな息子が意識不明で発見され、まだ退院も出来ないなんて、心配で仕方がないはずだ。
裁判を終え、日常を取り戻しつつあった私の下に、ある日。手紙が一通届いた。
見覚えのある封蝋の手紙はステファンのお母様からのものだった。
その手紙の内容は、今までの出来事への謝罪の言葉と、身勝手だと分かっているけれどステファンに会ってくれないかという内容だった。
私のことも可愛がってくれていた夫人からの手紙に、何と返信したらいいか迷って数日を過ごしていると、夫人はわざわざ私の屋敷に来て、ステファンに会ってくれと頭を下げられた。
私は……そんな夫人の頼みを私は断ることが出来なかった。
意を決してステファンに会いに来たはずなのに……。
私はステファンに会うのが怖かった。会って、何と言えばいいか分からなかったから。
ベッドに横たわるステファンの足は、布団によって隠されているけれど、私がこの部屋に入ってからピクリとも動かない。
お父様からステファンの病態を聞いてはいたけれど、目の前で見るのと人から聞くのでは違う。
「……………大丈夫なの?その、足は……」
言葉を選びながら一つ一つの言葉を紡ごうとする私に、ステファンは私の言葉を遮った。
「やめてくれ……!もう嫌だ!君まで僕のことをそんな目で見ないでくれ!!!」
ステファンの大声に驚いて身体を震わす。
ステファンは優柔不断で頼りないけれど、優しい人だ。そんなステファンが声を荒げるところを見たことがない。
自分の手で顔を覆い隠して、すすり泣いているステファンを、私はただただ見ることしか出来なかった。
ベッドの横にある身体を支えるための木の棒。
足を使わずに移動することができる車椅子。
手を伸ばせば届く距離に置かれた物達。
ベッドから見える位置に置かれた新鮮な花。
この部屋は足が動かないステファンのための部屋。
人の優しさで溢れたこの部屋の主人は悲嘆にくれ、顔を隠して泣いている。
ベッドから出ている上半身は動いているのに、布団に隠れている動かない下半身を見て、私はやっとステファンの足が動かないことを受け入れることが出来た。
お父様からステファンの病態を聞いた時は驚いて、その言葉を信じることは出来なかった。
だって、ステファンが薬の後遺症で下半身付随になったなんて、誰が信じれるというの??
病室には私とステファンの一人だけ。
窓から漏れる陽に照らされるステファンの顔は、緊張しているのか、それともまだ体調が本調子ではないのか青褪めて見える。
沈黙が続く病室に唾を飲み込む音でさえ、ステファンに聞こえる気がした
ステファンと会うのはいつぶりだろうか?
最後に会った時のステファンの姿を思い出して、私はステファンに気付かれないようにドレスの裾を握る。
「私は…あなたのお母様に頼まれて来たの」
「母上に……?」
「そうよ。夫人は随分とあなたのことを心配されていたわ」
私がそう言えば、ステファンはグッと顔を顰めて、悲しげな顔をした。
夫人は一人息子のステファンをとても可愛がっていた。そんな息子が意識不明で発見され、まだ退院も出来ないなんて、心配で仕方がないはずだ。
裁判を終え、日常を取り戻しつつあった私の下に、ある日。手紙が一通届いた。
見覚えのある封蝋の手紙はステファンのお母様からのものだった。
その手紙の内容は、今までの出来事への謝罪の言葉と、身勝手だと分かっているけれどステファンに会ってくれないかという内容だった。
私のことも可愛がってくれていた夫人からの手紙に、何と返信したらいいか迷って数日を過ごしていると、夫人はわざわざ私の屋敷に来て、ステファンに会ってくれと頭を下げられた。
私は……そんな夫人の頼みを私は断ることが出来なかった。
意を決してステファンに会いに来たはずなのに……。
私はステファンに会うのが怖かった。会って、何と言えばいいか分からなかったから。
ベッドに横たわるステファンの足は、布団によって隠されているけれど、私がこの部屋に入ってからピクリとも動かない。
お父様からステファンの病態を聞いてはいたけれど、目の前で見るのと人から聞くのでは違う。
「……………大丈夫なの?その、足は……」
言葉を選びながら一つ一つの言葉を紡ごうとする私に、ステファンは私の言葉を遮った。
「やめてくれ……!もう嫌だ!君まで僕のことをそんな目で見ないでくれ!!!」
ステファンの大声に驚いて身体を震わす。
ステファンは優柔不断で頼りないけれど、優しい人だ。そんなステファンが声を荒げるところを見たことがない。
自分の手で顔を覆い隠して、すすり泣いているステファンを、私はただただ見ることしか出来なかった。
ベッドの横にある身体を支えるための木の棒。
足を使わずに移動することができる車椅子。
手を伸ばせば届く距離に置かれた物達。
ベッドから見える位置に置かれた新鮮な花。
この部屋は足が動かないステファンのための部屋。
人の優しさで溢れたこの部屋の主人は悲嘆にくれ、顔を隠して泣いている。
ベッドから出ている上半身は動いているのに、布団に隠れている動かない下半身を見て、私はやっとステファンの足が動かないことを受け入れることが出来た。
お父様からステファンの病態を聞いた時は驚いて、その言葉を信じることは出来なかった。
だって、ステファンが薬の後遺症で下半身付随になったなんて、誰が信じれるというの??
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